第343話
「さて、この場に皆を集めたことは、言っておきたいことがあるからだ」
食事を終え、別の部屋でシェリーの前にお茶と焼菓子が出され、子供たちも含め皆に集まるように言ったミゲルロディアの手には琥珀色の液体に満たされたワイングラスがあった。
「まずは、私のことだが、ナディア様がお認めになったということで、再び大公の座に就くこととなった。だか、この身は人外となってしまったため、外交等はオーウィルディアに任せる。わかったな。オーウィルディア」
「はい」
ミゲルロディアの同じローテーブルを囲むソファに座っているオーウィルディアは了承の返事をする。
オーウィルディアの向かい側にはナオフミとビアンカが座っているが、その子供たちは離れたテーブルでお菓子を食べている。本当なら、子供たちはこの場にいるべきではないはずだが、ミゲルロディアが子供たちもと言ったので、この場に連れて来られている。
シェリーはというと、ツガイ達と共に別の少し離れたテーブルの席に座っていた。正確にはリオンの膝の上にだ。
「次にナオフミ殿。シェリーミディアから聞いたが、国境沿いの黒き魔物の討伐に行っていたそうだが、それはどうなっている」
「シェリーミディアって誰や?そんな知り合いおらへんで」
ナオフミは知らない人物が己の行動を把握していることに、不快感を顕にする。
しかし、ナオフミの態度にこそ、ミゲルロディアは不快な表情を現す。
「何を言っている?お前は自分の子の名も知らぬのか?」
「子供?」
本当に思い当たりが無いと首を傾げるナオフミ。その横で、赤色のワインを口に含みながらビアンカがおかしそうにコロコロと笑い出す。
「ナオフミ、シェリーですよ。確かにナオフミからすれば、子供という感覚がないかもしれないわね。ふふふ」
「ああ、佐々木さんか」
そう言ってナオフミはシェリーの方に視線を向けた。普通の子供なら、親に対して怒りをぶつけるところだろう。己の子の名前も知らないのか、何がおかしいのか、と。
しかし、シェリーはそんなナオフミの方など視線を向けずに、食後のお茶を無表情で口にしている。
「ああ、それで黒い魔物のことやったなぁ」
シェリーがミゲルロディアに言ったとわかればナオフミは気を良くして、話し始めた。
「国境にいた黒い魔物は全部倒してしたでぇ。俺とビアンカの手にかかれば、一月もかからん。ササキさん、ちゃんとやったからこれでええやろ?」
シェリーはナオフミの問いかけには答えず、ミゲルロディアの方に視線を向け、自分からは話さないことを示した。ただ単にシェリーはナオフミと言葉を交わしたくないだけなのだが、この二人が顔を合わせてからの態度を見ていたミゲルロディアはシェリーの態度にも理解をし、ナオフミの言葉に答える。
「ナオフミ殿。それはやるべきことの一つだと聞いている。他にやるべき事をシェリーミディアから言われたのではないのかね。私としてはそちらの方が重要なのだが」
「他に何かあったかいなぁ?ビアンカ知ってるか?」
ナオフミは隣のビアンカに尋ねると、ビアンカは機嫌よく答える。
「国土の浄化ですわ」
「ん?それは俺のやることじゃないなぁ。ビアンカのやることやな」
にこにこと微笑んでいるビアンカは勿論と頷く。勇者ナオフミに浄化の力は備わっておらず、それは聖女であったビアンカがしなければならないことだ。
この二人のやとりに段々とシェリーはイライラが募って来ていた。今は話に混じらないことで抑えているが、口を開こうものなら罵倒を、いや刀を抜いて突きつけているだろう。ナオフミに。
『何、他人事のように話している!元凶はお前だ!』と
「なら、ビアンカ一人でやってもらおうか」
ミゲルロディアは己の妹に国土の浄化を一人でするよに言うと、隣のビアンカに『手つどうたるからな』と言葉をかけるナオフミ。その言葉にシェリーの中で何かが切れた。リオンの膝の上からゆらりと立ち上がり、カツカツと靴の音をさせながらナオフミの元に歩いて行く。
「コジマさん。手伝ってあげるとはどういうことですか?そもそもの原因はコジマさんですよね。コジマさんが率先してすべき事ではないのですか!」
シェリーがナオフミを責めるように言葉を放つが、当の本人はというと、にやにやしてシェリーに言う。
「佐々木さん。可愛らしゅう名前になったんやな。シェリーミディアやって?」
その言葉にシェリーが天板が白石でできたローテーブルを蹴り上げ、ナオフミに向かって投げつける。
「ぬぉ!これはあかんやろ。佐々木さん」
変な悲鳴をあげながらも飛んで来たローテーブルを片手で受け止めるナオフミ。
「ええ、とても良い名をいただきましたよ。ばあやとナディア様から」
名には不満はないがシェリーは怒りの表情をナオフミに向けた。
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