第305話

「持って帰るのか?別に構わないけど、それで何かあってこっちに責任取れとか言われても困るからな」


 ベンが嫌そうな顔をしながら言う。確かに大気から魔素を取り込んで、鎧に纏い出すというのは魔力切れを起こさないということだ。永久稼働が可能ということなのだ。


「言いませんよ。恐らくバラバラに分解されると思いますし」


「まぁ、そっちで処分してもらえると言うなら、別のやつを用意してやる。ヤバすぎて外に出せないヤツがあるからな」


 目の前のドラゴンの同等の魔力をまとった鎧より凄い鎧があるのか。ベンが言ったことにシェリーは呆れたようにため息を吐く。


「もしかして、ブラックドラゴンの素材で作りました?」


 シェリーの言葉に、ベンは嫌な顔をしながら頷くだけにとどめた。多分、作った当初に口に出せないようなことが色々あったのだろう。それにしてもそんな事を簡単にベンが決めてもいいのだろうか。


「あ、お二人の試し切りはその2体でお願いします」


 ベンは未だに刀を抜いたままこちらを向いているリオンと渡された剣を持ったままシェリーの側にいるオルクスに声を掛けた。


「ああ」


 どうやら、シェリーの所為ではないとわかったため、リオンは目の前で立ち上がっている武者鎧を見つめる。そのリオンが一瞬ブルリと震えた。龍人アマツの質を持った鎧の事を思い出したのだろうか。

 あまりにも力の差を見せつけられた龍人アマツ。


 抜かれた刀身に青い炎が纏わりつく青白い高密度の魔力だ。術でも技でもないただの魔力の塊。

 青い炎を纏いし刀を構えると、鎧武者がゆらりと動く。赤黒い色をした鎧が姿を消した。そして、リオンの後ろに現れ、拳を振るう。リオンはその拳を横に避けるが、地面に当たった拳が地面を破壊し、1メルメートルほどの陥没が足場にできた。


「あれさ、すごく既視感があるんだけど」


 グレイがリオンと赤黒い鎧が戦う姿をみて、遠い目をしている。


「あれにも疑似魂というものが入っているのですかね」


 人形ひとがたの姿で拳を振るうことができるということは、鎧自体が人形ひとがたであることを理解しているということだ。


「面白そうだな。今度は絶対に勝つ!」


 そう言ってオルクスは未だに箱に座っている青い鎧に向かって駆けていった。


「シェリーはどう思う?」


 カイルがシェリーに曖昧な問いかけをする。


「なにがです?」


「だたの防具があそこまで動けるのはどう思う?」


 そう、目の前の武者鎧はシェリーが作り出した擬似的魂が入りオリバーの魔術で動いているあの鎧共とは違うのだ。ただ、防具師が素材の全てを引き出そうとして、作り上げられた鎧に過ぎないのだ。


「はぁ。だから、呪いもどきと言ったではないですか」


 シェリーはため息を吐きながら言う。


「ドラゴンの残滓みたいなものが残っているのですよ。それが学習をしていると言えるのではないのでしょうか?あの技、ワルリスさんの技ですよね」


 拳を振るう鎧武者にシェリーは別の者の姿が垣間見えた。鎧武者は空手に似た体術を駆使してリオンに攻撃を仕掛けている。


「あ、わかったか?あの鎧を止めるのにワルリスに頼んだのだが、徐々にワルリスの姿を真似するようになってな。流石にこれ以上はヤバそうだと、呪具師に頼んで動きを封じてもらったんだ」


 シェリーは呪いもどきと言っているが、マジ物の呪いの鎧だった。


 避け続けていたリオンが青い炎をまとった刀を振り下ろすと鎧武者の腕が吹っ飛んだ。傷口は青い炎に包まれ徐々に侵食していっている。

 そして、横に一閃に青き炎が走ると鎧武者は斜めに倒れ崩れていった。


「凄いな」


 刀を見ながらリオンが発した言葉だ。その横ではオルクスが鎧を細切りにしていた。いつか見たシェリーが鎧を切り刻んでいた状態に近かった。そのオルクスの剣は鈍色に光ったままだった。


「んー軽いな。物を斬った感覚があんまりないな」


 ベンが説明していたように剣が軽いようだ。それがオルクスにとっては不満のようでもある。


「何だ。不満か?」


 炎王にペコペコし続けていたファブロがオルクスに聞いてきた。


「んー。イヤ別にいんだけど、なんでこんなに軽いんだ?」


「その理由はもうすぐ分かるはずだ」


 ファブロがそう言った瞬間。オルクスの剣がバシッと音を発した。


「それを抑えて主と認めてもらうよいいぞ」


 オルクスの剣が自然と雷電を発している。そして、先程まで片手で剣を持っていたオルクスが両手で剣の柄を持ち、その剣の重さに耐えきれないかのようにも見える。


「へー。なんかよくわからいけど、面白そうな剣だな」


 オルクスが嬉しそうに目を細めて笑った。




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