第296話
「これが、時間経過スキルの結果なのか?こんな怖ろしいものだったのか?」
「『オーラの指針』。視ていただければわかると思われますが、アフィーリアに称号が追加されています。それで炎王」
シェリーの言葉に炎王はアフィーリアの方に目を向けた。炎王も確認したようで『指針?』と首を捻っている。
「本当ならオーラ様を捕まえて、祝福の緩和をお願いしたかったのですが、ルーチェ様に邪魔をされて、逃げられてしまったのですよ」
「は?光の神が邪魔?逃げられた?」
「ですから、神の愛し子という方に何を言ったのですか?この加護を制御できる何か言ったのですよね」
「ちょっと待て!意味がわからない言葉が出てきたぞ。光の神が邪魔とはなんだ?」
炎王は待ったを掛けてシェリーの話の詳細を聞いてきた。きっと頭の中ではハテナが飛んでいるのだろう。
「そのままです。オーラ様と捕らえたのに「そこ!」」
シェリーは言葉を遮られ、炎王に呆れた目を向ける。人の話を最後まで聞けと言わんばかりに。
「神を捕らえたとは何だ?触れられるものなのか?いや、そもそも普通には存在していない」
「私これでも聖女ですので」
シェリーは真顔で答える。
「いやいや、それで説明できないだろ!」
シェリーはため息を吐く。そして、ある場所を指し示した。
「そこで、ニコニコとこの場を眺めているルーチェ様を引きずり出してもいいのですよ」
「は?引きずり出す!」
炎王は立ち上がり、シェリーが指し示した場所を見るが、そこにはただ壁があるのみ。皆の視線もその何もない空間に向けられる。
そこにはシェリーの目にしか映っていない女神ルーチェがいるのだが、少し困ったような顔をして微笑んでいる。
「いや、その前に降臨を願うのが普通じゃないのか?」
シェリーは女神ルーチェに向けていた視線を炎王に戻す。
「そんなことで応えてくださるのは、お優しいルーチェ様ぐらいでしょう。炎国は恵まれていてよかったですね。それで、話を戻してよろしいですか?」
「あ、いや「よろしいですね」ああ」
強引に話を進めようとするシェリーは、視線で炎王に座るように促す。そして、未だに天板の上で発泡する物体を指した。
「これ、困るのですよ。多分全て料理するものがバブルスライムになります。どう、コレを制御したのですか?」
「サッテリーナ······いや彼女は時間経過を制御できていた。1時間だろうが、2じ····
女神オーラの愛し子はそもそもスキルとして使いこなしていたようだ。その話を聞いたシェリーはアフィーリアの方に向き
「アフィーリア。その加護を使いこなすことから始めようか」
と言うが、言われたアフィーリアはよく分かっていないのか首を傾げている。
その日は物をバブルスライム化しないようにと、言うことだけに留めて、シェリーは水屋を後にした。これはもう、料理を教える以前の問題だった。
今まで、アフィーリアを教えていた人も安心したことだろう。アフィーリアの作り上げる物がことごとく、毒沼如き食べられるものでは無かったのだ。それが、教えていた側の所為ではなく、アフィーリア自身の問題だったのだから。
「佐々木さん」
炎王に呼び止められたシェリーは足を止め振り向く先には、この国を作り上げた龍人の炎王がおり、その隣には目には見えない姿の女神ルーチェが微笑みながら立っている。
この国の礎になった王と女神の姿。黒を纏う王と金に輝く女神。
シェリーにしか見えない光景だ。
「なんです?」
「昨日のリリーナの態度はすまなかった。あのあとリリーナに説明はしたのだが、納得はしてくれなかったんだ」
炎王は困ったようにため息をつく。
「別に謝る必要はありませんよ。私の母親もそうでしたから、あのような態度を取ることぐらい理解していますから」
「あ、いや·······」
炎王はシェリーの答えに言いどもってしまった。その横では困ったわというふうに頬に手を当てて首を傾げている女神がいる。なぜ、女神ルーチェがここにいるのだろうか。
「はぁ。陽子さんの言ったとおりなのか。リリーナのことは謝罪を受け取ってくれないか?」
「受け取るぐらいかまいませんが?」
シェリーは淡々と答える。謝罪を受け取る気があるのかと思ってしまうほど、どうでもいい感がありありと出ていた。
「あ、うん。その態度····いやいい。10日はアフィーリアの事を見てくれないか?俺では気がつく事が出来なかった。ありがとう。そのことも合わせてお詫びに欲しい物があるなら考えておいてほしい」
それだけ言って炎王はアフィーリアのいる水屋に戻って行った。いつの間にか炎王の隣にいた女神ルーチェも消えていた。
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