第295話
「意地悪じゃと!」
アフィーリアは怒ったようにシェリーの言葉に反応する。この炎国を守護している女神ルーチェを貶す言葉だ。
「意地悪じゃなければ、力を見せびらかしたかった?」
「ルーチェ様が凄いのは誰もが知っておるのじゃ!」
そんな当たり前な事を言っているアフィーリアを無視して、シェリーは部屋の隅で頭を床に付けてひれ伏している鬼の女性に向かって声を掛ける。
「そこの鬼の方、炎王を呼んで来てもらえますか?」
シェリーは声を掛けたが、鬼族の女性はふるふる震えながら答えない。やはり光の女神の神気が強すぎたのだろう。
「はぁ。リオンさん、炎王を呼んで来てもらえます?来ないなら、アフィーリアが作ったバブルスライムを口に突っ込みますと言ってください」
鬼族の女性が使えないのなら、顔色は悪いが、立ち上がっているリオンに頼むことにした。この国で王族であるリオンをパシリに使おうとしているのだ。
その言葉を聞いた鬼族の女性は顔を上げ、口をパクパクしているが、言葉になっていなかった。
「初代様をか?」
「そうです。それ以外に誰を呼ぶというのです?ああ、リリーナさんも来てもらっていいですよ」
シェリーは普通に炎王と呼んでいるが、この国で炎王といえば、5代目の炎王を指すのだが、シェリーの頭の中には全くもって入っていない。
「それで、バブルスライムとはなんだ?」
今まで聞いたことのない言葉を言われたリオンは番であるシェリーの言葉を炎王に一言一句間違わずに伝えるために確認をする。
その質問にシェリーは天板の上にある未だにボコボコと泡を発するクッキーという名のバブルスライムを指し示した。
「粘液状の毒属性の生物です」
元は小麦粉でしかない物だが、オーブンから出して冷めているにも関わらず未だに発泡している粘液状の物は生物と言っていいのではないのだろうか。
指し示された物体を見てリオンは青い顔が更に白くなりながら頷き、水屋から出ていった。
「バブルスライムってなんだ!」
水屋の扉を開けた瞬間に、そう言い放った炎王が入ってきた。てっきり番であるリリーナが付いてくるかと思われたが、一人でここに来たようだ。
シェリーは奥のテーブルでシェリーが作ったクッキーでお茶をしていた。カイルの膝の上に座らされているが、その隣にはべったりとくっついたアフィーリアがいる。
「炎王。はぁ、オーラ様の愛し子に何をしたのですか?」
シェリーは炎王の質問に答えず、端的に聞きたいことを口にした。炎王はカツカツと中に入って来てシェリーの向かい側の椅子に座る。その後ろからは炎王を呼びに行っていたリオンが続いて入ってきた。
「どこからバブルスライムが出てきた?」
「オーラ様の愛し子に何をしたのです?」
互いが同じ質問を繰り返した。いつものことだ。互いの言いたいことは言っておく。腹の探り合いはしない。
「バブルスライムですか。こちらに持ってきてもらえますか?」
シェリーは控えている鬼族の女性に声を掛ける。時間が経ったことで、当てられた神気から復活できた女性は、天板を嫌そうに持ちながらこちらにやって来た。
その姿を不審そうに炎王は見ている。そして、天板をテーブルの上に置かれた。もちろんそのときにはテーブルの上は片付けられていた。
「マジでバブルスライム」
天板の上の発泡する粘液状の物体をみて炎王は声をもらした。
「俺は料理を教えてやってくれと頼んだはずで、バブルスライムを作るようにとは言ってないが?」
最もなことを炎王は言っている。依頼者としては依頼反故と言っていい事柄だ。
「それで、オーラ様の愛し子に何をしたのです?」
「俺の質問の答えは?」
「だから、それが答えです」
シェリーの言っている意味がわからず炎王は唸っている。考えているようだが、思い当たる事が無かったようで
「悪いが心当たりがない。そもそもオーラとは誰だ?」
そこからだった。女神オーラの愛し子に何かしらしたと思われる炎王がオーラ神の名を知らなかった。
「時を司る女神の名です。以前その愛し子に何かをされたのでは?」
そうシェリーに言われ、再び炎王は唸り始めた。『時?とき?時間?』なんて言葉を漏らしている。その時に何かを思い至ったのか、ハッとした顔をしてシェリーを見た。
「サッテリーナ!時間経過スキルか!」
「誰かは知りませんが、心当たりがあるようですね」
「それがどうした?」
シェリーは横にいるアフィーリアを見る。リオンが戻って来たとで、祝福の影響はなくなり、姿勢を正して炎王の方に視線を向けている。
「アフィーリアがオーラ様の加護を受けています。その所為で、バブルスライムが出現してしまいました。炎王、その愛し子の方に何か言われたのではないのですか?力の使い方などの事を」
「は?加護でバブルスライムが出来上がるなんて聞いたことない····いや」
炎王は何かを思い出しているのか斜め上の方に視線を向けている。
「確か物を腐らすだけのスキルって言っていたか」
そう言って炎王は思わず天板の上の物体に視線を向け、項垂れるように頭を抱えた。
「マジで?」
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