第287話

「くくくっ。魔力を普通の剣にか。昔やって失敗したな。ふっあははは!」


 円卓を囲んでお茶を飲んでいる炎王のツボにハマったのか、大いに笑っている。

 何故炎国に来たのかと問われたので、その説明を原因であるオルクスとリオンに任せたのだ。


「昔。エンも剣がボロボロになったっていっていたの」


 炎王の横では抱えるほどのアイスをスプーンで掬って食べているが、そのスピードが異様に早い。先程食べ始めたにも関わらず、もう半分は食べきっている青白い髪の少女が座っている。


「魔道具ではないものに魔力を通すなんて馬鹿のすることですよ」


 アイスを食べている反対側には緑白の髪の女性がお茶を飲んでる。


「それも昔言われた。くくく」


 精霊の少女と妖精の女性から言われた言葉に炎王は笑って答える。


「まぁ。リオンも番様の側でお役に立とうとしたのですから、そのように笑わなくてもよろしいのでは?」


 炎王の膝の上には鬼族の女性が座っている。約一月ほど前シェリーが治療したリリーナだ。

 炎王の側には番であるリリーナの他に精霊の少女と妖精の女性がいる。それは炎王もリオンに寛大な心を持つように言うはずだ。

 しかし、きっとこの世界の者たちから見れば異様な光景なのだろう。


 いや、この部屋の光景自体が異様なのだろう。炎王と3人の女性にシェリーと5人のツガイ。第三者から見れば恐ろしい光景に違いない。現に部屋の隅で控えている鬼族の女性の視線が漂っている。


「佐々木さん。10日も時間があるならアフィーリアを見てくれないか?」


「は?私にメリットがありません」


 カイルの膝の上に座らされているシェリーが答える。


「エルトのダンジョンマスターに口添えしてやってもいいぞ」


「···」


「エルトの碑文を見に行くのだろ?一度そこまで直通の道をダンジョンマスターに作ってもらったことがある。俺がここでその言葉を言ってもいいが意味がないだろ?」


「見たのですか?」


「随分昔のことだ。言っておくが俺宛の物はあそこには無い。俺はダンジョンに入ると問題があるからな。それにエルトまで転移で送ってやってもいい」


 これはメリットが大きすぎる。最悪ダンジョンを攻略しなくても裏ダンジョンの最深部まで行けると炎王は言っているのだ。


「これはこれで条件が合わない気がします」


 シェリーのその言葉に炎王は遠い目をする。


「アフィーリアに指導できる者が居ないんだ。わがまま姫で通っているからな。アフィーリアが強く出れば皆何も言えなくなってしまうんだ」


 ああ、アフィーリアのわがままを押さえつけて、指導するという条件が加わるのか。いや、教え方を考えなければならないということか。


「10日という条件で受けます。そう言えば帝国の者たちの動向はあれからいかがですか?」


「何度かフィーディス以外の商船に入港申請を言われたが、全て跳ね返している。あとザックから何度か商船が襲撃を受けていると報告が上がってきている。キョウがいるから対処ができているらしいが、これも何とかしなければならないと思っている」


 ギラン共和国と炎国を繋ぐ商船を運行している二人の名が上がってきた。商船を乗っ取って入国しようとしているのか。そこまでして、光の巫女が欲しいのだろうか。


 シェリーは少し考え、炎王を見る。


「光の巫女のどなたかとお会いすることはできますか?」


「佐々木さんなら構わない。10日の間に会えるようにしておこう。そう言えばさっきリオンが言っていたファブロが剣神の加護を持っているとは本当か?」


「ええ、剣神レピダ様です。あと火神プロクス様です」


「は?2柱から加護をもらっているのか?」


「そうでなければ10日で2本の剣を打つことはできないでしょう。というか、炎王も他人のステータスぐらいみれますよね」


 本当に何を言っているんだとシェリーは呆れた視線を炎王に向ける。以前シェリーのレベルを言い当てたということは他人のステータスを見ることができるという事だ。


「いや、称号は見れるが、それがどの神から与えられたものなんて普通はわかりはしないだろう?」


「エンさん、普通は他人のステータスは見れませんよ」


 妖精の女性に普通という概念を訂正されている。ということは炎王は己の称号を誰が与えたかはわからないということか。あのウエール神が炎王に近づけないと言うだけのことはあるのに、その本人が分かっていない。


「いや、それはわかっている。ん?どの神から?今、思ったが称号を与える神は一柱じゃない?あの、神が与えてるわけではない?」


 今更な疑問を呈された。シェリーは答えず出された緑茶を口に含む。


「佐々木さんは俺の称号がどの神から与えられたものかわかるのか?」


「わかりますが、答えるのが馬鹿らしいので教えません」


「意地悪言わないで教えてくれないか?」


 今までわからなくても問題がなかったのだら、いいのではないのだろうかとシェリーは答える気のない視線を炎王に向ける。


「なんでしょうか····」


 炎王の膝の上に座っているリリーナがシェリーを睨んできた。


「今までお仕事のお邪魔をするようで、気が引けてご一緒することはありませんでしたが、仲が良すぎませんか?」


 炎王の番であるリリーナがシェリーと炎王の仲を疑う発言をしてきたのだった。

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