第288話

「普通だ」

「普通です」


 リリーナのシェリーと炎王の仲を疑う発言に対し、炎王とシェリーは同じ答えを返した。


「それです。それ!お二人で申し合わせたかのように同じ答えですし、お二人にしかわからないお話をお二人だけで理解して進めてしまわれるのは、何故ですか!わたくしには全く理解できませんのに!」


 リリーナがそのような事を言っているが、シェリーとしてはこの話も一部交渉が入っているので、仕事の話といえば仕事の話になるのではと思っている。それに理解できないのは視ているものが違うので仕方がない。


「それは俺も思うことだ」


 カイルがリリーナの言葉に理解を示した。


「確かにそれは思う」

「二人しかわからない事をよく話していますね」

「取引き内容も二人にしかわからないことだったりするよな」

「仲が良すぎるとは思う」


 シェリーのツガイの5人にも言われてしまった。そこまでおかしな話はしていない。互いが互いの利になる事を示しているだけだったりする。雑談をすることはあるが、それは本当にどうでもいいことだったりする。


「別に物や情報を交換するだけの関係だ。それ以上でもそれ以下でもない」


 炎王はシェリーとは取引の関係以上のことはないときっぱり断言した。シェリーもその言葉に納得し、頷いている。


「しかし、炎様。長年共にいるわたくしより、そこの者のほうが話がわかるなんてずるいです」


 リリーナはシェリーを睨んだまま円卓を叩いて不満を表す。


 しかし、話がわかるわからないと言ってもまだこの世界の事の話しかしていないので、モノの見る視点を変えればわかるようなことではあった。ただ単にリリーナが嫉妬しているだけとシェリーは考え、シェリーがこの事に関して口を出すことはないと、茶菓子を手に取る。

 今日出された茶菓子は羊羹だった。緑茶より抹茶の方が良かったなとシェリーは思いながら、竹の楊枝で切り分け一口食べる。

 ···あの老舗羊羹屋の羊羹?


 リリーナに何か言い訳事をしている炎王にシェリーは口を開く。


「炎王、後でこの羊羹を一本ください」


「ん?味は何がいい?」


「普通に小倉がいいです」


 シェリーは普通に小豆の味を楽しみたかったので、今食べている黒砂糖の独特の風味がある物より小倉を選んだ。


「オグラとは何ですか?」


 リリーナが聞いてきた。小倉が何かと問われても、首を傾げてしまう。


「大納言を使った羊羹?」


 特に今まで考えたことの無かった事を問われても困ってしまう。でも、小倉アイスもあるなぁと頭の中に浮かんだ。


「小倉アイスも美味いよな」


 炎王も同じ事を思ったのか、そんな事を言いながら、空中で何かを操作している動作をしている。


「また、そうやってお二人しかわからない事を言っているではないですか!」

「エン!ヴィーネ、オグラアイスが食べたい!」


 リリーナはまたシェリーを睨みつけて来た。いらないことを言ってしまったとシェリーはおもわず、ため息を吐く。こればかりは仕方がないと受け入れてもらうしかない。


 小倉アイスが食べたいと言った少女は、先程抱えるほどのアイスを食べたばかりなのに、新たなアイスを受け取っている。


「リリーナさん。こればかりはそういうモノだと思ってもらった方がいいと思います」


 そう言ってシェリーは一口緑茶を口にする。しかし、リリーナからしてみれば受け入れられる事ではなく。


「炎様と貴女が分かって、わたくしがわからない物があるなんて、ずるいじゃないですか!わたくしは炎様の番ですのに!」


 不服そうなリリーナを目に映したシェリーはまたため息を吐く。


「はぁ。魂の在り方が違うのですから、元から持っているものも、視えるものも違うのです。それを共有できる存在が居るというなら、えにしを絆ごうと思うでしょう?」


 シェリーはリリーナから炎王に視線を移して問いかける。


「エン・グラシアールとして生きてきて、ここ数十年はどうですか?黒狼のクロード・ナヴァル。彼に刀を与えたのは貴方にそれなりの思いがあったからですよね。」


突然シェリーはクロードの名前を出した。クロードから龍の旦那と呼ばれていたのだ。それなりに親交はあったのだろう。


「ああ、彼が紅玉の君だとわかったからな。戦地で命を落とす彼に何かをしてやりたかった」


「陽子さんのところにも何かと理由をつけて行っているのもそうですよね」


「そうだな。ダンジョンマスターはとても孤独だ。外の世界に憧れを抱くユールクスと強制的に外の世界から隔離されたロロを見て、陽子には彼らのようになってほしくなかった。それにシェリー・カークス。君たちと会って満たされたのも確かだ。」


「そ、そんな」


 炎王の言葉に傷ついたリリーナから悲痛な声が漏れた。



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