第246話

 シェリーはユーフィアと連絡を取るために部屋に戻ると言ってダイニングを出た。ちょうどその時玄関から扉のドアノッカーを叩く音が響いてきた。

 今日は誰かが来る予定もないし、訪ねて来るにしても早すぎる時間だ。


 シェリーは玄関に行き扉を開けると見たことがない男性が立っていた。金髪に青い目の人族に見える。アンディウムと同じ軍服であることから第2師団の者なのだろう。


「何か?」


 シェリーがここに来た要事を尋ねるも返事がない。シェリーを見たまま固まってしまっている。


「何の要件があるのでしょうか」


 再度、目の前の人物に聞いてみた。すると、その者は姿勢を正して


「結婚前提にお付き合いしてください!」


 と言ってきた。シェリーは怪訝な表情になる。

 朝早くから来て、いったい何を言っているのだと。


 朝から意味のわからない事を言われたので、そのまま扉を閉めようとしたとき、シェリーの横からの手が伸びて来て男性は胸ぐらを摑まれた。


「俺のシェリーに何を言っているんだ?」


 手の主はオルクスだった。起きて一階に降りてきたところに、この状況に遭遇したのだろう。


「オルクスさんの、という意味がわかりません」


 シェリーはきちんと否定をしておく。そんなシェリーをオルクスは見てニコリと笑い。


「シェリーは中に入っていて良い」


 そう言って中に入るように促す。しかし、そこに割り込んで来る声がシェリーを引き止めた。


「待て待て、聞きたいことがあるんだ」


 シェリーは声のする方を見れば、第6師団長のクストが早足でこちらに向って来ていた。


「悪い。そいつはこっちで引き取る。俺が着くまで待機していろって言っていたんだが、すまなかった」


 クストがオルクスに胸ぐらを掴まれたままになっていた金髪の男性の肩を掴んで、引き戻そうするが、オルクスは手を離そうとしない。


「それで聞きたいこととは何ですか?」


 シェリーはクストとオルクスの攻防を無視してクストに尋ねる。わざわざ朝早く、それも他師団同士が示し合わして、ここに訪ねて来たのだ。よっぽどの事があったのだろうか。


「取り敢えず手を離せ」


「断る」


 しかし、シェリーの事を無視して言い合っているようなので、シェリーは中に戻る為に扉を閉めようとする。


「ちょっと待て!聞きたいのは昨日のことだ」


 慌ててクストがシェリーを引き止める。シェリーは人一人分の隙間を開けたまま


「ダンジョンへ行く許可はルジオーネさんからもらってください」


 ボソリと答える。昨日の帰り際は確かダンジョンの話をしていたはずだが、シェリーは関係がないと副師団長のルジオーネに押し付ける。


「それじゃ無い」


 それではない・・・と言う事は


「クロードさんの事が露見したと?使えない」


「だから、違う!昨日の夜、何をしていた!火事だと通報があったり、地響きが鳴り響いていただろ!何があった!」


 ああ、昨日の鎧のしでかした事らしい。それがなぜ第2師団の者と第6師団長が共に来ることになるのだろう。


「・・・」


「何故、無言になるんだ。言えない事でもあったのか!」


「いえ、なぜ師団が違うのに一緒に来たのかと思いまして」


「あ?第2層は第2師団の管轄だが、どうも嬢ちゃんのところが元凶らしいと分かったら第6師団に対応を回されたんだ。一応形だけでもって事で第2師団の第3部隊長を引っ張って来たんだが、何でお前は胸ぐら摑まれてながらデレデレな顔になっているんだ?気持ち悪い」


 どうやら、祝福の悪影響が出ているらしい。クストが事情を説明している時に、ふと、第3部隊長と呼んだ男性を見て思わず距離を取っていた。

 オルクスもその状態に気がついて思わず、男性を門の外まで投げ飛ばす。シェリーが視界に入らない距離を確保したのだ。


「あれは、門の外に待機しているヤツに任せるとして」


 クストは改めてシェリーに問う。


「それで、昨日の夜に何があったか話してもらおうか」


 それに対してシェリーは答えずクストに条件提示をした。


「今からユーフィアさんに手紙を持って行ってくださるのなら、お話してもいいですよ」


「おい、今回の事とユーフィアは関係ないよな」


「ええ。関係無いですよ。いつもなら郵送するのですが、急遽予定が決まりましたので、早めに連絡を取りたいと思っていたところに、師団長さんが来てくださいましたからツイていますよね」


 いつもなら番であるユーフィアに会わすことをクストは拒否るのだが、少し考えるようにして、シェリーに答える。


「手紙の内容による」


「先日の薬の件ですよ。話し合いの場ができましたので、ユーフィアさんも如何ですか?というお誘いです」


 薬の件。それはユーフィアができたと言ってわざわざシェリーのところまで持ってきた呪いのような病を治す薬のことだ。


「おい!待てそれはもしかして4日後の話ではないだろうな!」


「もちろん4日後の話です」


 4日後と言えばエルフが聖女に会ってやろうという日の事だった。それにユーフィアは全く関係ないと思われたが、シェリーはその場にユーフィアを誘うつもりのようだ。


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