第247話
「嬢ちゃん、どういうつもりだ。」
クストはシェリーの睨み、ユーフィアをその場に誘う意味を問うが、その間にオルクスが入り込む。元々一人分の隙間しか扉を開けていなかったので、シェリーの姿は完全に見えなくなってしまった。
「どうもこうも、薬の件でユーフィアさんも立ち会うべきではと思っただけです。ユーフィアさんの愁いが少しでもなくなるのではと思ったのですが?」
声だけしか聞こえないシェリーにクストは納得したように頷き
「そうか」
と呟いた。そして、一つため息を吐き言葉を放つ。
「手紙はユーフィアに手渡す。だから、さっさと昨日の事を話せ」
「大したことはないですよ。手合わせをしていただけです」
シェリーの声だけが淡々と聞こえてきた。しかし、その返答にクストのコメカミがピクリと動いた。
「手合わせだぁ?そんなことで火事騒ぎになったり、地響きが響き渡らないだろう!」
「英雄アマツをご存知ですか?」
「・・・知っているも何も獣人をエルフの悪政から解放した英雄だろう?それが何の関係・・・まさか爺様と同じ様に英雄アマツを蘇らせたのか?」
流石にクストは英雄アマツの事を知っていたようだ。
「蘇らせたわけではないですが、同じ様なものです」
「あー。なんて報告をすればいいんだ。説明出来ないじゃないか」
「説明する必要があるのですか?」
「どこが無いと判断できる要素があるんだ!王宮からでも火の手ははっきり見えたし、断続的に地響きが第1層と第2層で響き渡ったんだぞ!あれだけ大騒ぎだったのに、凶元のここに来ても誰も出てこないし、いい加減にしろ!」
「別に被害はなかったでしょう?問題ないですよね。あと、この手紙をユーフィアさんに渡してください」
オルクスの横からシェリーの手が伸びて来て、その手には一通の封筒があり、クストがいる方に差し出していた。
シェリーにとってはどうでもいい話だったので、オルクスの後ろで、さらさらっとユーフィアへの手紙を書いていたのだ。
「問題ありだ!」
「そうですか?別に怪我人も死人も出ていませんし、火が燃え広がったわけでもありませんので、そこまで言われる理由はわかりません。と言うことで帰ってください」
そう言ってシェリーは扉を閉める。玄関の外には苛立った様子のクストとそれを見ているオルクスが残された。
「なぁ。あんたはその英雄と言われたヤツと戦って勝てるか?」
オルクスは閉じられた玄関扉を見ているクストに尋ねる。その言葉にクストはオルクスを目つきの悪い目で睨みつけ
「あ?そんな会ったこともないヤツの事を言われても知らん」
確かに正論だ。英雄アマツは千年以上前の人物なので、普通は会うことはできない。
「じゃ、昨日のクロードってやつはどうだ?」
「爺様に勝てるはずないだろ。言っておくが昨日のは手加減されてアレだ。本気なら黒い雷撃の嵐だ。それで、胴体を咥えられて終わりだ。」
クストは遠い目をして何かを思い出すように言葉にする。きっとクロードが生きている時に何度もされてきたのだろう。
「それで昨日は本当に何があった?」
再度クストは尋ねた。今度はオルクスに
「残念ながら、昨日はあんたが爺様と呼んでいるヤツにボコボコにされたから俺もわからん」
「そうか。それは大変だったな」
「だが、多分鎧の「オルクスさん」」
オルクスの言葉をシェリーは遮るように扉を少し開けて名を呼ぶ。呼ばれたオルクスは尻尾をピンと立てて振り向く。
「どうした?」
「朝ごはん食べないなら片付けていいですか?」
「食べる!」
そう言ってオルクスはさっさと扉の中に入って行った。その扉を閉めながらシェリーはクストを見て
「手紙、絶対に渡してくださいね」
そう言って扉を閉めた。ただ一人扉の前に残されたクストは首をひねりながら呟く。
「ヨロイ?何のヨロイだ?」
─ダイニングにて─
「誰が来ていたんだ?」
食事が終わったのかお茶を飲んでいるグレイがダイニングに入って来たオルクスに聞いてきた。
「ああ、青狼の団長だ。昨日の夜の事が問題になっているらしい。何があったんだ?シェリーは問題ないって言っていたけど」
「後で、裏庭を見てくるといい。何がどうなって、あの状態になったかはわからないが、問題に上がるのもわかる」
リオンがため息を吐きながら言った。
「ふーん。そう言えば、シェリーの星の神の祝福だったか?それの影響を受けたヤツを初めて見たが、あれやばいよな」
オルクスは席に座りながら、先程のシェリーを目の前にした第2師団の隊員の事を話す。その言葉にカイル反応しオルクスに尋ねる。
「それいつの事?」
「ん?さっき」
「どういう事?俺たちはここにいるのに?」
その言葉にグレイとリオンはハッとなる。この屋敷内にシェリーの番は揃っているのに、玄関に出ていったシェリーに対して祝福の影響が出ているなんて
「もしかして、祝福の効力はとても強いってことか?」
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