21章 聖女と魔女とエルフ
第245話
シェリーが憂さ晴らしで龍人アマツの鎧をボコボコに破壊した翌朝、シェリーが目を覚ますと・・・今日はカイルか。後ろからの圧迫感がない事から、シェリーの部屋にはカイルしかいないようだ。クロードによって痛めつけられた4人はまだ休んでいるのだろう。
「シェリー。おはよう」
カイルはニコニコと笑っているが、シェリーはいつも通り無表情で
「おはようございます」
と返す。カイルはシェリーに口づけを落としながら尋ねる。
「今日はどうするのかな?」
「今日ですか。ユーフィアさんと連絡を取ってから陽子さんのところに行くぐらいですか」
「ヨーコさんなら呼べば来てくれるんじゃないのかな?」
確かにカイルの言う通り、シェリーが声を掛ければ陽子は答えてくれるであろう。しかし、シェリーはため息を吐きながら言う。
「はぁ。昨日のニールさんからの依頼に薬草の採取がありましたので、そこで済ませます」
昨日ニールからシェリーは10件の依頼を受けていた。そのうちの一つに薬草採取の依頼があったようだ。しかし・・・
「あれって東の森の依頼だったと思うけど、それもエトワール草って夜にしか採取できない薬草だよね。あのダンジョンにあるってこと?薬草なんて見たことないな」
「オリバーが薬を作るのに必要なものは陽子さんが栽培してます。普通ではそこにはたどり着けません。で、そろそろ離してもらえません?」
そう、以前陽子が言っていた。オリバーに頼み事をよくされると、そのうちの一つに含まれていたのだろう。
シェリーがカイルから離れようと身をよじるが、更に力が込められてしまった。
「もう少しこのままがいいなぁ」
朝食の用意が出来た頃にグレイが起きてきた。しかし、体が痛いのだろうか顔をしかめながら、ダイニングに入ってきた。
「シェリー、おはよ。はぁ。体中が痛い。俺たち4人を一人で相手にして、なんで一発も当たらないんだ?」
席についた早々、そんなことを言ってきた。しかし、シェリーはグレイの言葉に答えず、自分の分の食事を確保して食べようとしていた。
「他の3人は起きて来れないのか?」
シェリーを膝の上に乗せたカイルがグレイに尋ねる。
「んー。わからないが、スーウェンは起き上がれないかもしれないなぁ。あれ、内臓までやられていたと思うしな。それに一昨日と昨日の連続は流石にエルフにはキツイだろう。
オルクスは起きていたから、もうすぐ起きて来るだろうな。リオンは部屋に気配がなかったから、ここにいると思ったんだけど?」
すると、ダイニングの廊下側の扉が開き、リオンが入ってきた。若干顔色が悪いようだ。席につき黙々と食事をしているシェリーとニコニコとしているカイルを見た。
「あれは何が起こったんだ?」
何か怖ろしい物を見たようにシェリーとカイルに尋ねる。
「何かあったのかな?」
しかし、カイルは逆に尋ねる。思い当たることはあるが、質問が曖昧過ぎる。
「裏庭の穴だ」
穴。昨日の鎧が『龍の咆哮』で空けた穴だろう。そこには水が満たされて、いや氷の残骸で穴が満たされていたが、陽子が地下に水が流れたら嫌だと言うことで氷はオリバーにより撤去され、普通なら裏庭も元通りにしてもらえるはずなのだが、オリバーは喜々として鎧の残骸を持って、さっさと地下に籠もってしまったのだ。
だから、熱で溶けた地面がえぐれた状態のまま放置されているのだ。
「ああ、あれは君がヤられた鎧が完全の状態で、技を発動した結果だね」
「また、お前が相手をしたのか?」
リオンは悔しげにカイルを睨む。しかし、カイルは首を横に振り
「今回はシェリーだね」
カイルの答えにリオンが目を見開いてシェリーを見る。シェリーはというと相変わらず黙々と食事を続けている。
「完全な状態とはなんだ?俺が受けた技も相当な攻撃だったはずだ」
「シェリーは龍化と言っていたけど、君は知っているかな?」
「リュウカ?何だそれは?」
炎王が自ら鍛えたというリオンが龍化を知らない?いや、その力を見せるほどの力をリオンが持っていなかったということなのだろう。
カイルは膝の上に乗せたシェリーを見る。一瞬シェリーが殺気だったような気がした。しかし、何も変わらないように見える。
「うーん。知らないのなら、炎王に聞いてみるのが一番なのかな。シェリーはどう思う?」
「炎王の戦い方に龍化は合いませんので、無理なのではないのでしょうか。まぁ、近いうちにこの国に来ると思いますので、その時の聞くなり見せてもらうなり、好きにすればいいのでは?」
「初代様に?ちょっと待ってくれ、あの鎧は誰だ」
「言っていませんでしたか?水龍アマツとも英雄アマツとも言われています」
「水龍?聞いたことがない」
リオンが聞いたことがない・・・これはどういう事なのだろう。唯一取引があるギラン共和国の英雄のことを王太子であったリオンに教えていない?それとも母親の天津に対して何かしら思うことがあるため教えていないのだろうか。
この国に来た炎王をシメる事柄がまた一つ増えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます