第244話
陽子の掛け声と共に鎧が拳を構えシェリーに向かって勢い良く振るう。それをシェリーは紙一重で避け裏拳で鎧の頭をぶっ飛ばす。
鎧はシェリーから距離を取り、鎧を強化する。いや、鎧が鱗に覆われ始め龍化の様相になる。
「なんだ。あれは」
鱗に覆われた鎧を見て陽子に首根っこを掴まれたクロードが唖然として言葉がこぼれ落ちた。
「あれは龍化だね。君の獣化と似たようなものだよ。およ。初っ端から使うのか」
クロードの言葉に答えた陽子が関心したように言う。龍化をしたまま独特の構えを取る。天津の技である『龍の咆哮』だ。
鎧が拳を振るうと共に爆発が起きる。また爆発が・・・いや、連続して技を発動している。
結界の外に居ても爆破の振動が響いてくる。熱風が届かないだけましだろう。結界の中は青い炎と爆風の嵐と化していた。
「あー。岩盤が保たないかも、熱で溶け始めている」
陽子は地下にあるダンジョンの事が心配なようだ。
「おい、あいつは大丈夫なのか?これは流石にヤバいだろう」
クロードは結界の中の惨状を目にして、人が生きていける状態ではないということ察している。
「ほう。思ったより、魔石が保たなかった。稼働効率の問題か?それとも、負荷の掛かり過ぎか」
オリバーはこの様な状況でも、鎧の状態を観察する方が大事らしい。
「おい!お前ら!」
シェリーの心配より自分勝手な事を言っている二人にクロードは声を投げかけるが、その陽子とオリバーから睨まれ
「うるさいよ。黒わんこ君。君はササッちを馬鹿にしすぎ」
「静かにしたまえ。シェリーがこれぐらいでどうにかなるものでは無い」
二人同時に言葉を返される。
陽子とオリバーはシェリーを高評価しているようだが、結界の中は依然として青い炎に覆われている。いや、チラチラと白い炎が混じり始めていた。
青い炎の海の中から侵食する様に白い炎が広がっていく。シェリーの浄化の炎だ。
全てが白い炎に置き換われば一瞬にして炎が消え去った。そうなれば結界の中の様相がはっきりと見る事ができた。
結界の縁に沿って地面が溶けて抉れており、所々、赤く熱を持っているようだ。その熱によって空気が揺らめいている。
シェリーはと言うと涼しい顔で地面だった下を見ている。そう、シェリーの足元には地面はない。空中に立っていると言っていい。ただ、足元にシェリーが一人立てる大きさの円状に光る物がある事から、何かを足場にしているようだ。
そのシェリーが見ているものとは、赤く溶けている地面だったものの中に鎧らしき物が見える。普通ならこうはならない、こんな自爆行為はそうなる前に抑制しようと理性というものが働くだが、あの鎧にはそのようなものは備わっていない。
鎧が腕を振ると大量の水が何処からともなく溢れてきて、窪んだ地面に水が入り込んで行く。水龍である天津の能力の1つなのだろう。熱せられた地面が冷され結界の内側は水蒸気で満たされシェリーの姿は見えなくなってしまった。
しかし、この状態でも結界の中を見る事ができる者もいる。
「およ?鎧が再生していっている。魔石がもう駄目って言っていなかった?」
陽子が見えない結界の中を見て言っている。確かにオリバーは『思ったより魔石が保たなかった』と言っていた。先程も水を大量に出していたので、辻褄が合わない。
「ああ、それかね。今回は能力ごとに魔石の使用を分けてみたのだよ。シェリーが危険だとうるさいから『龍の咆哮』で使用できる魔石を別に分けてね。それが使用できる魔石が使えなくなっただけだね。」
鎧は『龍の咆哮』を魔石の力が続く限り打ち続けたのだろう。だから、修復機能は十分に発揮され、熱によって溶かされた鎧は元に戻っているようだ。
「うわぁ。あまつちゃん。エゲツない」
その陽子の言葉と同時に霧だった結界内が凍ったように真っ白になった。
「でも、氷で足場を作るなら、あり?」
白くなった結界内ではシェリーと鎧の姿が見え隠れしている。見え隠れ・・・それは鎧が一帯を凍らしたと同時に剣山のように地面となった氷を突き上げたのだ。だから、陽子が言っていたように足場と言うには少し違う。
鎧は剣山のような氷を割り、シェリーに向かって投げて武器としていた。
「あー。これってササッちの憂さ晴らしだよね。さっきから呪いの呪文のように聞こえてきた」
陽子はそのような事を言っているが、結界の中の声や音は外に漏れないようになっているので、普通は聞こえることはない。
「あの子の気に障ることを言った者がいるのだろう?」
陽子とオリバーは無言になって結界内の戦いを真剣に見ているクロードを見る。
シェリーは鎧に拳を叩き付けていた。攻撃には一切魔術も刀も使わず、拳を振るいながら呪文のように呟いていた。
「子供が戦えないと?女が戦えないと?誰が決めた。腹が立つ。生きるために武器を取る。守るために武器を取る。そんなことに男も女も子供も関係ない!」
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