第243話
シェリーはクロードを壁越しから殴り、かかと落としを鳩尾に落とす。
「で、聞きたいことは聞けましたか?」
そうシェリーはグレイを見て尋ねる。シェリーにクロードに対してまだ聞きたいことがあると言っていたグレイにだ。
「あ、いや。なんというか・・・全く」
困ったようにクレイが言った。やはり、クロードの話では要領を得なかったのだろう。
「やはり、意味が無かったですね。」
シェリーはこの結果がわかっていたようだ。陽子が床から生えた壁を消し去り、シェリーに近づいて行く。
「ササッち、黒わんこ馬鹿過ぎるよ。豹の兄ちゃんがガレーネの長って言う人の繋がりを聞いても訳のわからない事を言うし、鬼くんが剣の出処を聞いても貰ったしか言わないし、馬鹿だよね。勝手にキレて表に出ろって馬鹿以外の何者でもないよね」
陽子がクロード対して馬鹿を連呼している。相当酷い答えだったのだろう。
「あ゛?シドはアリスが会えって言うから会っただけだ。それ以外に言いようがない!刀も貰ったしか言いようがない!」
確かにアリスのことを知らなければ、意味がわからない返答だ。そして、あの魔刀も貰ったという答え・・・誰がただでさえ手に入りにくいファブロが打った刀を、それも魔刀を見返りもなく手放すというのだろう。
「誰に魔刀を貰ったのです?」
シェリーは未だにクロードの腹を踏みつけて尋ねる。
「うっ。名前なんて知らない。龍の旦那って呼んでいたからな」
ファブロが作った刀を持った龍人なんて心当たりは一人しかいない。
「流石、エンエン太っ腹だね。で、ササッち、いつまでこの馬鹿をここに置いておくの?陽子さん殴りたくなってくるんだけど」
陽子のイライラがそろそろ限界を迎えるようだ。その言葉にクロードは驚きの表情を顕にし、言葉を漏らす。
「初対面の筈なのに?」
クロードからしてみれば初対面だが、陽子からすれば散々辛酸を嘗めさせられた人物だ。
「そうだよね。初対面だよね。でも陽子さんは黒わんこ君のこと、よく知っているよ。私が気合を入れて作り上げた最初のダンジョンをお猿さんと一緒に破壊してくれたよね。『行き止まりだ』『道が無いなら作ればいい』って横では無く下にぶち抜いてくれたよね」
「ん?ぶち抜いた?」
「散々ダンジョンを荒らしてくれたよね。あれには陽子さんの心が折れたよ。3階層から10階層まで縦穴を作るなんてダンジョンの階層の意味がない!」
陽子は怒り心頭のようである。流石に7階層を貫く事はできないだろうと思うが、その言葉にはクロードは思い出したかのように『ああ』と声を漏らした。
「いや、あれはフォルが・・・」
ギルドマスター。いや、当時は統括副師団長だった
「言い訳無用!同罪!」
シェリーはいつの間にか離れ、陽子とクロードを見ていた。散々陽子から聞かされた愚痴だ。本人とは言い難いが、少しはモヤモヤがなくなるのならそれでいいかと思い、リビングの入り口に近づく。
「それで、もういいのですか?」
クロードとの話はもういいのかと尋ねる。シェリーの質問にグレイは曖昧な表情をする。いいと言えばいいし、物足りないと言えば物足りないそんな表情だ。
「なぁ、アイツと戦ってみたい」
オルクスがそう言ってきた。シェリーからすれば、どうでもいい事なので
「好きにすればいいですよ。この敷地からでなければスキルは維持できますから」
と言う。しかし、シェリーの言葉にリオンが疑問を呈す。
「それならあの鎧でもいいってことにならないのか?あの者もシェリーがここに喚び出した者で、鎧の核と言うものをシェリーが構築したと聞いたが」
リオンの言葉にシェリーはイラっとする。またこの話を繰り返すのかと
「鎧は命令を忠実に実行しますが、クロードさんは彼の性格のまま行動をします。手合わせがしたいのなら、クロードさんと交渉してください」
そう言ってシェリーはダイニングの扉から中に入って行った。そのままキッチンにこもるのだろう。
その夜、シェリーは裏庭に立っていた。目の前には昨日破壊され、オリバーの手によって修復改造された龍人アマツのステータスを持った鎧が存在している。
そのシェリーと鎧を見守るかのように・・・いや、興味津々でこの場にいるオリバーとクロードの首根っこを持った陽子と心配そうな顔をしているカイルがいた。
他の者達はと言うとクロードにボコボコにされて眠るように意識を飛ばし、部屋で休んでいる。
やはり、無謀だったようだ。しかし、鎧たちから攻撃された時とは違い生死さまようようなことはならなかったので、治療の魔術は施さずに放置されている。
「ササッち!準備はいいかな?」
陽子がシェリーに手を振りながら声を掛ける。それに対しシェリーは振り向きもせずに淡々と答えた。
「いつでもいいですが、結界だけはしっかりとしてほしいです」
「準備は出来ている」
「こっちも地下の岩盤は強化したよ」
オリバーと陽子からの返答に満足したようにシェリーは頷く。
「じゃ、行くよ!あまつちゃん、やっちゃって!」
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