第185話

「ノイン。今からダンジョンに行くから必要なものを売ってくれないか?」


 そう言いながらオルクスが近づいてきた。


「はっ。オルクス戻ってきたのか?」


「いや、辞めるって報告に来ただけだ。」


「おっせー。おい。あれは誰だ?」


 ノインと呼ばれた白猫獣人の男性はアマツを指しながら言う。


「知らん。取り敢えず食料と・・・あと何がいるんだ?」


「だから、教えろ。」


「教えたら、売ってくれるか?」


「ああ。」


「シェリー。隣の龍人の姐さんは誰だ?」


 オルクスはちゃっかり売らないと一点張りだったノインと取り引きして、売ってもらえるようになり、シェリーに尋ねる。


「天津さんですが?」


「・・・アマツ様。」


 ノインはうわ言のようにつぶやいた。


「グレイ、スーウェン。ノインを連れてもう一度フィーディス商会に行って来ればいい。俺はもう少し時間がかかる。」


「オルクス、ちょっと待て!シェリー・カークス、あんたの頼んでいたものが本店に届いている。取りに来いと伝言された。」


 再び支店に戻されそうになり、ノインは慌ててシェリーに伝言を伝える。しかし、シェリーは


「は?いつも通り届けてくれればいいのでは?何か問題でも?」


 となぜ届けてくれないのかと問う。


「問題だ!最近、屋敷にいないことが多いらしいな。持っていったヤツがもう行きたくないと言っているらしい。」


 ちっ。いないときは屋敷の奥にある保管庫に入れておいて欲しいと言っているのだが、どうやらそこにいたオリバーが作り出したモノの被害にあったようだ。

 オリバーに言って保管庫にも出入り出来ないようにしてもらわなければならない。


「わかりました。依頼が終われば取りにいきます。」


 シェリーの言葉に満足したノインはアマツの方を向き


「お初にお目にかかります。アマツ様。ノイン・フィーディスと申します。」


「うん。はじめまして。」


「アマツさ・・・おい!お前何をする!」


 アマツに何か言おうとしていたノインだが、グレイに腕を掴まれ、引きずられていた。


「シェリーに言う用件はすんだのだろ?早くしないと、シェリーに置いて行かれるから、それは後。先に必要な物を売ってくれ!」


 どうやらノインはグレイからシェリーの名前が出たことで、伝言を伝えにやってきたようだ。そして、用件が終わったのならとグレイに引きずられている。空いている手の方を伸ばして『アマツ様!』と言ってアマツに助けを求めているが、アマツはニコニコとその状況を眺めていた。


 そして、オルクスは直ぐに終わらせてくるから少し待っていてくれと言って建物の中に消えていき、シェリーはアマツを連れて建物の日陰に入る。秋と言っても日中の日差しはキツイのだ。


 シェリーは腰の鞄からガーデン用のテーブルセットを取り出す。円状のテーブルに4脚の椅子がセットになったものだ。これはルークと庭でお茶をするように購入したものだが、そんなものまで腰の亜空間収納の鞄に入っていたようだ。


 アマツに座るように促し、お茶と茶菓子を目の前に置く。亡者であるアマツに食べられるのかと言えば、アマツは美味しそうにお菓子を頬張っていた。シェリーと拳を交えるほどだ。この世界に死んだ人物が完璧と言っていい状態で存在していた。


 シェリーもアマツの前に座ろうとすれば、抱えられてしまった。カイルである。いつも通り、カイルの膝の上に座らされてしまった。

 そして、いつの間にか空いている椅子に緑の髪の人物が座っている。


「我にも茶と菓子をくれ。」


 先程、二階の会議室で会ったユールクスである。


「あ、ユールクス。」


 アマツもユールクスに気がついたようだ。シェリーはユールクスの前にもお茶と菓子を置く。

 ダンジョンマスターであるユールクスは何故か泣きそうな顔でアマツを見ていた。


「久しいな。アマツ。」


「うん。久しぶりだね。約束を守ってくれてありがとう。」


「ああ、アマツは我の願いを叶えてくれた。だから、我もアマツの願いを叶えたに過ぎん。」


「でも、簡単にはいなかったでしょ?この国を守るってこと。」


「この国を守る?」


 二人の会話を黙って聞いたいたカイルが思わず呟いた。ダンジョンマスターが国を守っているというのだ。


「そう、ユールクスに私はお願いしたの。この国の脅威からこの国を守って欲しいと。あれからどうなったかは私はわからないけれど、エルフの王が新たに生まれればエルフ達は再び世界の王となるべく、まずはこの国を狙ってくることはわかっていたから、それに隣の帝国は軍国主義に走っているようだったし、モルテもどう動くかわからないでしょ?王がアークに牙を向けたと聞いたから、その余波がどうなるかわからなかったし。」


 だから、ダンジョンが存在している限り不老不死と言ってもいいダンジョンマスターにこの国のことをお願いしたと。


 その話を聞いてカイルはシェリーを己の方に向けて尋ねる。


「だから、あのダンジョンが屋敷の中にあるのか?いざとなればルークを守るために屋敷をダンジョン化したのか?」

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