12章 不穏な影
第121話
アイラの準備に
そして、魔道馬車を引くのは翼を持つ蛇でククルカンと呼ばれているメイルーンにしか存在しない謎の生き物である。
流石に個人のワイバーンを借りることが出来なかった為に、王族であるノートルがイーリスクロムに頼み込んで借りてきたようだ。精神的安全性を確保するための必死さが垣間見えたのだろう。
おかげで、旅の行程も短くすることができたが、ニールについでと言わんばかりに、押し付けられた依頼を完了させる為に少々寄り道をすることはブライとノートルには伝えてある。
一日目は300
翌朝、
「この街での依頼は何だ?」
オルクスが聞いてきた。
「おばけ退治です。」
「え!」
シェリーの返答に驚きの声をあげたのはスーウェンである。
「元々は貴族の屋敷だったらしい。今の持ち主が住み始めると物が割れる音やドアを叩く音。酷いときは物が散乱している時もあるとか。」
ニールから聞いた言葉をカイルは伝える。
「あ?誰か居るんじゃないのか?そんなもの警邏隊に頼めばいい。」
泥棒がいるのではないかとオルクスが指摘するが
「この国は警邏隊ではなく、軍兵ですね。一度頼んだそうなのですが、誰も居らず、音がする方に行けば花瓶が宙に浮いていたらしいです。」
「ひぃっ。」
スーウェンから小さな悲鳴が聞こえた。どうやら、そういう話は苦手なようだ。
月が地平線から顔を出し始めた頃、目的の屋敷にたどり着いた。外見上は普通の貴族の屋敷に見えるのだが、シェリーは顔を顰める。屋敷全体が黒いモヤに薄く覆われているのだ。
シェリーの足が全く進まないことに疑問を覚えたカイルがシェリーにどうしたのかと尋ねるとシェリーはため息を吐きながら
「はぁ。この屋敷のどこかに悪心の塊があります。それを浄化すれば完了しますが・・・。」
話の途中でシェリーが言葉を止めてしまった。シェリーは屋敷の地面を見る。正確には地面の下を視る。
「大丈夫ですか?」
アクシンと言う物はわからないが、ポルターガイストではないとのシェリーの言葉を受けて安心していたスーウェンがシェリーの顔を覗き込み固まった。魔眼が揺らめいている。グレイがスーウェンをシェリーから引き離し、スーウェンは息を大きく吐く。止まっていた呼吸がやっとできたようである。
「何かの儀式でしょうね。成功はしなかったようですが、数が酷い。」
シェリーの目には百人はくだらないモノ達が視える。不意に視界が遮られた。
「シェリー、先に浄化をしようか。他のことは第9師団に任せればいいと思うよ。」
どうやら、視界を塞いだのはカイルだったようだ。第9師団に任せるとなると、師団長のファスシオンがまた文句を言ってきそうだ。
「わかりました。取り敢えず中に入りましょう。」
玄関扉から中に入り、玄関ホールを進むと入り口の扉が「バタン」と閉まった。その音に驚いたグレイが「うぉっ!」と声を上げていたが、シェリーからすればお決まりのパターンだった。
因みにスーウェンはシェリーからこの街に詰めている第9師団を連れて来るように言ってあるのでこの場にはいない。
「まず、一階から回っていきます。」
そう言いながらシェリーはサクサク進んでいく。その周りには、蝋燭の火が付いたり消えたり、物が割れる音、ドアを叩く音が聞こえるがシェリーは全て素通りである。
「あの蝋燭どうなっているんだ?勝手に付くって便利だな。」
オルクスはおかしな感想を言っている横ではグレイは頭の上に手を置き耳を抑えている。きっと何か聞こえているのだろう。
「シェリー、他の部屋はいいのかな?まっすぐ進んでいるけど?」
カイルが音がなっている部屋を無視していいのかと聞いてくる。
「ああ、それは無視をしていいです。人の反応を見て面白がっているだけですから。」
シェリーは何がとは言及しない。
シェリーは一階はどこの部屋にも入らずに廊下だけを歩き二階へ進む。二階も廊下だけを進んでいたが、小さな物置の扉の前で立ち止まった。
「シ、シェリー。何かあるのか?」
何かに怯える様にグレイが聞いてくる。
「いいえ。ですが、後でまた来ます。」
そう言って、シェリーは三階へ進む。屋根裏となっている三階は物置として使っていたのだろうが、今は何もなかった。
「やはり、地下ですか。グレイさん、外で待ちますか?」
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