第120話
「あれはなんですか?」
シェリーは頭を抱えている二人に尋ねる。
答えてくれたのはノートルで
「あれは王妃様専用の魔道馬車です。」
「今日は王妃様の御予定がこちらにあるのですか?」
二人揃って横に首を振る。そうしていると、豪華な馬車が近くに横付けされた。そして、窓が開けられ、アイラが顔を出す。彼女は一体何をしているのだろう。
「エルフの方。アイラと一緒に馬車にのりましょうよぅ。」
スーウェンは思いっきり横に首を振る。ノートルが馬車に近づきアイラに声を掛けた。
「アイラ嬢。貴女に用意された馬車は違うものだったのですが、なぜこの馬車に乗っているのですか?」
「あ。またイケメン発見。なぜって?あんなダッサイ黒い馬車よりキラキラしている馬車の方がいいに決まっているじゃない。」
「先日も説明したはずですし、御者も止めたはずでしょ?」
その御者は青い顔をして、なぜかボロボロの格好で御者台に座っている。アイラに抵抗され、この様になってしまったのだろうが、誰かの許可を取っているのだろうか。
「聞いたけど?キラキラしたモノは目立つからダメって言われたけど。あなた達がきちんと護衛をすればいいだけでしょ!」
「違います。今から行く国は黒が最上級を示す色ですから、貴女の品位を上げる意味で黒い馬車なのです。もしかして、先日用意させた黒のドレスを持ってきていないということはないですよね。」
「は?あんな喪服みたいなドレス着るわけないでしょ。」
そうなのだ。国が違えば常識も変わってくる。人や獣人が多くいる国では黒は嫌われる色だが、エルフ達は深く濃い色を好む。そして、モルテ国は王が黒を持つがゆえに黒が最上級の色として定められているのだ。そして、今回は敢えて王の番として送り出すために黒色を用意させたのだ。
アイラの言葉を聞いた二人はすぐさま御者に引き返すように言い。イリアが急いで第一層内へ戻って行く。
それにしても監視を一人ぐらい付けておくべきだったのではないだろうか。
「いやー。噂には聞いていたけど強烈だな。13歳の子供のわがままと言えばいいのか。」
ブライがアイラの印象を述べていたが、王妃の馬車に乗るのがわがままで通るのだろうか。
「なぜ、監視を付けていないのです。そうすれば、このような事にはならなかったはずですが?」
「最初は付けていたんだと。本部の連中があの嬢ちゃんの世話をしていたんだが、詳しくは教えてもらえなかったが、気味が悪かったんだと。ああ、アンディウム曰く、未知の生物ってヤツだ。それで、接触は最低限だけにしたんだと。」
「あれが6日も一緒にいるなんて耐えられるでしょうか。」
ノートルがボソリと呟く。きっと行く前にも説明をしたのだろうが、アイラのいいように脳内変換をされてしまったようだ。
「騎獣をワイバーンに変えればもう少し短くなりますよ。馬車の乗り心地は最悪になりますが。」
シェリーの言葉にノートルとブライが顔を見合わす。
「ワイバーンですか。確か今、第1師団の全部隊が王都にいますよね。師団長と中隊長3人程が確かワイバーンを騎獣にしていましたよね。」
「借りるか。」
「借りましょう。精神的にも安全性にもその方がいいでしょう。」
多分、外部要因に対する安全性より、精神の安全を優先させた結果だろうが。
「しかし、それでも4日ですか。」
まだそれでも足りないと言わんばかりに、行程を縮めようとする。それほどアイラと共に行動するのが、ダメなのだろか。
「国内は野宿で、モルテ国の王都まで一気に駆け抜けるか。」
この無理やりに行程を進めようとするやり取りはシェリーには覚えがある。マルス帝国の往復を7日でしなければならなかったときの、従兄弟の兄と弟の会話だ。
「却下します。私は獣人ほど体力はありませんので、きちんと休憩と宿場で泊まることを要求します。」
「しかし、もう少し。」
ノートルは食い下がる。が、シェリーは否定する。
「却下します。人には休息というものが必要なのです。それに、疲れた状態でモルテ国に入っても、ろくなことにならないと思いますが?」
「精神衛生上には「モルテ国で頭と胴が離れているかもしれませんね。」ぐぅ。」
しつこいノートルの言葉に被せながら脅しの言葉を言うシェリー。頭と胴が離れる理由は王の機嫌を損ねたか、シェリーの機嫌を損ねたかは言及しない。
「では、アラビアンプランで行きますか?」
仕方がないのでシェリーは代替案を提示した。
「あら・・・?なんだそれは」
ブライが聞いたことのない単語に困惑の色を見せる。
「とある王に贈り物として絨毯を献上し、その巻いた絨毯の中に王好みの女性を入れておくプランです。」
とある世界の有名な物語で、見どころの一つになるのだが、
「それは絨毯で、簀巻きにして、おとなしくさせておけと、言うことか?」
「ついでに眠りの魔術も掛けておきましょう。」
物語の見どころのシーンが台無しの計画になってしまっていた。
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