第118話
「はぁ。学食の件は今日は言いません。少々時間が掛かりそうなので、後日、連絡します。」
シェリーのその言葉に学園長は一瞬ほっとしたものの、後日一体何を言われるのか胃がシクシク痛むのであった。
シェリーは闘技場に案内されながら、学園内の施設の改築状況を聞いていくが、先日壊れた闘技場の修復が済んだばかりで、それ以外はまだ予定が立っていないと言う。
まあ、あれから数日しか経っていないので、闘技場の修復が終わっているだけましなのかもしれない。
闘技場の観客席に案内されたシェリーはオルクスに話しかける。
「オルクスさん。彼らは兵としては未熟ですが、一応訓練を受けた者たちです。相手をしてあげてください。」
シェリーの言葉を聞いたアンディウムはシェリーに詰め寄り
「シェリーさん。いくらなんでも学生の相手にギランの傭兵団長を宛行うのは問題だと思います。」
「わたしが相手をしてもいいですよ。それともSランクのカイルさんにしますか?」
アンディウムは頭を抱え項垂れた。誰が相手になっても問題がある。
「わたしが相手をしなければ誰でもいいという許可は取りましたよね。」
シェリーはイーリスクロムとの話をアンディウムも聞いていたはずだと言っているのだ。
「う。学生なので手加減してください。」
アンディウムはオルクスに頼むが
「ん?ポッキリおるのだろ?」
何か違う意味に聞こえてしまう。アンディウムは慌てて
「折るのはプライドですが、再起不能まで追い込まないでくださいと言っているのです。」
「はいはい。」
と言いながらオルクスは学生が整列している闘技場の方へ飛び降りて行った。
とある学生 side
今日の午後からの授業が急遽変更され、最終学年は闘技場に集合という事を言われた。皆が整列をして待っていたところ、他の学年も観客席に集まってきたようだ。
教師に何を行うのか聞いてみたが、教師もわからないようだった。そして、正面の観客席の出入り口から学園長が出てきたと思ったら、その後ろから第2師団長のアンディウム・グレッソ様が出てきた。その後ろには冒険者でSランクの『銀爪』のカイルさんもいた。闘技場内にいる俺達も観客席にいる他の学年の学生も気がついたのかざわついている。
そして、一人の人物が闘技場に降りてきた。黄色い髪に黒色が斑に混じっていることと丸みを帯びた耳から豹獣人だと思われる。豹獣人で有名な人物といえばやはり『ギランの豹』だろう。
学園長から拡声魔術で最終学年の俺たちに対し、今まで習った事を示して欲しいと言われ、最終学年全員で目の前の人物を相手にすることで力を示せと言われた。
本当にいいのか?ここにいるのは難関の試験を突破した精鋭だぞ。まぁ、学園長がいいって言うから、俺達は実力を示すだけだ。
ああ、空が青いな。
自分は、地面に倒れていた。まともに相手すらしてもらえなかった。相手に剣すら抜かれなかった。両手をズボンのポケットに突っ込まれたまま、片足だけで相手にされた。俺たちは騎士になるべる選ばれたはずなのに、一人相手に全滅だった。
「おい、もう終わりか?骨のあるやつはいないのか?」
そんなやつ居ないだろ。まともに相手にされなかったんだ。
「おい、客席にいるやつでもいいぞ。」
観客席にいる他の学年の者たちも静まりかえっている。それはそうだ。来年には騎士として立つ俺達がこの有様なんだ。
はぁ。空が高いな。
オルクスside
「おい、客席にいるやつでもいいぞ。」
あまりにも拍子抜けだ。もし、こんな奴らが傭兵団に入って来たのなら、出ていけと追い返すところだ。
客席に向かって声を掛けると数人の奴らが降りてきた。見た感じ今までの奴らと大差がないな。
お、毛色の変わったヤツが一人いるな。これなら楽しめそうだ。
向かってくる5人を軽く蹴飛ばし、残ったのは金髪のガキだがこの顔は
「もしかして、お前がルーちゃんか?」
「あなたは姉さんと一緒にいましたけど誰ですか?」
シェリーを姉さんと呼ぶということはこいつがルーちゃんで間違いないらしい。
「オルクス・ガナートだ。」
「ルークシルディア・カークスです。」
俺は剣を抜き、構える。そして、剣を交えルークを吹き飛ばす。剣筋はいいが、軽い剣だ。魔力のうねりを感じ、一歩下がると鼻先に炎の矢が掠めた。やばい、流石に魔導師オリバーの血を引いていることだけはある。
吹き飛ばした瞬間に魔力を練り上げ、攻撃してきたのだろう。魔術師としてのセンスはある。しかし、剣を使うとなると些か物足りないなぁ。
起き上がって来たルークに対し、剣を振るったかというときから記憶が途切れた。
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