第117話

 シェリーは監視員として付けられたアンディウムとツガイである4人とともに軍本部のとある一室に来ていた。

 2日後には王都を立つのでアイラと言う少女への説明とツガイと認識させなくする魔道具を付けるためである。シェリーは付いて行くことに対して不快感を示すが、代わりにそのまま、騎士養成学園での指導を済ませると言われてしまったために、仕方がなくアイラが隔離されている部屋にきたのだ。


「アンディウムさまぁ。最近会いに来てくれなくて、アイラ寂しかったですぅ。」


 アンディウムが部屋に入った瞬間、アイラに言い寄られていた。アンディウムは頬を引つらせながら、用件をアイラに伝える。


「き、今日は君にお願いごとがありまして訪ねてきました。」


「あ!アンディウムさまぁ。髪が短くなってるぅ。よく似合ってますよぉ。」


 しかし、早々に話の腰をおられる。


「ここの人たち全然アイラを外に出してくれないのですぅ。アンディウムさまからも言ってくださいよぉ。聖女であるあたしの言うことを聞くようにってぇ。」


 いつの間にか聖女候補から聖女になっているようだ。


「あ。う、うん。」


 アイラの押しにアンディウムが負けてしまっている。これでは、全然話が進まないとシェリーはスーウェンの側に行き


「わたしが行くと悪化しそうなので、わたしが先程言ったことを説明して、お守りだと言って腕輪をはめてください。」


 スーウェンは嫌そうな顔をして


「私がですか?」


「適材適所です。オルクスさんでは先に手が出そうですし、グレイさんはアンディウム師団長さんと同じくアイラに押されてしまうでしょう。カイルさんは説明はお願いできるかもしれませんが、腕輪をはめる時に折りそうですよね。」


 シェリーは言葉を濁したが、折るのは腕輪ではなくアイラの腕である。普段から抱きつかれているシェリーだから思うことだが、カイルの力加減か相当キツイのだ。聖人であり、レベル100超えのシェリーだから耐えられているが、アイラ程度の腕なら掴んだ時点でポッキリいっていそうだからだ。

 そう、シェリーに促されスーウェンは渋々アイラの元へ向かう。


「少しよろしいでしょうか。」


 スーウェンが声を掛けるとアイラは上目遣いでスーウェンを見上げ


「なんですかぁ?」


 と笑顔で答える。横でグレイの「キモッ」と言う呟きが聞こえた。


「実は貴女しかお願いできない事がありまして、隣国まで同行をお願いしたいのです。」


「もちろん、アイラはあなたと共にどこまででもいきますぅ。」


 その言葉を聞いたスーウェンがブルリと震えた気がしたが、気のせいだろう。


「それで、道中のお守りとして腕輪を受け取ってもらえませんか?」


「どうぞぉ。」


 と言ってアイラは腕を差し出すが、スーウェンは腕輪を持っているアンディウムにアイラに腕輪をはめるように目線を送る。

 スーウェンに促されたアンディウムは震える手でアイラに腕輪を付けるのであった。

 ブカブカだった腕輪は付けられた瞬間、腕にぴったりになるように縮み、外れないようになった。つまり、アイラが勝手に取らないようになったのだ。


「明後日に迎えが参りますので、隣国に行く準備をしておいてくださいね。」


 そう言って、アイラの部屋のドアを閉め、アンディウムが外から鍵を掛けた。


「すみません。私が言うべきことを言っていただきまして、本当にあの未知の生物は苦手なのです。」


「それは、わかります。先程から寒気が止まりません。」


 二人で揃ってため息を吐いた。


 そして、シェリーは昼過ぎに学園に着いた。事前に連絡が行っていたのであろう。学園長であるカルロスが額に汗を滲ませながら迎えてくれたが、今は昼休み中なので、午後の授業開始まで少々時間が欲しいと言ってきたのだ。

 それに対しシェリーはどれほど施設の改築工程が進んでいるかの説明とここの学食を食べたいという要求を学園長に突きつけたのであった。学園長はフルフルしながら


「この時間はまだ食堂に学生がいますので、お断りを「は?」」


「保護者として、弟がどのような物を食べているのか知りたいと言っているのです。別に食堂で食べたいと言っているわけではないのですよ?」


 シェリーは学園長の目を覗き込んで要求を突きつけるのであった。


 シェリーの要求は・・・学園長を脅して要望を叶え、会議室に使われる部屋であろうところで、学食を難しい顔をしながら食べている。


 アンディウムは懐かしいねと言いながら大盛りのAランチを食べ、シェリーは日替わりを食べており、ツガイの4人もぞれぞれ好きな物を食べているが、如何せん肉、肉、肉ばかりなのだ。体を作るのには他にも必要な栄養素があるというのに!


「シェリー。美味しくない?」


 カイルが聞いてくるが


「味は普通です。」


 シェリーの言葉にビクリを肩を震わす学園長が目の前にいる。


「味は?他に何かあるのかな?」


 シェリーは考えるが獣人と言う国がやはり問題なのかと思い至るのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る