第116話

「それで、何かな。」


 イーリスクロムはにこやかにシェリーに問いかける。


「軍の新人教育と騎士養成学園の改革について口出しをさせていただきます。」


「「「は?」」」


 ここにいる、師団長全員の声が揃った。イーリスクロムはシェリーの言葉に頭を抱えている。

 以前、騎士養成学園の学園長からシェリー・カークスが大量に魔石を持ち込み、脅しのように施設の改築を言ってきたと報告書にあがってきており、第6師団からは新人がヘマをし、シェリー・カークスに目を付けられたため移動願いが出ていた。そして、先日には第10師団からシェリー・カークスが新人の対応に怒り、暴れていたと報告書に上がっていたことから、そのことに対してなんだろうが、何を言われるか予想ができない。


「別に大したことではないです。上官の命令を聞けない新人。敵だと認識したら、守るべき対象を放置して我先に戦いを挑んでいく脳筋共。一度、矯正をすべきだと思いませんか?そして、その行動を許している教育機関。意味無いですよね。」


 シェリーの目が光り揺らめいている。シェリーの話を聞いて横を向いている数人の上官には何かしら心当たりでもあるのだろう。


「で、具体的には?」


 イーリスクロムはシェリーに続きを促す。


「新人の方には『愚者の常闇』へ潜ってもらいます。」


「「「イヤイヤ、無理無理。」」」


 またしても、師団長たちの声が揃った。

 王都から近いダンジョンのため、一度は潜ったものの諦めたのだろう。上官がこれなら新人は言わずもがな。


「あそこのダンジョンを潜った方ならお分かりかと思いますが、力のゴリ押しでの攻略は通常出来ません。」


 シェリーの言葉にオルクスが横を向く。


「状況の判断能力、広い範囲で物事を見て考えるという事が必要になってきます。そして、最終的な点数が経験値としてもらえます。」


「おい、そんなこと初耳だぞ。」


 クストが言葉を突っ込んで来るがシェリーは無視をする。


「新人の教育にはうってつけだとは思いませんか?」


「ちょっと、それだとおかしなことがあるんだけど。」


 ファスシオンがシェリーに聞いてきた。


「表示された点数が経験値として貰えるのなら、君は10万の経験値を得たことになるんだけど?」


「そのとおりですが何か?」


 その言葉に周りがざわついた。あり得ないだとか、1万点もいかなかったとか言う声が聞こえる。


「それだと、もしかしてダンジョンを潜っている新人の方がレベルが高くなってしまうことがありうると言っているかな?」


 ファスシオンの問にシェリーは鼻で笑い。


「第9師団長さんのレベルだと抜かされそうですね。」


「ギャー!なんで俺のレベルを知っているんだ!」


「今頃、息子さんにも抜かされているかもしれませんね。」


 ファスシオンはハッとした顔になり


「リッターはどこまで修行に行ったんだ。行ったきり全く戻って来ないんだけど?」


「連絡をとっていないのですか?王都の南地区で討伐戦に出ていた元騎士の方に面倒を見てもらっていますので、安心してください。」


 脳筋ウサギになっている可能性もありますが、と最後にポソリとシェリーは呟く。


「それで、学園の方は何があるのかな。」


 イーリスクロムが続きを促す。


「はっきり言って、騎士養成学園に入ったことで、皆さん満足されているようにみられましたので、最終学年の学生のプライドをこの辺でポッキリ折っておこうかと思いまして。」


「君にやられると立ち直れなくなりそうだから、やめてくれないか。」


 と言うイーリスクロムの周りでは、絶対に立ち直れないよなとか、この国には問題児がいることを知っておくべきだとか、学生にはキツすぎると言う言葉が飛び交っている。


「私でなければいいと言うことですか?」


「君じゃなかったらいいよ。まだ、新年の大会までに時間があるから、きっとやる気が出ていい感じになるんじゃないかなぁ。」


 イーリスクロムはシェリーに希望を言わすとろくなことがないと、遠い目をするのであった。



イーリスクロム side

 シェリー・カークスが去った後の会議室は通夜の様に沈み込んでいた。


「点数が経験値に・・・。攻略することに意味がないダンジョンだとは思っていたが、はぁ。」


 そうため息を吐いているのはシーラン王国の南側を担当している第7師団長のエミリオだ。南側を担当しているため、ダンジョンのスタンピードが起きないように定期的に部下を連れて潜っていると報告書にはあったが、10階層まで行って、入り口まで転移する扉をくぐって戻って来ることを繰り返しているようだ。しかし、11階層以降になると攻略が難しくなってそれ以上進めなかったそうだ。


「なぁ。エミリオ。お前、定期的に潜っているんだよな。どれぐらいの点数が出るんだ?」


 隣にいるクストが尋ねている。


「2千点。」


「厳しいな。定期的に潜ってそれなら、10万てありえなくないか?」


「さっきいた『銀爪』のカイルは9万だったぞ。上位2人が飛び抜けていて、3位が冒険者ギルドのニールだ。それでも6万だった。」


 エミリオの言葉にニールと騎士養成学園で同期であったファスシオンが反応し


「ニールか。あのダンジョンの攻略は得意そうだよね。眉間にシワを寄せながら、『こんなこともわからないのか馬鹿どもが!』とか言ってきそうだなぁ。」


「ぷっ。」


 ニールが第一師団に居た頃を知っている者たちから、「くくく。」「ははは。」と笑い声が満ち、いつの間にか淀んだ空気は飛んでいた。

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