第113話

「と言うことだったのよ。」


 女性は夕食の時間に乱入をしてきて愚痴をシェリーに言っていた。主にダンジョン攻略の仕方が酷い黄色いヤツという人物の愚痴だった。一通りは言い終わったらしい。


「シェリー、この女性は一体誰かな?」


 とカイルが聞いてきた。それはそうだろう。床から出てきたと思ったらシェリーの隣に座り、ずーっと今まで喋り通しだったのだから。


「彼女はダンジョンマスターです。」


 シェリーは端的に答える。話の内容からそうではないかと思われていたが、少し人の紹介としては短すぎるように思える。女性は椅子から立ち上がり


「はじめまして、愚者の常闇のダンジョンマスターをしている陽子です。よろしく!」


 陽子は軽口で挨拶をする。


「ダンジョンマスター?」


 グレイが不思議そうにつぶやいている。


「ダンジョンマスターがダンジョンから出られるとは聞いたこと無いけど?」


 カイルの質問に陽子は


「出られないから私頑張りましたよ。なんとここの敷地の地下がダンジョンなので、屋敷も一部ダンジョンなのです。」


「「「は?」」」


 陽子は屋敷の一部がダンジョンだと言い出した。


「グレイさん、愚者の常闇のダンジョンで魔物の中で見慣れた魔物はいませんでしたか?」


 シェリーが固まっているグレイに尋ねる。シェリーの質問に首をひねるように考え「あっ!」と声を上げ


「オリバーさんの作った謎の生き物がいた。」 


「そうです。地下とダンジョンが繋がっていることで、あの偶発的産物の処理が断然少なくなって助かっています。ダンジョン化と言ってもダンジョンマスターである陽子さんが現状維持を保っているので、何も変わることはありません。」


「しかし、『愚者の常闇』はかなり南にあったはずだけど?」


 カイルの言うとおりダンジョンは王都から南に50キロメルkmのところにある。近いかと言えば歩けない距離ではないし、騎獣に乗ればすぐの距離ではある。


「だから、私は頑張ったよ。ヒト一人が通れる道をつないだんだからね。たまにはササッチに愚痴でも聞いてもらわないと、やってられないしね。」


 愚痴を言うためだけにダンジョンを伸ばしたようだ。

 シェリーは少し考える様に陽子を見つめ


「陽子さん、一つわたしの話に乗りませんか?」


「乗った!」


「まだ、何も言っていません。」


「ふふふ。シエちゃんのその目は何か面白いことを考えているよね。何かな?」


「もう少し北側にダンジョンを伸ばしてみませんか?そしてダンジョンを学園内に作りませんか?」


「ふーん。北側に学園があるのね。」


「ここ最近、気が付いたのです。学園が意味をなしていないことに。一層のこと学園を潰そうかと思っていたのですが、それではダメなようですので、陽子さんの力を借りれないかと思ったのです。本当は潰したいです。」


 最後にシェリーの本音がポロリとこぼれ出ている。


「ほほう。それは私のダンジョンの有効的利用と学生さんの能力向上を行うことによって双方がWin-Winの関係性ができるってことね。いいね。」


 了承しながらも、陽子はあらぬ方向を見ながら考えているようで


「学生さんのやる気を出させるには、やっぱり最低でも30階層は欲しいよね。でも最近、ダンジョンに来てくれる人が少なくなってしまったからポイントが全然足りないなぁ。」


「では、軍の新兵を投入しましょう。」


「およ?とうとうシエちゃんは軍まで掌握しちゃったのかな。まあ、来てくれるって言うなら私は迎え撃つ側だからね。ドンと来い!」


 そして、陽子は真面目な顔つきになり、オルクスに向かって言葉を放つ。


「そこの黄色いヒト。今回の攻略は私は認めません。ですからあなた達には一切経験値を与えていません。もう一度、一階層からやり直してください。さて、そろそろ帰りますか。」


 そう言って陽子は来た時と同様に床に沈んでいき。


「あ。シエちゃん。南の方から怪しい人が出入りしているよ。時々ダンジョン内でコソコソ話をしているんだよね。一番最近じゃ『準備は整いつつある。後は巫女を手に入れればいい。』と言っていたし、何の準備かは分からなかったけど、怪しすぎるよね。」


 と、床から生えた生首の状態でシェリーに情報提供をして、陽子は沈んでいった。


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