第112話
3日間、シェリーはニールに押し付けられた依頼をこなして過ごしていたが、ダンジョン攻略に行ってから4日目の日が暮れてから、グレイとスーウェンとオルクスが帰ってきた。3人は帰って来て早々、お腹が空いたと言ってきたのだが、3人が帰ってくる予定で夕食を作ってはいなかったシェリーに
「夕食の用意をしていないので、外に食べに行ってください。」
と突き放された。
グレイは帰って来てから床に倒れ込み、唸りながら
「俺たちはシェリーのご飯を食べれないのにカイルだけ食べる気か?」
スーウェンはダイニングのテーブルにうつ伏せになったまま
「食事が出来るまで待ちますから、何でもいいので作って欲しいです。もう一歩も動けません。」
「美味いメシが食べたい。美味いメシ。」
オルクスは一人、元気なようだ。この感じだとオルクスにグレイとスーウェンが振り回されたのだろう。
シェリーはため息を吐きながらキッチンに向かう。何か簡単なものでも作ろうかと考えていたところ、オルクスがカイルに文句を言っていた。
「おい、カイル。あのダンジョン、途轍もなく最悪じゃないか。何で、あんなところを勧めた!まともに攻略できないじゃないか。」
「俺は面白いダンジョンだから行ってみるといいよと言ったんだよ。」
「面白いだ?出口が無い部屋に閉じ込められたと思ったら、高い天井が出口だなんてあり得ないだろ。」
「ああ、それは仕掛けを外すと部屋が回転して、正面に道が出来る部屋だね。」
「え?仕掛けなんてあったのか?あんなに頑張らなくてよかったのか。」
グレイが床に転がったままつぶやいている。床にある仕掛けレバーを引っ張れば部屋が回転する仕組みのはずだが、かなりの高さの天井をどうやって登って、部屋から出たのだろう。
「それに床が勝手に動いて、同じところをグルグル回らされるし、意味がわからん。」
「ん?2階層上の魔物から光の玉がアイテムドロップしたと思うけど、それを部屋の入り口の石版に入れると、普通に進める様になるよ。」
「オルクス!やっぱり必要なアイテムだったじゃないか。俺が捨てるなと言った先から、捨てていたよな。」
一応、グレイは忠告をしたらしい。しかし、必須アイテムなしでどうやって先に進んだのだろう。カイルもそこが気になったのか
「その階層はどうやて攻略したのかな?」
「そんなモノは床より早く走ればいい。」
確かに床より早く走れば、進めるかもしれないが、それを実行するとなると体力の問題が出てくる。階層を突破するまで、トップスピードを維持できるかといえば、厳しいだろう。
そもそも、あの「愚者の常闇」のダンジョンはダンジョンマスターが獣人の体力バカにもう少し考えて行動することを強要するために作ったダンジョンである。
ダンジョンマスターが嫌う獣人の強引な攻略方法で3人が攻略してしまったことで、今頃、頭を抱えて文句を言っているに違いない。
シェリーは出来た食事を持って行きながらオルクスに苦言を呈する。
「オルクスさん。それでは、愚者の常闇のダンジョンに行った意味がありません。何の為にダンジョン攻略に行ったのですか?」
「決まっているだろレベルアップのためだ。」
「そうですよね。あのダンジョンは珍しく魔物を倒すことで経験値を貰えるのではなくて、階層のギミックを攻略することで経験値が貰えるのです。」
「「「は?」」」
カイルは食事の配膳を手伝いながらシェリーに尋ねる。
「それは、知らなかったな。かなり変わったダンジョンだと思ったけどね。」
「まともに攻略したのが私が初めてだったようで、泣きながらダンジョンマスターが最下層で出迎えてくれましたよ。なんでも、道が行き止まりだったら、取り敢えず壁を壊して進もうとする。見えない道を暗号通りに進めば出口に行けるはずが、獣人のあり得ない身体能力で見えない道を跳躍して飛び越えて行ってしまう。と散々愚痴を言われましたので、少々アドバイスをしておきました。」
シェリーの言葉を聞いたオルクスの目が泳いでいる。何か心当たりでもあるのだろうか。
「うんうん。今回は特に酷かったよね。」
突然、女性の声が降ってきた。声の元をたどると、床から女性の首が生えていた。
一番近くで床に寝そべっていたグレイは飛び起き、ダイニングの入り口まで後退して行く。
「特にそこの黄色いヤツ!君、ダメだね。あれをダンジョン攻略とは認めないからね。」
「生首が話すと気味が悪いので出てきてください。」
シェリーの言葉に首だけの女性は「よっこいしょ」という掛け声をかけながら、床から出てきた。その姿はショートカットの黒髪で黒目。白のTシャツにジーンズのズボンを履いており、この世界からは異質に見える姿をしていた。
「ササッチ、久しぶり!」
女性は軽い感じで片手を上げながらシェリーに挨拶をした。
「変なあだ名で呼ばないでください。」
「およ。今日はシエちゃんか、愚痴を聞いてもらいきたよ。」
床から出てきた女性はニコリと笑った。
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