第107話
佐々木は倒れた女性を助け起こし、炎王にお茶を入れ直すので落ち着く様に言う。炎王がため息を吐き、力の渦が霧散したことで、誰かのホッとため息を吐く声が聞こえた。
炎王は考える様に目を閉じ、腕を組む。
「俺だ。今すぐ例の商人たちを国から叩き出せ。出ていかないようなら、彼女に頼んで追い立てろ。ああ、今すぐだ。」
どうやら、炎国の誰かに連絡を取ったようだ。
佐々木はお茶を出し直し、もとの位置に座る。炎王はいろんな種類の和菓子を出しながら佐々木に問う。
「その情報はどこから出てきた。」
「謎の生命体。」
その言葉を発すると共に佐々木は夢でのことを再び思い出し苛ついてしまう。
「ん?宇宙人?」
「人を虫けらの様に見下した
佐々木のイライラが増していく。
「あ、ああ。すまん。」
なぜか、炎王に謝られてしまった。
「なぜ、巫女が狙われたのかわかるか?」
「詳しくは分かりませんが、光の巫女と私しか使えない魔術があるそうなのですが、私には検討が付きません。」
炎王は再び考える様に目を閉じ、そして、佐々木を見る。
「神の降臨はできるか?」
「は?それが何か?」
佐々木の声が一段と低くなる。
「う。神の話は禁句か?」
「いいえ。ただ夢で色々ありまして、怒りが収まりそうにありません。」
「聖女というのも大変だな。巫女達は光の神を降臨できる。まぁ、光の巫女と名乗る最低条件なのだが、普通はできないだろ?」
確かに普通そのようなことはできない。しかし、シェリーが、佐々木が、作り出したスキルに干渉しアレが化現するのは少し違う気がする。あの存在にとって、直接人々の前に現れることができないのなら、スキルという手段を用いるのも、神に問いかけて降臨を願うのも同じなのかもしれない。
「光の巫女を狙う連中の裏にいるのは誰だ?」
炎王は佐々木を睨み付けるように問いかける。
「マルス帝国のサウザール公爵です。」
「国の家臣でしかない公爵家に他国に干渉できるほどの力があるのか?」
「実質、裏の皇帝です。貴族を押さえつけ、国民を使い潰し、軍部を掌握している。一個人が持つには大きすぎる力です。しかし、それは裏の顔であって、他国から見れは良くも悪くも貴族という人物にしか見えません。私もある人に聞かなければ、たどり着けませんでした。一奴隷商を潰しただけでは解決できず。軍の一部隊を壊滅させても何も変わらなかったのです。」
「お、おう。」
佐々木の言葉に炎王はドン引きである。
「何かしらの意図があるのでしょうが、あまり踏み込めません。」
「なんだ?マルス帝国ってことは普通の人族なんだろ?聖女でもある佐々木さんが躊躇するのは何がある?」
「あのモルテ国と繋がっているのですよ。たかが人族、たかが公爵だと侮っては痛い目を見るのはこちらです。これ以上は手を出せませんでした。」
「でした?」
佐々木は笑った。満面の笑みだ。
「モルテ王のツガイを謎の生命体が用意してくれたのですよ。これで、交渉すればマルス帝国から手を引くかもしれません。心置き無くマルス帝国を潰せます。」
「一国を潰すか大きく出たな。」
「マルス帝国にその内手を下すということは隣国のラース公国の大公閣下、ギラン共和国のフェクトス総統閣下、シーラン王国のイーリスクロム陛下には言ってあります。ある程度の支援はしてくれると言われています。」
この隣国はマルス帝国からの被害が大きい国でもある。
「流石、根回しは完璧だな。まぁ、俺の国まで手を出してきたことに報いて欲しいが。ああ、国にはいつ来てくてる?なるべく早い方がいいのだが。」
「モルテ国に行ってから、炎国に向かうように言われましたので、1、2週間後ぐらいですかね。」
「それは誰に・・って聞かない方がいいな。」
佐々木の睨みつける反応を見て炎王は察した。
「まぁ。大体理解した。さて、長居しても悪いからな帰るとしようか。」
そう言って炎王は鳥人の女性と共に姿を消した。
炎王 side
「先程は悪かったな。」
メリナに謝っておく。予想もしなかったことをいきなり言われ頭に血が上ってしまった。
「いいえ。巫女様を狙ってくるなど許し難いことです。初代様が直接いらしてしまったので、必要ないかと思いますがお渡しします。」
メリナから手紙を受け取る。シェリーちゃんからの手紙のようだ。その時ヒラリと何かが落ちた。
「折り鶴?」
「あ、これは」
メリナが慌てて拾ったが、これはもしかして
「王太子に渡す物なら、ついでがあるから渡してやるよ。」
「あ、いえ。それは」
言い淀んでいるメリナの手から抜き取り、あいつの執務室に向かう。あの、クソ真面目なヤツがあのお弁当を見たらどういう反応をするか楽しみだなぁ。
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