第108話
炎王が消え去ったあと、佐々木は一眠りでもすれば心の平穏が保たれるだろうかと思い。さっさとこの場を去るために食器を片付け出すその手を掴む者がいた。
視線でたどるとオルクスが佐々木の手を掴んでいた。
「もう一度アイツと戦わせろ。」
あいつ?一体誰の事だろうか。
「銀髪のムカつくヤローだ。」
「レイアルティス王ですか?無理ですよ。」
「暴君レイアルティス・・・さっきもその名を出していたな。どういうことだ?」
オルクスは佐々木に詰め寄るが、佐々木はその分だけ距離を取る。
「どうもこうもありませんが、何度彼らに挑んでもオルクスさんは敵いませんよ。彼らと対等に渡り合えるのはカイルさんぐらいです。ですから、無理です。」
「もう一度やれば勝てる。」
「そもそもレベルが違い過ぎます。レイアルティス王はレベル130超えです。プラエフェクト将軍はレベル200を超えた超越者の粋に達しています。ですから彼らとマトモに戦えるのはカイルさんのみです。」
オルクスは悔しそうに唸り声をあげる。しかし、シェリーは以前、レベル124と言っていたが、レイアルティスに毎回勝つというその力。超越者と言ったプラエフェクト将軍の剣を捌き魔眼で操る佐々木の破壊者としての能力の凄さがどれほどのなのか垣間見える。
「先程、炎王に同じことを言われてしまって、皆落ち込んでしまっているのだよ。」
カイルは先程、お葬式のような空気になっていた理由を教えてくれた。どうやら、世界を浄化する聖女の番であり、最終的に魔王と向き合わなければならない聖女の番としては些か弱すぎるのではないかと言われたらしい。
炎王がどうやって彼らのステータスを知ることが出来たのかわからないが、カイル以外がここに居るべきではないと言われたと。
「レベル90の壁。それすら超えられない者がなぜここにいるのかって言われてしまってね。それはなかなか厳しい言葉だよね。」
レベル90の壁。通常はそれ以上のレベルが上がる事がなく頭打ちとなる。そして、冒険者のSランクになる最低条件がレベル100以上であること。それ程、レベルが100を超えることができない。
オルクスは確かに強い。しかし、それは種族的な素早さと力。そして、あの謎の生命体が付随させたプラエフェクト将軍の質により普通の人よりレベル以上の力が出ているに過ぎない。実質の能力はレベル86に付随するものだ。
それは人に対して、通常の魔物に対してなら十分なレベルである。しかし、これからもっと活性化する魔物に対して、完全体の次元の悪魔に対してだと全然足りない。
昨日、連行された第6師団のあの一室の中にいた兵たちの中の5人は20年前の魔王討伐戦を生き抜いた猛者たちであり、レベル100超えの者たちだった。しかし逆に言うとレベル100超えでなければ生き抜けなかったと言っていいだろう。
「レベルに関しては個人の問題ですから、私が口出すことではありません。私の、そしてシェリーの行動の邪魔さえしなければ構いません。」
「それは、一人で戦うから邪魔をするなと聞こえるけど?」
「ええ、そのつもりですから。シェリーが無理なら私が出ますし、問題ありません。」
「なぁ。さっきからシェリーとワタシって言ってるけど、どういうこと?」
グレイが尋ねて来た。確かにシェリーの口から上る言葉ではない。佐々木は答える。
「私はシェリーですが、シェリーは私の力を抑制した人格です。私はこのように表には出ることはほとんどありませんので安心してください。」
「安心?いや、シェリーが人間らしい表情をしているとは思ったけど、力の抑制ってしなければならないのか?」
佐々木は目を閉じ息を吐き出す。
「はぁ。そうですね。元統括副師団長の様に力の制御が出来なければ辺り一帯を壊してしまう程の力です。力の度合いをグレイさんにわかりやすく言うと、ラース公国にあるドルロール遺跡のダンジョンの攻略にかかる日数は2日です。」
「マジか。ありえない。あの勇者でさえ1ヶ月かかったと聞いたぞ。」
少し言い換えよう、勇者ナオフミはダンジョンでレベルアップと必要な物を探していたため1ヶ月かかってしまった。しかし、佐々木の場合はルークとそんなに離れるわけにはいかなかった為に2日しか時間をかけられなかった。その二人を比べるには少々条件が違う。
「ドルロール遺跡のダンジョンってなんだ?」
他国のことまでは流石にわからないオルクスが尋ねる。
「ラース公国で最難関のダンジョンだ。全100階層まであるが、通常は50階層までいければいいほうだと言われている。」
「今から行ってくる。」
オルクスは今からダンジョン攻略に出かけようとするが。
「オルクス。ダンジョン攻略にどれ程時間をかける気か知らないけど、その間にシェリーはモルテ国と炎国に行って5人目と会ってしまうよ。」
カイルがオルクスはシェリーの行く先に付いて行かないのかと問う。そして、カイルは5人目と会うことが確定しているように言う。
「それはダメだ。あー。どうすればいい!最低でもレベル100なんて普通じゃたどりつけない。あの銀髪に一撃を入れるのには全てが全然足りない。だが、番の側を離れるのはダメだ。」
レベル上げもしたいが、番とも離れたくない。ジレンマである。
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