第106話
結局、佐々木はカイルにキッチンから連れ出され、皆と共に食事を取ることになったのだが、皆が可愛い可愛いと言いながら食べるので佐々木の羞恥心は限界にきていた。その時、玄関からドアノッカーの音が響き渡った。佐々木はこれ幸いと思い玄関へ駆け出す。
「約束通りに来ました。」
昨日の青い翼を持つ鳥人の女性が立っていた。佐々木は女性に炎王への手紙と女性から催促された王太子への贈り物を手渡す。
「確かに受け取りました。」
女性は受け取った物を袋の中に入れ、さらに鞄の中に入れた。女性は一刻も早くこれを届けんがためにここを去ろうとしていたが、佐々木はそれを引き止める。
「お忙しいかもしれなせんが。少しお時間をいただけませんか?」
「何か?」
女性は引き止められたことで、少し機嫌が悪いようだ。
「その手紙の中には書いていない事が今朝わかりましたので、その事を炎王に言付け願いたいのです。」
「・・・。」
女性はしばし考えているのか、無言であらぬ方向に視線を向けている。
「初代様がこちらにこられるようです。」
「今からお一人で?」
「はい。少し時間が出来たようですので」
この女性はまるで、今ここにはいない炎王と言葉を交わしているかのように話している。
「そうですか。」
佐々木は一歩下がり、女性との距離を開けた。すると、地面から陣が形成し、人が現れた。黒髪に琥珀の目、そして頭の横から生えた先が2つに別れた角をもつ男性だ。
「佐々木さん。久しぶりだな。」
「お久しぶりです。炎王。」
「少し時間が出来たから、話を聞きにきた。ああ、秋の新作の和菓子が出ていたけど食べるか?」
「いただきましょう。」
佐々木はそう言って炎王と鳥人の女性を屋敷の中へ通した。
応接室に通そうとしたところ、そんな堅苦しくしなくていいと言われてしまったので、ダイニングに二人を通すと炎王が日本語で話かけてきた。
『佐々木さん、もしかして彼らは昔言っていた番?』
オリバーはカレーを食べて満足したのかこの場にはおらず、シェリーのツガイである彼らしかいなかった。
『ええ、そうです。』
『番にわからないようにするって言っていなかったか?』
『言いましたし、現にわからないようになっていました。』
『じゃ、この状態はどうした?あいつだけ仲間はずれか?』
あいつ?5人目のことだろうか。別に仲間はずれにしてはいないが、
『ちょっといじくちゃた。テヘペロ。と言う感じでいろいろ操作された結果です。』
『ああ、神か。』
炎王は隣で遠い目をしているので、彼もあの謎の生命体の被害者なんだろう。いきなり炎王がテーブルの上を見て『キャラ弁だ。』と日本語でつぶやき、佐々木はやっぱり応接室に行ってもらおうと炎王に近づけば空の弁当箱を渡されてしまった。
「これにキャラ弁詰めてくれないか。ゆで卵じゃなくて卵焼きを入れて欲しい。」
なぜかリクエストを受けてしまった。食べ残しを入れることはできないので、新たに作るため佐々木はキッチンに入って行く。
佐々木は炎王と鳥人の女性にお茶を出し、手早く『ピカピカ』と鳴く黄色いネズミを型取り弁当箱の中央に占領させ、周りを他の具材で詰めていくことで出来上がった弁当をダイニングへ持っていくとお葬式のような空気になっていた。一体この短時間に何があったのだろう。
「何かありましたか?」
佐々木はキャラ弁を炎王に渡しながら尋ねる。
「おお、ピカ○ュウ。いや、ちょっと爺臭い説教みたいなものだ。それで、今回の件を知っていそうなので直接聞きに来たのだが。」
「奥様が倒れられてから南方の商人と言う人物の接触はありましたか?」
「何回か来ている様だが、全て断っている。」
その言葉を聞いた佐々木はホッとため息を吐く。どうやら、薬を手に入れるための交渉まではいっていないようだ。
「断って正解です。」
佐々木は青い色の液体が入った小瓶を出す。あの呪い紛いの薬だ。
「多分、このような薬を高額で売りつけようとしてきます。」
「スッゲー色だな。これが薬?」
「いいえ。薬と言う名の呪いです。」
「ちょっと待て!薬が呪いってなんだ?」
佐々木はもう一つの赤い液体の入った小瓶を取り出し。
「これが治らない病を作り出すものです。赤い果物を食べられたと聞きました。この赤い液体を自然に体内に取り入れるように工夫したのでしょう。そして、青い液体を薬と言って高額で売りつけます。これは一旦治りますが、治ったように見せかける呪いで、再発します。これが、彼らのやり方です。」
「そいつらは金が目的か?」
「いいえ。彼らの目的は光の巫女を手に入れることだそうです。」
「なんだと!」
辺り一帯に力の渦がのし掛かり、炎王から迸る殺気で部屋中が満たされていく。炎王の隣にいる女性は耐えきれず、椅子から落ちてしまった。
「炎王。和菓子をください。まだ、いただいていません。」
佐々木はこの息もできないほどの力の渦の中、和菓子を要求した。
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