第104話
オルクスが佐々木の元に近づいて来て、左手を取る。
「早く治せって言っているだろ!」
肘から下が無くなっていることを指しているようだ。しかし、佐々木は瞬時に血止めをしているので問題はないと思うのだが、結界の外でそのことでも言っていたのだろうか。そうだとしたのなら、結界の内側に声など聞こえるはずがない。
「止血はしてあります。」
「ご主人様。そういう事ではありません。」
スーウェンは佐々木の斬り落とされた手を持ってきた。はっきり言って、このクラスSバージョンは少しの油断が命取りなる。そんな事でいちいち治療をしていたら、命の方を落とすことになるだろう。
ただ腕が一本落ちたぐらいで、スキルを使用している状態のところに乱入をしないで欲しい。
「まだスキルを使用しているので、乱入して来ないでください。」
佐々木はこうなってしまったのなら諦めるしかないか。
「ロビンさん、そして、レイアルティス王。今日はこれまでです。」
佐々木は亡者の二人に向かって言葉を放つ。自分のスキルで、作った
「あ゛?何を言っているんだ?夜はまだ明けないよな。もっと楽しめるよなぁ。」
まるで意思を持っているかのようにレイアルティスが話すのである。
「そうですよ。久しぶりに五体満足になったのですから、剣を一振りしただけで帰れって言うのは酷いですよ。シェリーさん。」
そう、亡者が意思を持っている。今も首だけがラフテリアのそばにいるロビンを亡者と言っていいのかわからないが、意思を持ち存在しているのだ。
「クソムカつくラースのお前じゃなくてもいいぞ。お前と殺り合うのも楽しいが、結局いつもお前には勝てんからつまらん。」
どれだけ佐々木とレイアルティスが殺り合ったのかわからないが、魔導王であり暴君と名高いレイアルティスに毎回勝つという佐々木はどれだけの強さがあるのだろう。
「僕もシェリーさんじゃなくてもいいですよ。僕の剣を全て吸収したシェリーさんと手合わせするより、たまには、他の人とも手合わせしたいですよね。」
聖剣であるロビンの剣を全て吸収してしまったというのは佐々木が聖剣と言ってもいいのではないだろうか。
「俺の相手をしてくれ。」
そう言いながらロビンの前に出てきたのは、グレイだった。
「魔導王は私の相手をしてくださいますか。」
シェリーの腕を佐々木に渡し、スーウェンが前に出る。
「一人じゃなくてもいいぞ。ああ、そこの聖剣と組むのも面白い宴になりそうだ。どうだ?」
「そうですね。今までシェリーさん一人でしたからね。複数人なら、そこの魔導王と組むのもいいかもしれません。」
ここで、ありえない組み合わせが出来てしまった。魔導王レイアルティスと聖剣ロビンが共闘するという現実ではありえないことが起こってしまった。
「周りに被害が及びそうなので、スキルの強制解除をします。」
慌てて佐々木がそう言うと
「「「「「ダメだ。」」」」」
と5人に否定をされてしまった。
佐々木は仕方がなく結界を3重に施す。これも持つかどうかわからない。
過去の聖女の番と現在の聖女の番同士がこの場に揃ってしまった。プラエフェクト将軍が残っていなかったことが唯一の救いかもしれない。この一帯が、いやメイルーン自体が破壊されてしまうところだった。
佐々木は予備動作なくその場から横に跳躍する。丁度、過去の聖女の番達と現在の聖女の番達の中間地点、審判がいるような位置だ。佐々木がいたところには手を出したまま固まっているカイルがいた。
「結界を張っているので、壊さない程度にしてください。危険だと感じたら私が入ります。」
「夜明けまで一刻程だ。それまで、楽しめるといいなぁ。」
とレイアルティスがニヤニヤしながら言う。
「この三人じゃ、一刻も持たないでしょう。」
と淡々と語るロビン。
その言葉に不快感を表すシェリーのツガイ達。カイルは佐々木の側によって来て
「ササキさん、早く手を治して」
と言ってきた。
「カイルさんはいいのですか?」
佐々木は視線を前に向けたままカイルに参戦しなくていいのかと問いかける。
「俺はササキさんの側にいるよ。」
そして、過去の聖女の番と現在の聖女の番同士手合わせが始まったのだが、力の差は歴然だった。
一番最初に脱落したのはグレイだった。ロビンの剣に腹を斬られ、レイアルティスが作り出したゴーレムに掴まれた地面に叩きつけられ、満身創痍になったところで、カイルに回収され佐々木に治療された。
そうなると、ロビン対オルクスとレイアルティス対スーウェンの構図が出来上がり、一対一の戦いになってしまった。こうなってくると、魔導も使うが直接攻撃として長剣を使うレイアルティスに、魔導のみで対抗するスーウェンに勝ち目はない。
逆に聖剣であり魔導も使用するロビンに対し、剣しか使わないオルクスは分が悪い。
過去の聖女の番たちにはあって、現在の聖女の番にはないもの、それは実戦での経験値の差だ。暴君の名で語り継がれているのは伊達ではない。番であるラフテリアの為に剣を取ることを決意したロビンの努力は何者にも勝る。そして、一番の差はやはりレベルである。
空が暁の色に染まる頃には、レイアルティスとロビンが悠然と立っているのであった。
「今宵の宴はまあまあだったが、少しもの足りんな。」
と言いながら消えていくレイアルティス。
「それじゃ、僕もラフテリアのところに帰るかな。またね、シェリーさん。」
と言って、ラフテリアの元へ帰るロビン。
そして、横たわるグレイとスーウェンとオルクスが地面とともに朝日に照らされるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます