第102話
シェリーは目を覚ます。いや、佐々木という人格が強くでたまま目覚めてしまった。あの謎の生命体がいらないことをした。佐々木が叫ぶ。心のそこから叫ぶ。
「シェリー!」
カイルがシェリーを抱きしめ声を掛けるが、佐々木には届かない。悔しさを悲しみを恨みを叫び声にして出しきった佐々木はカイルを見て
『離してください。』
と言うが、この世界にない言葉で話しているのに気付かない佐々木はカイルが離してくれないことに苛立ちを覚え、身動ぎをして無理やり抜け出す。
振り返ればグレイもスーウェンもオルクスもシェリーの部屋にいた。
『何故、貴方達が私の部屋にいるのです。』
そう言い放ち、佐々木は部屋を出て行く。
シェリーのツガイたちは戸惑っていた。寝ていたシェリーがいきなり叫び出したかと思えば、いつもの何事にもやる気が起きないが渋々動いているというシェリーの雰囲気では無くなり、凛とした大人の女性の雰囲気を出したシェリーが理解できない言葉を話していたのだ。
佐々木は1階に降りダイニングに向う、もう、これは飲まないとやってられない。
ダイニングの扉を開くと夜中だというのに明かりが付いており、オリバーが食事をしていた。この時間にオリバーが食事をするのはいつものことなので佐々木はそのままキッチンへ向かい。保管庫の中から缶ビールを3本取り出す。これも炎王と直接取り引きをする事で得られたものだ。
缶ビールを抱え持ちオリバーの向かい側に座る。
「荒れているな。来たのだろ?あの御仁。」
佐々木は答えず缶ビールを『プッシュ』っと開け、一気に飲み干す。
この体になってから酒には酔わなくなり、前世のときにように嫌な記憶を失うぐらい飲んで、翌日出社するということができなくなった。
苛立ちで、空き缶をメキョリっと握り潰す。
「シェリー君になると表情が豊かになるね。」
オリバーはシェリーと佐々木の違いを分かっているようで、佐々木自身その事を話てはないが、佐々木が強く表に出ているときは『シェリー君』と呼ぶ。
佐々木は缶ビールをもう1本開け、一口飲む。
『所詮、私など虫けら同然ということですよ。』
「わかる言葉を話してくれないかな。今日は特に酷いね。魔眼が滲み出ているよ。」
オリバーにそう指摘され、落ち着く為に息を吐き出すが、この苛立ちが無くなることはない
「お礼だと言われ、私の未練を突き付けられたのですよ。」
「シェリー君に未練などあったのかね?」
「未練なく死ねる人間というのはどれ程いると思いますか?あの世界に置いて来たものはあまりにも大きい。それなのに!アレはいとも簡単に私を連れていき現実を見せつけた!アノ存在の手に掛かれば私の未練の塊の場所になどいとも簡単に行けるのだと。」
廊下側の扉が開きカイルが駆け込んできた。どうやら扉の外で聞いていたらしい。
「ササキさんどういう事?向こう側に行ってしまうの?」
カイルは焦った感じで早口で佐々木に尋ね、佐々木の手を握りこむ。
そんなカイルを佐々木は見て
「行けるわけないでしょ。死んだ私が存在しない世界でどんな顔して家族に会えと?あー最低。アレさえ見せつけられなければ・・・。」
佐々木は2本目を一気に飲み干す。そう、佐々木は見てしまったのだ。元旦那と子供たち、その横で微笑んでいる自分ではない女性が並んで道を歩いているところをアノ存在に見せつけられたのだ。いつまで未練がましくこの世界に縋っているのだと。お前の家族は新しい道を歩み始めたのだと。
メキョリと2本目の空き缶も凹んでしまった。
「シェリー君は何を見せつけられたのかな?」
オリバーからそう問われた佐々木はオリバーを睨みつけ、唇を噛みしめる。あの世界の家族が佐々木ではない女性を家族として共にいたなど佐々木の口から言わせようと言うのか。
わかってはいる。幼い子供達には母親が必要だということは理解をしている。しかし、理解をしていても現実として見せつけられるのは心は受け入れられない。
「私がいつまでもこの世界を受け入れられない事への嫌がらせですよ。この苛立ちが収まれば奥に引っ込みます。」
そう言いながら3本目の缶ビールを開け、飲み始める。
「それじゃ、シェリー君がいるうちにカレーを作ってもらおうかな。今回は教会に呼び出されたことだし。」
「この前、作りましたよね。」
確かにシェリーがお礼としてカレーを作っていた。
「シェリーのカレーも美味しいけどね。シェリー君の作るカレーの方が美味しいのだよ。」
「作り方も同じなので味も同じはずです。」
「ルークもシェリー君の作った食事を好んで食べていたよ。」
「そう、ルーちゃんが。」
佐々木は嬉しそうに微笑んだ。シェリーでは絶対に見られない表情だ。佐々木は残りのビールを飲み、立ち上がる。
「少し、頭を冷やしてから作りますよ。」
そう言って佐々木はダイニングを出ていった。
カイル side
「オリバーさん、彼女はあのように表に出てくる事があるのですか?」
カイルは今までシェリーが見せる表情の一つのように、少し現れては消えるシェリーの一部のように思っていた。しかし、二人の話からどうやらそうではないように思えてしまう。
「昔はね。シェリー君しかいなかったのだよ。いつからかな、シェリーがいるようになったのは。ここ最近は滅多に表に出なくなってしまったよね。シェリーより話がわかるから、シェリー君の方が表にいるほうがいいと思うのだけどね。」
シェリーがいるようになった?まるでそれはシェリーが存在しなかったような言い方だ。
「君たちからしたら不思議かもしれないが、シェリー君が本来のシェリーだ。彼女は強いよ。
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