第62話
ユウマをライターに預けシェリーは自宅がある西の商業地区へ足を向ける。
この、王都メイルーンは5つの地区に別れており、南には住宅地区、主に平民達が住む住宅がある。東には産業地区、主に技術者が集まっている。北は貴族専用の商業地区 、この地区に学園もある。西には一般の商業地区、冒険者ギルド、商業者ギルドはこちらは側にある。最後に中央地区は小高い丘の上にあり、貴族の屋敷、王城、時刻を知らせている教会もここにある。
もともと、丘の上にしか街がなかったのが、人口が増える度に外側へ拡張していったのが伺いしれる。
それが、南北、東西、に10キロメル四方に広がっていた。
通常では歩いては目的地まで行くことは大変なので同じルートを周回する魔道列車なるものが存在する。補充型魔石で動き、石板に魔術式を施した石畳の上を走る路面電車と言い換えればいいだろうか。
その魔道列車に乗り西地区まで帰るのだが、南地区の南教会から乗り南西門を経て、西地区の西教会で降りる。
魔道列車は各地区の教会と地区を別け隔てる壁にある門を通り王都の中を一周するのだ。
その、魔道列車の中でもシェリーは人の目を集めていた。4車両ある中で一番後ろの車両の一番後ろの席にいたのだが、立ち代わり入れ代わり遠目で人がシェリー達を見に来ているのが目の端にチラチラ写る。
シェリーはため息を吐き。
「カイルさん「イルでしょ」・・・。イル一人で座るので降ろして下さい。」
そう。シェリーはカイルの膝の上に座っており。右側にグレイが左側にスーウェンがいるのだ。
「ダメだよ。」
やはり否定されてしまった。南地区に行く時はよかった。朝の人々の移動時間と重なってしまった為に北教会から立って乗っていたのだ。正確にいうと、倒れたら大変だからと言って、グレイに抱き締められていたのだが、カイルとスーウェンがいたため、人の目に映ることはなかった。
しかし、帰りは朝と昼の間の時間となり、乗車している人が少なく、座席に座ることができてしまったのだ。確かに番である人達がこのように座っているのは見かけたことがある。シェリー自身が実際に体験することになろうとは思わなかった。
「シェリーにカイルさんじゃないですか。」
いきなり座席の前にやって来た男が話掛けてきた。
「マリードさん久しぶりです。『
そう彼はシェリーがカイルに捕まってしまった、あのダンジョン探索にシェリーが押し付けようと名を上げた人物だ。
「いやー。あのバカ達を制御するのは無理だね。中々大変だったよ。で、この面白い光景は何?前の車両に乗っていたけど、すっごいイケメン達を従えたチョー普通の女性が居るって聞いて興味津々で見にきてみたんだよ。」
「で、感想は?」
「横の二人わからないけど、シェリーとカイルさんなら納得。」
「理解ができませんが?」
「5年前から知っている者からすればってこと、あ、ここでおりるから、またな。ニールさんが依頼が片付かないってぼやいていたから、ギルドに顔を出した方がいいと思うよ。」
そう言って、マリードは冒険者ギルド前で降りていった。5年前とはカイルが王都に来たぐらいのときだ、それを知っていることで一体何が納得できるのかシェリーには全くわからなかった。シェリーに会う前と会った後のカイルを知っている者はとの説明がされていないので、シェリーに理解できるはずもなかった。
シェリー達は西教会前で降り、東へ向かって歩いていく。中央地区のほうだ。中央地区は第一層と第二層に分けられ第一層は中央教会、王城、王族に連なる者達、公爵や侯爵の爵位を持つ者達が住むエリアだ。第一層門を通過するには特別な許可書が必要となってくる。
第二層には伯爵の爵位を持つ者達が住むことができるが、貴族だけが住めるところではなく商人や冒険者も住んでいたりする。ただ、屋敷の購入費、管理維持費が高額になってくるのでそれなりに、収入がなければ住むことができない。
その中央地区の第二層に向かってシェリーは進んでいる。
教会から一直線で中央地区に入る門までたどり着いた。馬車道が大きく幅を利かせている横に人が出入りする用の小さな門がある。ここで、身分証を提示し中へ入ることができるのだ。しかし、ここで足止めをされてしまった。グレイとスーウェンの身分証偽造が疑われてしまった。
「だから、ラース公国の第二公子様とエルフのシュエーレン家の方々がなんで歩いて西第二層門に来るのですかね。」
全くその通りではある。そう言っているのは西第二層門の若い門兵である。
「そもそもそのような方が来られることは連絡を受けていません。」
それもそうだろうと思う。面倒くさくなったシェリーは二人を置いていこうと考えた。冒険者ギルドのタグを提示してシェリーが言う。
「わたしの家はこの中にあるので、通してください。」
門兵は怪訝な顔をして
「はん?Bランクで第二層に住めるわけないだろう。」
シェリーは思わずため息が出てしまった。
「あなたでは話にならない。上の人を呼んで来て下さい。」
そもそもいつもの門兵じゃないから、話がややこしくなるのだ。この目の前にいる若い門兵は今年騎士養成学園を卒業したばかりの者だろう。
「なんだ。お前は」
門兵がシェリーに突っ掛かろうしたとき、カイルとグレイとスーウェンから怒気が放たれた。
「ひいぃぃぃぃ。」
所詮、新米の門兵だ。三人から放たれた怒気に後退りする。
「なんだ。なんだ。」
異変を感じたのか、石造りの門の待機所の扉から狼獣人が出てきた。青黒い色の髪に黒い目をしている30歳ぐらいの青狼獣人で甲冑を纏った姿の男性だ。
「クストさんお久しぶりです。遠出してきたので、早く帰りたいので中に入れてもらえませんか?」
「おう。3週間ぶりか?いいぞ通って。」
「団長きちんと確認した方がいいです。後ろの二人は身分証偽造の疑いです。」
「なんだ?偽造なんて出来ないぞ。」
「ラース公国の第二公子って無理ありますよね。そもそも、そこの女だってBランクで第二層に住んでいるのはおかしいじゃないですか!」
3人のイライラ度合いが更に増す。
「ん?最近の若い者はラースの目も知らんのか。そこの嬢ちゃんはラース公国の大公閣下の血族だぞ。なら、第二公子様が訪ねてきても可笑しくはないよな。」
「え?」
若い門兵は青い顔をして、シェリー達を見る。
「すまんかったな。よく、指導しておくから許してくれんか。」
「第6師団長のクストさんに頭を下げられたら許さない分けないじゃないですか。そこの君、王族も忍びで街に出歩くこともあるので、各国の要人は頭に入れた方がいいですよ。」
そう言ってシェリーは第二層に入っていった。
「命拾いしたな。」
「え?」
「言っておくが普通は身分証なんて偽造できないぞ。それに、本人を見ればわかるだろ。赤色の金狼なんて、ラースの第二公子しかいない。あんな深い青を持つエルフはシュエーレンの三男ぐらいだ。それにお前が一番突っ掛かっていた嬢ちゃんはおそらく勇者と聖女の血を引いているぞ。俺と同じ黒を纏っているからな。」
「黒色なんてどこにもなかったじゃないですか。」
「はあん?勇者の黒を纏ってどうどう街を歩けるっていうのか?まあ、周りにいた野郎どもが今は守ってくれそうだな。しっかし、おれは死を覚悟したぞ !見てみろ尻尾がまだ内巻きになってるだろ。喧嘩売る相手はよく見てから売れよ。」
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補足
みなさんお気づきかと思いますが、騎士養成学園を出ているのに門兵と記述していることです。誤記ではなくそういう記述にしております。
シーラン王国の騎士養成学園出身者は騎士団への入団しくは軍の幹部候補生となります。王族の護衛をする近衛隊。王宮の中を警備する第1師団。高位貴族が住む第一階層の警備をする第2師団。以上が騎士養成学園出身者で固められており、騎士と名乗ることができます。
第3師団からは軍属となり一般志願者も混じってきます。その中でも騎士養成学園出身者は幹部候補として軍属することになります。なので新人門兵は幹部候補生として実施体験中なのです。
近衛隊を除く第1師団から第10師団までを統括師団長閣下の指揮権のもと動くのです。
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