第63話
シェリーは一軒の屋敷の前に立っていた。庭は広く奥には別宅まで見える。屋敷は3階建ての一体いくつ部屋があるのだろうと思うほどの屋敷である。
元々豪商が所有していた物件だったのだが、魔王討伐の際に商売が立ちいかなくなり手放したのだ。その後にシェリー達が住む様になったのだった。
しかし、シェリーは一向に屋敷に入ろうとしない。心配になりカイルが声を掛けるが、扉のノブに手をかけたままだ。
シェリーが突然扉を一瞬開き、何かを放ち直ぐに扉を閉めた。その途端、『ギャァァァァァ━━━━━』断末魔の叫びが屋敷中に響き渡った。叫び声が収まり
「完璧」
そう言ってシェリーが扉を開く。中は焦げ
「シェリー、大丈夫なのか?」
グレイが心配になって声を掛けてきた。
スーウェンは顔を青くしている。流石にあの断末魔の叫びはこの世の終わりかと思える声だった。
「問題ありません。ゴミの処理をしただけですから。」
ゴミは叫び声はあげない。
シェリーはそのまま屋敷の中に入って行く。その後に平然とした顔のカイルが続き、ビクビクしたグレイとスーウェンが中に入って来た。
中に入ると広い吹き抜けのホール状になっており、二階へ続く階段が正面から二手に別れて伸びている。通常なら威厳ある姿で客を出迎えるのだが、今はところどこと得体のしれない何かの残骸があちらこちらに転がっている。シェリーはそれらを無視し右側の廊下に入って行き、リビングに向かっていった。
「シェリーあれはあのままでいいのか?」
リビングに入って来たグレイが廊下の方を見ながら尋ねる。
「それは、掃除用のスライムがいるので、処理をしてくれます。」
「掃除用のスライム?」
「昼食を作りますけど食べますか?」
この辺り一面に焦げ臭い匂いが立ち込めている状況で聞くことだろうか。しかし、番であるシェリーが作るといえばそんなことは関係がない。
「「「食べる。」」」
三人の答えが揃うのだ。
その答えを聞きシェリーはキッチンへ向かうが、その手前にあるダイニングの惨状を見た瞬間、無表情のシェリーが顔を歪めた。
「片付けぐらいしろ。」
同居人であるオリバーが食事をしたまま、片付けもせずそのまま放置されていたのだった。いつもなら、シェリーがいなくてもルークがしてくれていたのだが、そのルークは騎士養成学園に行っているためここにはいない。なので、この惨状である。
「シェリー手伝うよ。」
いつのまにかカイルが来ていて、食器を運んでいってくれていた。
時間はかかってしまったが、昼食には無事ありつけ、その頃には屋敷に充満していた不快な
「シェリー、あれはなんだったのですか?」
どうしても気になってしまったスーウェンが尋ねる。ちなみにシェリーはグレイの膝の上でお茶を飲んでいる。
「あれは、失敗作?偶発的産物?同居人の実験で出来上がったモノで、廊下で徘徊しているモノは実験室から勝手に出て、勝手に徘徊しているので、駆除対象にしていいものなので見つけたら、駆除しておいてください。それが出来ないのなら、今すぐ出ていって下さいね。因みにお掃除スライムは玉虫色をしているのでよく分かると思います。それは、掃除をしているだけなので、駆除しないでください。」
「あれはここには入って来ないのか?」
グレイがシェリーの髪をいじりながら問う。
「室内にはお掃除スライム以外明確な知性を持つ者しか入れないようになっています。偶発的に知性を持ってしまえば入ってくるでしょうね。」
恐ろしい事を言っている。
「一体何を作っているんだ?」
「さあ、前に作っていたものは、三軒先の伯爵婦人の腰痛の薬でしたけど?」
「「それ、薬じゃない!!」」
グレイとスーウェンの声が揃う。
「でも、カークスさんの薬は良く効くと評判だからね。」
カイルがシェリーの隣で手を握りながら言う。
「「カークス?」」
「あれ?シェリーの名前知らないのかな。シェリー・カークスでこの辺りじゃ通っているよ。」
「「あ。」」
確かに奴隷オークションでサインしたとき、シェリーミディア・カークスの名をサインしていた。
「まあ、あの偶発的産物が嫌なら、ライターさんみたいに出ていってくださいね。」
そうなのだ、ルークの為に他国から招いた元討伐隊の騎士であるライターはこの屋敷に住んでルークを教えてもらうはずだったのだ。
しかし、この得体のしれない生物が徘徊する屋敷に毎日悲鳴をあげて精神を磨り減らされていったのだ。本当に討伐隊に参加していたのかと疑問に思うほどだ。なので、早々に屋敷を出て、南地区に住だしルークが通うことになったのだ。
「「出ていかないからな。」」
またしても、グレイとスーウェンの声が重なる。
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