6章 王都メイルーン

第61話

 やっと王都メイルーンまで帰ってきた、あの家に帰ってもルークが出迎えてくれないので、残念ではあるが、10年は過ごした街である。見馴れた景色に安堵感を覚えた。

 シェリーは北門から王都に入ってきたが、家には戻らず、そのまま南地区までやって来た。

 北門周辺は貴族御用達の商業地区なので 整然と構えた建物が多かったが、南門の付近まで来ると雑多と表現をするほどゴチャゴチャと店が建ち並ぶ、言い換えれば活気がいいとも言う。そこから路地の奥に入って足を進めて行く。


「おい、こんな所にお前の家があるのか?」


 不安になってきたユウマが問う。


「私の家は、西の商業地区です。」


「じゃあ、どこに向かっているんだ。」


「わたしには騎士の剣なんてわかりませんので、それを教えてくれる人のところです。」


 そう言ってシェリーは三階建ての一件の家の前に立つ。扉に付けてあるドアノッカーを鳴らし、少し待つと中から「お待ち下さい。」と女性の声がし、扉に備え付けてある格子窓が開いた。


「どちら様ですか?」


 50歳ぐらいの女性が顔をだす。


「シェリーです。ライターさんはいらっしゃいますか。」


「まあまあ、シェリーちゃん。どうぞ、中に入って来て」


 女性は格子窓を閉め、扉を開ける。


「上がって来て、あら、シェリーちゃん。ルーちゃんがいなくて寂しいからって、こんなにいい男ばかり引っかけてきたの?」


 シェリーの後ろに立っている4人のイケメンを見て、女性は顔を赤くして興奮している。


「引っかけてないです。失礼します。」


 シェリーは勝手知った家の様に奥へと進んで行く。


「こんにちは、マダム。」

「失礼します。」

「お邪魔します。」

「・・・す。」


 それぞれが、女性に挨拶し、シェリーに続いて奥へと入っていった。


 シェリーは薄暗い廊下を進みそのまま奥のドアを開ける。そこは、建物に囲まれた広い中庭だった。地面がむき出しになっている中庭には一人の男性が剣を振るっていた。いやもう一人いた。地面の上で寝そべっているようだ。


「ライターさん」


 シェリーが声をかけるとその男性が振り向く。


「おう。シェリーの嬢ちゃんじゃないか久しぶりだな。」


 その男は白髪混じりの金髪で青い目をしているが右目は眼帯をしている。身体も剣を振るうのに相応しい、ガッチリとした体型の50歳くらいの人族だ。


「1ヶ月前に会いましたが?もう、ボケ始めたのですか。」


「嬢ちゃんは細かいな。で、ルークがいないからって、いい男ばかり連れてそんなに寂・・」


 シェリーは最後まで言わせなかった。この中庭一帯が闇に包まれた。


「何故にルーちゃんの代わりができると思うのか不思議なんですけど?」


 闇夜のそこから次々と骸骨が這い出してきた。人族のものもあれば獣人と思えるものも、はたまた魔物と思えるものもある。


「おおう。嬢ちゃんちょっと待て俺が悪かったからそいつらを下げてくれ。」


 スキル

  亡者ドールの強襲

 さまざまな骸骨の亡者=ドールがさまざまな武器を持ち寄り四方八方から攻撃をしてくる。倒しても経験値は入らない。

 コレってもう聖女じゃなく魔女だよね。

 

 このスキルはシェリーが訓練用に作り出したもので所詮ドールである。


「リッター起きろ寝ている場合じゃねえ。」


 ライターは地面で倒れている者に声をかけるが返事がない。仕方がなく小脇に抱え、片手で亡者を相手をすること8半刻15分ライターは地面に仰向けで倒れていた。

━空が青いな━

 流石に一人抱えながらはキツかったようだ。


「ライターさん」


 シェリーは瞳孔が開いた目で倒れたライターを覗き込む。


「うぉ。なんだ。」


「実はお願いがありまして」


「これが人に物を頼む態度か?」


「ライターさんが普通に対応してくれれば、こちらも普通に対応しましたが?」


「あ、悪かった。」


 ライターは体を起こし地面に胡座をかく。


「で、なんだ。」


「もう一人、問題児をみて欲しいのですよ。そして、来年の騎士養成学園に入学させてください。」


「無茶苦茶だ。どのガキだ。」


「あそこで腰を抜かしているお子様です。」


 シェリーが指した先には先程の骸骨にビビって腰を抜かしているユウマがいた。


「あん?なんかどっかで見た顔だな。」


「ナオフミ・コジマの息子でユウマ・コジマです。」


「おお。息子。ナオフミそっくりじゃねーか。」


「ただ、勇者が甘やかしているので、すべてがダメです。基本的な教養もなければ一般常識も知らない。12歳でレベル1の生意気なガキです。1年で500万出します。」


「その歳でレベル1?一年ですべて身につけろと言うのか。いくらなんでも、バカでも無理だとわかるだろ。」


「本人はやる気満々です。勇者から何してもいいと言われているので、そこのウザうさぎと一緒に面倒みてください。」


 ナオフミは何をしてもいいとは言ってはいない。シェリーはもとからユウマの面倒はライターに押し付けるつもりであったため、ゴリ押しで話を進めていく。


「ユウマさん、こちらは魔王討伐隊で勇者と同じく本隊で活躍された元騎士の方です。人族の方なので、色々参考になるかと思いますので、一年頑張って教えてもらってください。では、ライターさんお願いします。」


 そして、腰を抜かしているユウマと疲れ果てているライターを残し、シェリーはそのまま建物の中へ戻って行く。


「嬢ちゃんちょっとまて、まだ、返事をしてないぞ。」


 ライターはそう言っているのが聞こえているが、ドアが閉まる音にかき消された。

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