第50話

 結局、借りていた10件の金貸業者に、全てそのまま返却し事なきを得た。しかし、予定が大幅に狂い出発時間が大分過ぎてしまい夕刻になってしまった。



 あれから、少年に経緯を聞き出し 、金をそのまま返すことになったのだが、シェリーとしては自業自得なんだから自分で借りたものは自分で返せばいいという考えであったのに、他の三人が子供にそんなことはさせられない言って意見が別れた。


 シェリーは予定が狂うことがとても苛立つ性格であり、自分は先にグリードへ戻るから、少年に付き合ってあげるといいと、妥協案を出したのだが、三人に却下された。何この三人結構仲がいいのかと思う程である。

 ホテルはチェックアウトをしてしまったので、その辺プラプラするという案も却下され、シェリーはふて腐れていた。


━時間の無駄。時間は有限。何故に皆で行動を共にしなければならない。皆バラバラで行動をすればいい。━


 しかし、カイルとグレイはシェリーから目を離す気はなかった。番である自分たちから見つからないように特殊な認識阻害の魔道具まで作ったシェリーのことである。少しでも目を離せば、空を掴む程に姿を消すことになることは容易に想像できる。

 この国にいるあいだは、魔道具を使われないから安心はできるが、ラース公国へ戻れば、シーラン王国に戻れば安心はできない。


 そういうわけで、無表情な上に不機嫌なオーラを醸し出した黒髪の美人な女性と竜人族、金狼族にエルフ族のイケメンの青年たちが女性のご機嫌を取りながら道を歩いている様は人々の目を引くこととなった。




「もう、夕刻になるけど、どうするつもり?」


 シェリーの機嫌は地を這うがごとく悪かった。


「帝都から国境まで騎獣で1日半。国境から公都まで半日。二日はかかるけど、明後日の朝に間に合うつもり?それともそこのエルフの転移で行くつもり?国境の手続きしないと、あとあとこの国はとても面倒なんだけど?」


「ご主人様、姉上の嫁ぎ先であるラース大公家には何度も行っておりますので転移でいけます。」


「それは、身内だから転移で国を移動することが認められているから、マルス帝国を飛び越えて転移しているだけでしょう?

 わたしたちはきちんと入国手続きをしてこの国に入って来ているです。国境まではどうするのです?休みなしで800キロメル飛び続けろっていうの?明後日の3刻6時までには着いておきたいのに、ただでさえギリギリのスケジュールを組まれて、わたしをなんだと思ってるの?獣人の体力と一緒にしないでほしい。」


 今までの鬱憤が噴出してしまった。


「もう面倒。帰る。なんで私がそこまで付き合わなければならないのかわからない。魔人の対処よりその少年のことのほうが大事なんでしょ。魔人のことは勇者にでも頼めばいい。」


 カイルとグレイが同時にシェリーの腕を掴んだ。カイルはとても嫌な予感がした。グレイは本能で危険を感じた。

 シェリーの場合はなんでもありだ。転移はできないとは言ったが、ルークのところに飛ぶことはできないとは言っていない。シェリーのことだからルーク限定で駆けつけるようにしていてもおかしくはない。


「シェリーちょっと待って、考える時間をくれるかな?」


「カイルさん時間は有限です。」


「国境は絶対に越えなければいけないのか?」


「グレイさん隣国なのに知らないのですね。」


 シェリーの敬称呼びに二人は項垂れた。


「第16部隊の国境警備隊ですか。ご主人様。」


「正確には、第16部隊と第17部隊の混成部隊です。不法侵入、不法滞在、脱国、不法出国などを取り締まりますが 、滞在税を払えと徴収するために他国へ出向いたりします。うざいです。」


「では、シャーレン精霊王国へ抜けて、転移をするのはどうでしょう。帝都から直線距離で400キロメルで国境ですので、半日と少しで移動できます。明日の夕刻には公都へ転移して着くことができます。」


 現実的であり、目的の時間まで十分に余裕を持って着くことができる。しかし、シェリーは目を細め


「それは、その少年を確実に安全なとことへ送ることができる最善策。」


 そうなのだ国境の検問さえ通ることを目的にすればギラン共和国に抜ける方が早いのだ。そして、ギラン共和国に入国する方が確実に入国手続きに手間取らない。商人の国に客として入国するのが一番簡単なのだ。


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