第49話

 心地よい鳥の声が響き渡る音で目が覚めた。目の前にはここ最近はやっとなれた金色の目がある。


「おはよう。シェリー」


 カイルがシェリーに軽く口づけをする。

 背中に圧迫感があることから、グレイが後ろにいるんだろう。


「グレイさん手を「レイ」グ「レイ」」


 はぁとシェリーはため息をつく、レイと呼ばなければならないのだろう。


「レイ。起きますので手を離してください。」


「おはよ。シェリー」


 グレイもシェリーに軽く口づけをする。

 朝から胸やけが酷い。そう思いながら、起き上がるとソファーに座り目の下に隈がある目でこちらを睨むエルフの青年がいた。


「おっふ。」


 シェリーは存在すら忘れていた。一瞬地縛霊かと思うほど沈んだ気配がした。


「なぜ、わたしは奴隷になることを選択してしまったのです。許しがなければ近づくことすらできないなんて、わたしは愚かな選択をしてしまいました。」


 シェリーはボソリと呟く。


「エルフって頭がいいと聞いていたのにバカなの?考えれば妹さんの病気のこともおかしいって気づかないの?」


 自己嫌悪に落ちいているスーウェンには聞こえていないようで、カイルとグレイには聞こえていた。


「シェリーは全てマルス帝国の仕業だと言っているの?」


「あれ?知らないんですか?第19部隊、通称闇の工作部隊。あのとき、壊滅まであと一歩で隊長と副隊長は殺ったのですが、隊長補佐官が手強くて逃がしてしまったのがダメでした。」


「それもルークがらみかな?」


「ギラン共和国で活動中でした。まあ、何をしていたかは想像は容易ですが、指名手配されているわたしと間違えた様でしたので、二度とこんなことが無いようにとしたのですが、第19部隊を壊滅させれなかったのは残念です。

 第19部隊は他国から奴隷にする人を見つけ出して、自ら奴隷になったと認識させ、反抗の意思を持たない奴隷を作り出すための工作部隊です。えげつないです。」


「ということは、そこのスーウェンも妹さんの病気の治療の高い薬の代わりに奴隷契約をしたけれども、そもそもそれ自体が嘘ってわけか。」


「嘘ではなく。魔術の一種だそうですね。薬と魔術と毒を魔導式を用いて原因不明の病を作り出すそうです。呪いに近いです。

わたしが普通に治せなかったので相当悪質ですね。」


「妹の病気が作られたものだと言うのですか。」


 スーウェンがシェリーの話を聞いて復活したようだが。


「そう言うことなんで、気がつかなかったあなたが悪かったことになります。それで今日は予定通りに出発ですか。」


「私が悪いのか。」


 自己嫌悪の海から戻れるのは大分先になりそうだ。


「こいつの分の騎獣を買ったら、昼にはここを出よう。」


 そのグレイの言葉で、シェリーとカイルは動き出した。スーウェンはそのまま戻って来れるまで時間がかかりそうだった。



 その後、無事に騎獣を手に入れ予定通り昼前には帝都ウランザールを発つことが出来そうだということでホテルの一階のラウンジでシェリーたちは軽い軽食とお茶をとっている。

 その間にチェックアウトの手続きをホテル側にしてもらっているのだ。黒髪の美人の女性が、竜人族、金狼族、エルフ族のそろいもそろって美形の青年に囲まれているところに、水色の髪をした少年がいきなりシェリーの前にやって来て魔術を施行した。


「死ね。『氷結の刃』」


 無数の氷の刃がシェリーに向かって来るが一瞬にして粉々にされ少年がぶっ飛んで行った。これはグレイが目に見えぬ速さで物理的に氷の刃を潰し、少年を蹴飛ばしたのだ。


「おい、あれお前のところの弟じゃないのか。」


「はぁ。そうですね。申し訳ありません。ご主人様。」


 シェリーはスーウェンにご主人様呼ばわりされていた。スーウェンは蹴飛ばされた少年の元に行く。


「兄上、申し訳ありません。あの女を殺し損ねました。兄上を解放できましたのに。」


 あの少年はバカなのだろうか。マルス帝国の奴隷紋は特殊な魔術で拘束されているので契約者が死ぬとその奴隷も死ぬように設定されているのは有名だと言うのに、契約者である私が死ぬと少年の兄であるスーウェンザイルも死ぬことになる。無知とは恐ろしい。


「フール、このようなことはしてはなりません。」


「なぜですか。いろんなところからお金を集めて、2億5千万あれば余裕で兄上を取り戻せたと思っていたのに、あんな人間の女に兄上が奴隷として買われるなんて。」


 もしかして、彼が⑱の人なんだろうか、いろんなところからお金を集めた?見た目がの年頃がルークと同じぐらいなので借りることはできないはずだ。なんだか嫌な予感がする。はっきり言って2億なんてそうそう返せないのに、どうするつもりだったのだろう。まあ、シェリーには関係のない話だ。


「これは、私が受け入れたことなのです。私はご主人様と行きますので、家族のことは頼みましたよ。」


 いや、頼めないと思う。もしこの国で借金なんてしたら、利子だけで膨大になる酷い契約内容になっているはず。兄と同じ


「奴隷落ちかな。」


「シェリーどうしたの?」


 隣に座るカイルがパンケーキを一口大に切った物を差し出しながら聞いてきた。

━もう、お腹と胸がいっぱいなんだけど━


「あのエルフ少年。この国でお金を集めたというなら、奴隷落ちかなと思ったのです。」


 このパンケーキは食べなきゃいけないのだろうか。


「もしかして、困ってもこの国じゃ、お金を借りることもできないの?」


「人族には他国と変わらない契約内容だと聞きましたが、それ以外の種族にはえげつない程の利子が付くそうです。あの少年はどのようにお金を集めたのですかね。お金がそのままなら早く返す方が無難ですね。」


 結局パンケーキは口の中に押し込められてしまった。この話を黙って聞いていたグレイがスーウェンと少年の元に行き


「お前、どこで金を借りたんだ?」


 少年が借りた金貸業者は全てこの国の者だった。


「成人していない俺に貸してくれるのはこの国だけだったんだ。それに3日以内なら利子は付かないっていうからさ。」


「ねえ。エルフってやっぱりバカ?」



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