第48話
エルフの青年が姿を現してからこちらを睨みつづけている。その間もドドレイクが奴隷の説明をし続けているが、シェリーは殆ど聞いていなかった。
「というわけでしてブヒィ。血を一滴こちらにいただきたいのですブヒィ。」
何に血が一滴いるのかさっぱりわからないが、隣のカイルから声を掛けられ
「手を」
と言われたので素直に差し出す。チクリと痛むが針か何かで刺されたのであろう。カイルに青い石に指を押し付けられる。
石はドドレイクに渡されシェリーの指はカイルの口の中へ。それぐらいなら圧迫すればいいじゃないか。エルフの視線が痛い。もう本当に⑱の人に譲った方がいいのではないかと思ってしまう。
青い石はスーウェンの額に埋め込まれた。この石自体が魔力の固まりなので痛くはない。
「これにてすべての行程が完了しましたブヒィ。ありがとうございましたブヒィ。」
シェリーはカイルに促されソファーから立ち上がり、そのまま控え室を出た。まだ、オークションは続いているようで、廊下には人影はない。
「お腹空いた。」
シェリーの心の声が漏れてしまった。
「そうだね。もう
ホテルに戻って来たが、居心地が悪すぎだ。エルフの青年からの視線のトゲが刺さり続ける。
馬車の中でもこの食事中でも視線がそれることはない。しかも、カイルとグレイのイチャイチャ度がひどい、まるでエルフの青年に見せつける様にいつもより悪化している。
シェリーも普通なら抵抗するのだがメンタルゲージがマイナスに振り切っているので、腐りきった魚の目で二人の行動を受けていた。今現在、グレイの膝の上でカイルに食後のデザートを食べさせられていた。
「いい加減にしてくれないでしょうか。」
とうとう我慢できずにエルフの青年が言葉を発した。彼への対応はグレイに任せてあるので、端的な指示以外は放置している。
「なんだ、エルフの奴隷君。スーウェンザイル・シュエーレンとあろうものが奴隷まで身を落とすなんてな。」
「金狼のチビが相も変わらず生意気ですね。私は妹の病の薬のために奴隷であることを望んだのですよ。」
シェリーは聞いていたエルフの性格と違う様に思い、グレイに聞いてみた。
「レイ。もしかしてエルフ族は身内にあまいですか。」
「良くわかったな。エルフ族は他種族には排他的だが身内には激甘だ。」
グレイは上目遣いで質問するシェリーがかわいくて思わず、口づけをした。膝の上に乗っているため必然的に上目遣いにはなっただけで、シェリーの腐りきった魚の目に変わりはない。
「それです。私の番をいい加減に解放しなさい。」
カイルとグレイの目の色が変わる。
「それじゃ自己紹介でもしようか。まず俺から、カイザール・セイルーン。シェリーの番で第一夫だ。」
「籍入れてないし、初耳ですけど?」
「知っていると思うが改めて、グレイシャル・ラース。シェリーの番で第二夫だ。」
「いや。だから籍入れてないです。」
シェリーの否定の言葉を発するが誰も聞いてくれない。
「どういうことです。番が3人。」
「全員が揃えば5人だ。」
「あり得ない番は絶対的唯一。それになぜ私の番は私を見てくれないのですか?」
「シェリーに番の共鳴を期待してもダメだよ。番の感知能力はないらしいし、番を邪魔とさえ思っているよね。」
━目を合わせないのは視線が痛すぎて早くどこかにいかないかなと・・・。━
「レイ。取り合えず、用件と明日の行動の説明しておいて、わたしは疲れたから寝ます。」
シェリーはグレイの膝から降り、部屋の奥の扉に入った。
シェリーはベットにダイブする。高級ホテルだけあって、スプリングがよく聞いている。ドレスを着替えなければシワになってしまうなをと思いつつ、うとうと眠りに入ろうかというときにドアの開く音で覚醒した。
「シェリー。このまま寝てしまったらダメだよ。」
どうやら、カイルが入って来たようだ。ノックぐらいしてほしい。
「浴槽にお湯溜めたけどはいる?それとも一緒にはいる?」
「一人で入ります。」
シェリーは浴室に行きドレスを脱ぐ。下着姿のシェリーが映る鏡にはシェリーが映らず、黒髪黒目の同じ年頃の少女が鏡の向こうからこちらを見ている。手には人の首らしきものを抱えていた。
『仲間、増えたね。次はどんな子?何に苦しんだのかなぁ。何に絶望したのかなぁ。何に世界を壊したいほど憎んだのかなぁ。早く会いたいなぁ。』
少女はそう言って、鏡から消えた。鏡に映るのは、黒髪のピンクの目をしたシェリーだけだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます