第46話
このオークションの金額の呈示の仕方は簡単だ。オークション会場に入って受付作業をされたときに渡された、タブレット状の黒い石板に金額を専用のペンで書くのみ。それが会場前の巨大スクリーンと司会の手元の石板に表記される。
今はあのデブハゲブタもとい、ドドレイク・コートドランが挨拶をしている。どうすれば反省の言葉を「ブヒィ」と言うだろうか。
「だからシェリー見すぎ。向かい側の視線も気になるし後ろの席に行こうか。」
カイルにそう言われ、横抱きにされ後ろの席に座る・・・カイルの膝上に降ろされた。
確かに向かい側の視線はずっと感じていた。ボックス席自体正面を向くように造られているため、向かい側でも奥の席に座ると見えなくなるのだ。
「俺だけ前に置いていくなよ。」
グレイも後ろの席に来てカイルの隣に座る。前は4席あるが、後ろは扉の開閉部分が内側に開くため、2席しかないのだ。だから必然的にカイルに横抱きにされれば、グレイの膝に足がのることになる。
女王閣下の再来だ。誰にも見られてはいないがシェリーのメンタルゲージは赤く点灯している。
シェリーの精神的疲労のため第1部の間の記憶はほとんどない。今は、
不意に扉のノック音が響いた。
グレイが立ち上がり、扉を少し開け対応する。ボソボソ話して聞こえにくいが、グレイが苛立っていることはわかる。
「何があった?」
カイルが戻って来たグレイに尋ねる。
「お向かいの隊長さんからだ。オークションが終わったら食事でもいかがですかと誘われたが断ったぞ。」
ごり押しで渡されたのか、断ったはずの招待状を持っている。
「ヤっていいなら誘われるのもまんざらではありません。」
シェリーは真理の目を発動させる。案の定、盗聴と転送の魔術式が込められている。名前を聞かれるのはまずいと考えたシェリーは悪の女王風に言葉を変え。
「でも、今日購入する奴隷を愛でるのに時間を割きたいわ。改めてそれを返却して、詫び状でもつけておきなさい。レイ。」
「「しっんん!」」
二人の口を手で塞ぎ、声が漏れないようにする。そして、目でグレイにその招待状を持って出るように示唆した。
グレイは尻尾を喜び全開で振り出ていった。が、冷気を発している人物から恐ろしい程低い声が漏れる。
「どういうこと?俺のことはいっこうに呼び捨てさえしてくれないのに、グレイにはレイってどういうこと?家族になるって言ったのに」
魔人と対応する前に、魔王の降臨を阻止しなければならいようだ。第十三部隊の隊長に対しての対応はあれでよかったのだが、ここでカイルの対応を間違えると大変なことになりそうだ。
「じゃ、イルでどうですか。」
「もう一回呼んで。」
「イル。」
「シェリー愛してる。」
バン!といきなり扉が開いた。
「俺がいないのにイチャイチャするな」
「グレイさんお疲れ様です。」
グレイは膝から崩れ落ち、四つん這いになった。
「やっぱりさっきのは夢?白昼夢?なにこの崖から突き落とされる感覚。」
「シェリー、グレイもさっきの様に呼んでたほうがいいよ。」
「・・・レイ。」
「シェリー!夢じゃなかった。」
「へぇ。盗聴と転移ね。」
「本当にクズだな。」
シェリーは二人の間にいる。正確には二人の膝の上だ。いや、もうこれはおかしい。
「カイルさ「イル」グレイさ「レイ」わたしは一人で座りたいです。」
「「ダメ。」」
━負けるなわたし、がんばれわたし━
「イルとレイの間に座りたいなぁ。」
「「仕方がないな。」」
シェリーのメンタルゲージは残り1ポイントになった。
「あれ、彼女」
カイルが舞台上を指す。ラース公国の国境沿いで逃げ出していた空色の髪のうざぎ族の女性だ。
始まりの鐘が鳴った瞬間からどんどん値が上がっていく、ウサギ族が自分達の住みかから出て行くことは珍しく、外にいるウサギ族の大抵は番がいるために住みかから離れるくらいで、通常は一族の里から出ないのだ。ちなみにシーラン王国にもウサギ族はいるがあれは別の種族と思いたい。
彼女を競り落としたのは例の第十三部隊の隊長だった。
「ゲスが。」
「シェリー次は例の彼だよ。」
「レイに任せます。料金もそちら持ちですから、まあ、白い人物の介入があると思われますので、わたしの予想では手持ち金額ギリギリで落ちる予想です。」
シェリーは舞台を見ずに上を見る。天井しか目には写らないが、絶対にこの状況を楽しんでいる人物がいることを確信していた。
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補足
シェリーのヤっていいは→殺っていいです。盗聴されたかたはどう解釈されたかはわかりません。
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