第45話

 夏の日差しの強さは無く なったが、まだ日が陰らぬ夕刻の時間にシェリーは白い石造りの巨大な建物の前に立っていた。白い大きな柱に4階層に渡りいくつもの窓が見え、そこから人の影や、光が垣間見える。

 ここにたどり着くまで、とても大変だった。


 ホテルの人にドレスアップの為の人の手配をお願いしたが、来てくれた女性が始めから怯えるようにビクビクしており、ドレスと化粧はなんとかなったが、髪を結うように頼めば、「すみません。すみません。」を連呼され、使えなくて髪を結わずに帰した。

 ホテルの女性が出ていったと同時に、カイルとグレイが待ってましたと言わんばかりに、支度部屋に入ってきて、「かわいい、キレイ、外に出したくない」を連呼され、グレイが買ってきた髪止めを使っていないことに気がつき、気に入らなかったのかと落ち込んでいたので、ホテルの女性が怯えすぎて髪を結えなかったと言ったら、二人して

「ホテルにクレーム入れないとね。」

「あ?ふざけんじゃねぇ」

 と人でも殺してそうな顔で出て行こうとするので必死に止め。髪はカイルに結ってもらうことで落ち着いた。


 馬車もホテル側に頼んだのだが、4頭の馬が引く六人乗りの馬車を用意された時点でシェリーは理解した。

 これは黒髪のわたしに怯えているのではなく、竜人族と赤色の金狼族を従えている得体の知れない黒髪の女に怯えているのだと。どこの悪の女王だ。そんなスペックはわたしにはない。

 しかし、客観的に見ればどうだ、竜人が甲斐甲斐しく身の回りの世話をするツガイには見えない女はなんだ。誇り高い金狼族が付き従うツガイには見えない女はなんだ。

 そして、その女が奴隷オークションに行こうとしている。最悪だ。悪の女王を否定する要素が何処にも見当たらない。


 そして、シェリーは身分に不釣り合いな六人乗りの馬車をカイルの手を借りて会場前に降り立ち、とてつもなく多くの視線を集める。

 もう、いい諦めよう。どう転んでも、イケメンの竜人とイケメンの金狼を自分の色である黒をまとわせ、連れ歩く黒髪の傲慢女という客観的要素を排除出来ないのなら、どうどうと悪の女王で行こう。それにしても、二人して黒の燕尾服を着なくてもいいのではないのだろうか。


 諦めの境地のシェリーはカイルに腕を組まされ、入り口で参加者の確認をされたあと、建物の中に入っていった。

 中は豪華絢爛と言っていいほど金の装飾を横目に、鈴なりのクリスタルが光を乱反射するシャンデリアの下、赤いフワフワの絨毯の上を歩いていく。その間もたくさんの視線と『あれはどこの誰だ』という声も聞こえてくる。

 指定された席は2階のボックス席だ。

 これでもグレイはこの国の皇族と同等の大公の者なのでボックス席を手配できたようだ。

 丁度向かい側の席にも人が来たようだ。シェリーは持ってた扇で顔を隠す。この扇はあちらからは見えないが、こちら側からは見える仕様になっているものだ。

 あれは、見たことがある。この国の第十三部隊の副隊長だったか。別名奴隷部隊と言われる奴隷商に軍兵を派遣する部隊だ。相変わらず腐った野郎だ。美人の女奴隷ばかり侍らせている。腐ってもげる祝福もとい呪いでも送っておこうか。と考えていると視界を塞がれた。


「シェリー、いくらなんでも見すぎじゃないかな。」


 シェリーはカイルの手で目を塞がれていた。


「呪いでも送っておこうかと考えていたんですよ。」


「それでも他の男を見ないで欲しいな。」


「第十三部隊の隊長のいいところは顔だけだ。シェリーが見る価値もない。」


 シェリーはカイルとグレイの両方から見つめられる。しかし、シェリーは眉をひそめ。


「隊長?隊長に昇格したのですか?あの腐った野郎ゲスが?」


「ああ。ここ数年の第十三部隊の編制と功績が認められてな。」


「ふーん。」


 会場の光が徐々に消されていく。


「どうやら、もうすぐ始まるみたいだね。」


━ああ、やっぱりこの国は腐っているなぁ。━

 シェリーはこころに強く思うのだった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

補足

 シェリーはグレイのお陰でよいホテル、よい部屋、よい馬車にボックス席を用意されていると思っているようですが、シェリー自身も大公閣下の姪であり、カイルもセイルーン竜王国の王族なので、よい待遇になっております。


 ホテルの女性はそんな高貴な人たちの中心人物である女性のドレスアップを侍女ではなく、ただの従業員の身でしかない自分にさせているので、ビクビクしてました。

━この人無表情で機嫌が悪いの?私もう無理━

 という、従業員の女性からの心の内でした。

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