4章 人族の権利と獣人の権利
第44話
ギルバートの
1日準備期間で使用し、夜中に公都グリードを出発、翌日の昼には国境を越えることができたが、他国の冒険者ということもあり、少々時間を取られてしまった。
全行程1000キロメル北西に強行的移動を行い、次の日の夕方には帝都ウランザールについた。
黒髪のシェリーはホテルの部屋のソファーで倒れていた。周りには誰も居らず一人きりだ。一人部屋ではない、シェリー的には一向に一人部屋でかまわないのだが、他の2人が許してくれないのだ。
では、他の2人はどうしているかというと、グレイはドレスコードがあるからと言って洋服を見繕うためにホテルを出ていき、カイルは参加手続きと周辺の様子を見るために出ていった。
シェリーは先程から全く動く様子がない。聖人ではあるが、体力は普通の人族と変わらないのに獣人の体力に合わせた移動行程を実行しないで欲しかった。例え騎獣がもっても、シェリーの体力が持たなかったのだ。
「シェリー、シェリー起きて。食事にしよう。」
寝ているところを起こされた。
「寝たい。」
「オークションの打ち合わせがあるから起きて。」
「わたしはもういいです。ツガイはいりません。」
「あと4日で魔導師が確保できる
「・・・。ちっ。」
シェリーは仕方がなく起き上がる。倒れる前より部屋には荷物が増えていた。ダイニングテーブルには食事が並び、床にはいくつかの箱が積み上がっている。
「シェリーおはよ。シェリーにぴったりなドレス買って来たからな。」
「わたしはこのままでいいです。」
「それだと会場に入れてもらえないからね。取り敢えず食事にしようか。」
カイルの膝の上に座らされ、グレイに食事を食べせられる。が、最近の食事風景だ。変わっても、カイルとグレイの位置が代わるだけである。
「食事は一人でゆっくり食べたいのですが」
と抗議すれば
「シェリーは俺たちに食べさせてくれたらいいんだよ。」
と違う答えが帰って来てしまった。いつまでこの精神的苦痛に耐えればいいのだろう。
食事が終わり、食後のお茶を飲んでいると、グレイが立ち上がり、シェリーの前に箱を一つ持ってきた。
「シェリーにぴったりなドレスを見つけてきたんだ。」
尻尾をブンブンと音がしそうなぐらい振りながらグレイが箱の蓋を開けた。中にはドレスが入っていたが、この配色誰が買うんだというドレスだった。
スパイダーシルクを銀に染め、赤色に染めた刺繍糸に金糸が混じった刺繍がドレス全体に施してあり、細身の体にフィットするドレスだった。
これはもう何者かの介入を完璧に感じる仕上がりになっていた。
「もう、これはシェリーのためのドレスだと思ったんだ。」
「本当にシェリーにピッタリなドレスだね。」
グレイは誉めて誉めてと言わんばかりに尻尾を振り、カイルは怪しい感じに金の目が光っている。
「これを選んだときに店の人がいきなり作製案が浮かんできて1週間で仕上げたんだと自慢されたんだよ。」
━お店の見ず知らずのかた、ご苦労様です。これだけの刺繍を一週間で仕上げることになってしまって、直前にオーダーを強制的に通したものに会ったら文句は言っておきます。━
シェリーは見ず知らずの人に心でお詫びを申し上げた。
「次はこっちの情報かな?オークションは今日と明日の二日間行われ、例の彼はやはり最終日の明日に出される。これが出品一覧の冊子ね。」
「シェリーの言うとおりまじで、奴隷として出品されてるのか。あれ、ザイルってなってるけど、偽名っていけるのか?」
「スーウェンザイル・シュエーレンなんて、あの偏屈なエルフの族長の息子って有名ですので、きっと買い手がつかないかも、と思ったのではないですか?顔はそこまで表に出ていませんし、別に偽名というほどではないでしょう。契約時に本名がわかるという、ある意味、詐欺的手法ですか。」
「それで、明日の
「シェリー。デートしようぜ。」
「それいいですね。」
「却下。黒髪でうろうろしたくありません。ここに来るまでも、たくさんの人の視線を感じましたし、外に出たくないです。帝国滅ぼしていいですかね。」
「シェリーが美人だからみんな見ているだけだよ。それと滅ぼすのはまた今度にしようね。今は時間がないから。」
「シェリーが美人なのは当たり前だが、帝国を滅ぼして、ラースに難民が来ても受け入れられないからやめてくれ。」
「そおね、無関係な人を巻き込むのはダメね。また、わたしのルーちゃんに手を出さないうちに潰しておかないと、あのデブハゲブタ。」
シェリーは出品一覧冊子の一番最後のページを見てしまったのだ。ルークを拐い、ルークに奴隷紋を施し、ルークにムチを打った。元コートドラン商会のオーナーであり、今回の主催者のドドレイク・コートドランの写し魔導絵を。
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補足
写し魔導絵:魔導具で写し撮った動画を紙に写したもの。奴隷の特徴を詳しく見せるためにマルス帝国が開発した動画写真。
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