第17話
夜も深まり、ほとんど人がいなくなった冒険者ギルドの個室で二人の男が対面していた。
一人はタバコをふかしながら眉間にシワをよせているニール。もう一人がワインを嗜んでいるカイルである。
「で、今回は何があったんだ。」
ニールがカイルにたずねる。
「ニール聞いてくれ実はシェリーが番だったんだ。」
「いや。3日前は違うと言っていただろう。」
「それがな。」
カイルは今回の経緯を説明していった。
「どこをどう突っ込んでいいのかわからないが、シェリーが次の聖女というのは意義を申し立てなければならない事案だ。」
ニールは頭を抱え込み顔を伏せた。シェリーは聖女というのはこの世の女性が全て天使だと言われるぐらいありえないことだと思った。
「あれか。ルー君限定の聖女か?それならありえる。それに番が5人で見つかりたくないから認識阻害をしていたか。5人は流石にありえねー。」
「そうだね。シェリーがちょくちょく遠出していたのは聖女の仕事をしていたからだって。ルークがいたから日帰りか、1泊で済むところばかりだったみたいだけどね。これからは俺も着いて行くから、あまり依頼入れないでね。」
「いや。最長半年居なかったときがあったな。ルークの剣の師匠探す旅とか言って、丁度カイルがこの王都に来たぐらいだな。」
「前から思っていたんだけどルークはなんで魔術師を目指さなかったのかな?普通に魔力量が多いよね。」
「俺もそう思ったのだが、6年程前に早く独り立ちするにはどうしたらいいかと相談されたんだ。魔術師の学校は魔力が安定する15歳からの入学になるが騎士の学校だと13歳からの入学になる。冒険者になることも視野にいれていたみたいだが、シェリーが反対してな。」
「シェリーが?」
「どこかの学校を出ていればその先の就職も優位になるから学校には行くべきだと言ってね。それに冒険者は怪我をして体を壊せばそれまでだ、とも言っていた。13歳の子供の言う言葉じゃないな。」
ニールは新しいタバコに火をつけて、一吹きする。
「そうしたら、ルー君が13歳から入れる騎士養成学園に入ることにしようかと言ったら、シェリーが突拍子もないことを言ってな。『ルーちゃんは魔力がたくさんあるから魔剣士になるといいよ』っていったんだ。」
「魔剣士ってなんだ?」
「わからんだろ?だがシェリーは剣に魔力をまとわせた戦い方をする人って当たり前の様に言ったんだ。」
「それは無理だと思う。そもそも剣が魔力に耐えきれない。」
「やりやがったんだ。実際にあのシェリーが『雷鳴剣』とか言って、自分が持っていた護身用の剣に雷の属性をまとわせて丸太を切りやがった。それを見てしまったルー君は目を輝かせて騎士養成学園に行くと言ったんだ。」
「実際そんなことできるのか?剣に魔術をかけて定着させ、剣で切り魔術を放つ。ん?魔術で剣を造る方がまだいいんじゃないのかな。」
そう言いながら、懐に入れてあったナイフを出して、魔剣を作ろうとしている目の前の男をニールは見る。
この男がこの王都に来たのは5年前のことだ、流れのAランクの冒険者が来たということで、わざわざ事務作業の手を止めて受付まで顔を見に行った覚えがある。
最初の印象はトゲトゲしいだった。竜人が単独で他国をうろついているのは番探しか変わり者かというぐらいセイルーン竜王国の外には出ない種族だ。
この男は多分番探しの方だろう。
竜人族は番の生まれたことがわかるという。そして幼少期から番を手元に置いて育てるというほど、番というものに執着を持つ。それは他の種族と違い長い年月の生きる竜人族にとって番は長いときを共に生きてくれる存在だからだろう。
この男も番に執着し探しているのだろうがうまくいっていない感じがする。何も問題を起こさなければそれでいい。竜人族が番狂いになれば勇者の比ではないだろう。問題を起こさないうちに早く次の町へ行ってほしいものだ。
カイルという竜人が来てから3ヶ月がたったある日、目を疑う光景にであった。
それは、半年ぶりにシェリーが帰って来た日の事だった。
ルークの剣の指南してもらう人物を探すと出ていって、半年ぶりにルークと共にシェリーはギルドに顔を出した。何でも15年前の魔王討伐に加わった騎士の一人で今は退役して田舎に引っ込んでいる人物に頼みこんだという。すごい人物に行き着いたものだ。家に招いて住み込みで教えを乞うそうだ。
そんな話をしてシェリーとルークが手を繋ぎギルドを出ようとしたとき、カイルが入って来て鉢合わせになった。
「こんな小さい子がいるの初めて見たよ。そこでジュース奢ってあげようか」
と、にこにこ顔のカイルがいた。
カイルの今までの姿を皆は知っているので、お前は誰だという雰囲気をギルド中で感じる。
「知らない人から物をもらってはいけません。私達は家に帰るので失礼します。」
と言ってカイルの横をシェリーとルークが通りすぎていった。
もしかしてあの竜人の番はシェリーかと思ったのだがシェリーはいつも通りだったので、違うのかという空気が辺りを漂う。
しかし、度々シェリーに対してのカイルの異常行動が見られ今に至る。
あのシェリーに番ができる姿は想像できなかったが、今日見た感じでは一切何も変わっていなかったことにニールはカイルを不憫に思うのだった。
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