第18話

 シェリーは草原の中にいた。

 さわさわと草が風に揺れる音。目を開ければ高く透き通る青い空。背中には暖かい土の感触がする。


 さくさくと草原に寝転がっているシェリーに近づく足音が聞こえる。


「やあ。ひさしぶりだね。」


 仰向けに寝ているシェリーを覗き込む目がある。   

 目と表現をしてもよいのだろうか。シェリーの顔に掛かる髪は白く素肌も白い。覗き込む目は金属を流し込んだかの様に白い。何もかも白い人物がまたまた白いワンピースのような白いダボッっとした服を着ている。男性なのか女性なのか、または両方なのかは何度かあっているシェリーにもわからない。


「久しぶり?何かと手の込んだことをしてくれたみたいだけど?」


「いやー。とうとうシェリーも番に捕まっちゃったね。やっぱり運命ってあるんだねー。」


「とても強制的な運命でしたね。」


「シェリーも番を持てたことだしそろそろ本格的にお仕事して欲しいかな。」


「ツガイがいなくてもルーちゃんの心配しなくて良いのなら仕事はします。」


 何か噛み合っている様で噛み合っていない二人の会話は通常運行である。最初はシェリーも会話をしようと試みたのだが早々に諦めたのだ。この白き謎の生命体はこういうものだと解釈したのだ。なので向こうも言いたいことを言っているのでこちらも言いたいことを言っているのだ。


「そおだね。まずは勇者くんと聖女ちゃんのところに行って聖女の証を貰って来て欲しいな。」


「それは本当に必要ですか。」


「それ貰ってきたら、隣のマルス帝国に行ってね。ほら、この前シェリーちゃんが奴隷商人を千切っては投げ千切っては投げってしたところ」


「本当に聖女の証は必要でしょうか。それから物理的に殴りましたが、凄惨な殺人現場は作り出していません。」


「これから先は聖女の証がないと大変だよ。特に最北東のグローリア国は。あの国は3分の2がヤられちゃってるし。」


「ちっ。勇者のバカですか。わかりましたが、ルーちゃんのことはわたしが側にいない間平穏に過ごせるようお願いします。」


「弟くんはかわいいよね。とびっきりの番を用意しているからね。」


「前にも言いましたが、普通に平凡に穏やかに暮らせる人でお願いします。」


「それじゃまたねー。」


「話をきけー。」


 突風が吹き抜け、白い人物の姿は消え周りの背景も白みを増していった。



 さわさわと風が髪を撫でる。

 あの謎の生命体と会うと精神的に疲れる。もう少し惰眠を貪ってもいいかどうか時間を確認しようと目を開ければ、金色の目が見つめていた。デジャブ・・・。


「おはよう。俺の番。」


「カイルさんはなぜいるのですか。」


 カイルがシェリーの髪を撫でながらベットの中にいた。


「あれから、ニールと話をして、宿に戻ったけど寂しくて来ちゃった。」


「かわいくない。どこから侵入してきたんですか。この家は結界が張ってあるのでそうそう侵入できないはずですが?」


「普通に玄関から入ってきたよ。シェリーの番です。って言ったら入れてくれたよ。なんか『結局捕まったのか。』って言って奥に消えていったけど、あれシェリーのお父さんだよね。ルークの魔質によくにていた。」


━使えない、いったい何のために結界を張っていると思っているんだ。━


 シェリーは同居人を心の内でけなした。

 カイルが居たため惰眠を諦め起きることにし、取り敢えずカイルを部屋の外に追いやり着替える。外に行く予定はないので涼しげな水色のワンピースを着て部屋をでた。

 部屋を出たところで、タックル攻撃が直撃した。


「かわいい。かわいい。かわいい。」


 壊れたレコードの様に同じフレーズを繰り返すカイルに抱きしめられていた。


「黒い髪に水色の服がよく似合うね。ワンピース姿がとてもいい。いつも動きやすい格好だったからとてもいい。今度は俺が選んだ服を着て欲しいな。」


 そう今のシェリーの姿は本来の姿になっている。この家自体に結界を張っているので、問題はないのだ。


「朝食の準備をするので離してもらえませんか。」


「じゃ、手をつなごう。」


 有無を言わせず手を取られる。階段を降り、2階から1階のダイニングに行く。


「キッチンは狭いのでここで座っていてください。絶対にキッチンの中には入らないでくださいね。」


「わかったよ。」


 今日の朝食のは何にしようかとシェリーは考える が、頭の中にはルークの好きな物にばかりが浮かんでくる。久しぶりにお粥にしようトッピングで好みの物を各自で入れてもらえばいい。

 土鍋を出し研いだ米を入れ、水を調節して火にかける。後は、漬物数種、焼き魚の身をほぐしたものを味噌で味付けしたものと塩味だけのもの、肉を甘辛く焼いたものと燻製したもの、薬味を数種用意すれば味に飽きが来なくていいだろう。

 それぞれを3人分を別けて用意する。お茶は緑茶でいい。

 同居人に朝食ができた事を知らせるベルをならす。気が向けば食べに来るだろう。テーブルに食事の用意をしていると


「今日は珍しく粥なのか。」


 と珍しく同居人が朝食のを食べに顔を見せた。


「珍しいのは朝食の時間に顔を出したことじゃない?」


 その同居人は、外見は25か26歳ぐらいだろうか、容姿は中性的に受け取れる程美しくルークと同じキラキラした金髪に空のような透き通った青い目の下には隈があり不健康そう顔色をし、細身で長身の男が何やら薬品が飛んだ跡がある裾の長い服を着てニヤニヤしながらダイニングに入ってくる姿はかなりのマイナスである。


「いや。君を嘲笑いに来たんだ。あれだけ苦労して認識阻害の魔道具を造らせて、結局、番に捕まってしまったか。ははは。」


 シェリーはイラッっとしながら同居人に問う。


「食事はいるの要らないの。」


「いるよ。さっさと頂こう。」


 その合図とともに食事が始まった。



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