第15話

 シェリーはツガイというものはどうしようもない生き物だと改めて認識してしまった。それなら一思いに殺って『神の奇跡』で生き返らせた方がお互いに良いのではないかとの考えに行きついてしまった。


 物騒な聖女ある。もともとシェリーとなる前の人格は人に頼らずバリバリ働くOL兼主婦だった。その為体の不調にも気づかず手遅れの状態になるまで働き続けたのだが、この性格がシェリーにまで引き継がれ悪化していた。

 それが聖女に似合わない程の凶悪なスキルの取得、かつ作成である。聖女の役目を一人で全うにこなすにはこれぐらい必要だろうと次々に殺戮スキルを手にしたのだ。


「どうしたら許してもらえる?シェリーが側にいないと生きる価値が見いだせない。俺がいないのに他のシェリーの番が側にいるのは許せない。」


 カイルはシェリーに懇願する。しかし、シェリーの瞳孔は開き笑いながら言う。


「大丈夫です。最初ピリッとするかもしれませんが、一瞬で終わります。」


 どこぞの予防接種を受ける様な言い分だ。

 シェリーの本気度を感じたカイルはシェリーの気の逸れる言葉を必死に考える。


「姉が知り合いを手にかけたと知ったらルークはどう思うかな。」


 シェリーの物騒な雰囲気が一瞬で変わる。


「そーだね。ルーちゃんに言えないことするのはダメたよね。」


 カイルの命はなんとか繋がったようだ。




 十階層のボスはオーク×3とミノタウロス×1だったが今まで活躍していなかったカイルが大剣でサックリ仕留めて終わった。そして、シェリーは今晩の夕食は肉がいいと決断するのだった。

 

 調査の結果。まだ、出来たばかりのダンジョンだったので十階層までだった。九階層でシェリーがダンジョンの元となった悪心の塊を昇華したのでこれ以上階層が増えることはないだろう。


 帰りは山間から直接王都へ帰り、王都の北門に着いたのは日が暮れた後だった。北門の入門で確認作業をするときも王都の中を歩くときもシェリーの手はカイルに繋がれていた。


 カイルがシェリーからの死と生の実施体験を逃れたあとに、またしてもカイルの番狂気が爆発した。

 シェリーが新しいペンダントを着けようとしていたのを取り上げたのである。番が感じられなくなるから嫌だとカイルは主張し、それに対してシェリーはこのままだとあっという間に残りの4人の番がそろうことになるけどいいのか。と、問う。カイルは泣く泣くペンダントを返し、それからシェリーにベッタリくっつく様になってしまったのだ。

 自分の行動には邪魔をしているわけではないので文句は言っていないが、シェリーの目は死んでいた。


 その状態のまま冒険者ギルドまで来てしまった。

ギルドの受付カウンターには時間帯のためか、多くの人が並んでいた。大勢の並ぶ中、人が並んでいないカウンターに二人揃って行く、そこには大量の書類を確認している業務補佐官のニールがいた。


「ご苦労さん調査結果はどうだった。」


「確かに氷属性の魔物はいましたが報告と違って一から五階層までは低級の魔物のみだけでした。」


 シェリーが白紙に転写したダンジョンの地図を渡しながら報告する。


「ん?おかしいな。」


「六階層からは緑化した森のダンジョンでした。八階層と九階層は有用な薬草等がみられましたがAランクの魔物の出現があり、全十階層なのでアンバランスなダンジョンと思われます。詳しくは地図で確認してください。」


「確かに地図で確認するかぎりはそんな感じだな。これが拡張型ダンジョンか定期的に見ていくしかないか。」


「それから、カイルさんは今回役立たずだったので、カイルさんの依頼料はなしでお願いします。」


 カイルはシェリーが報告している間はニコニコしてシェリーの手を握っている。


「さっきから突っ込もうか思っのだが、なぜ手を繋いでいるんだ。今回は何をシェリーにしたんだ。」


 一番端で特殊依頼の担当スペースで衝立がしてあったため周りからはこの状況は見えないが、はっきり言って異様な雰囲気を醸し出している。

 片やニコニコ笑顔全開でシェリーの手をニギニギしているカイルと、片や無表情で目が死んでいるシェリーである。ニールはこの状況をカイルのシェリー対する異常行動が原因だとみていた。


「手を繋いでおかないとシェリーが居なくなったら大変じゃないか。」


「シェリーは小さい頃からしっかりしているから迷子になったことはない。大丈夫だ。俺はカイルの行動の方が心配になる。」


 ニールがこれ以上シェリーを刺激しないよう釘を刺そうと言葉を発する前に


「お腹空いたので、もう、報告終了でいいですか?あとはカイルさんとニールさんで話し合ってください。」


 シェリーはカイルの手をペイッと振りほどき食堂の方へ足を向ける。カイルもそのあとに続き


「好きなもの奢ってあげるよ。」


 と、追いかけている。その後ろ姿にニールは


「カイル食事が終わってからでいいから俺の所にこい。話がある。」


 カイルは後ろ姿のまま手を振って答えた。


「あれはなんだ?悪化しているだろ。」


 ニールの独り言を拾うものはいなかった。




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短編を投稿させていただきました。完結済みです。

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