第14話

「いる。いる。生きてた。もう、どこにもいかないで、俺の側にいて欲しい。お願いだ。」


 カイルの手首を掴んでいたシェリーの手を反対の手で包み、目の前のシェリーに懇願する。

 シェリーは不機嫌な顔と声で


「嫌。」


「どうして、番は共にいることが幸せなのに、シェリーは俺が番だとはわからない?」


「カイザール・セイルーンがわたしの番だとは知っています。でも、共にいる必要性を感じません。わたしのやるべきことにツガイは必要ないです。勇者の様に魔導師の様に今までの聖女のツガイの様に聖女の行いを邪魔するツガイというものは必要ありません。」


 カイルの目を真っ直ぐ見て、強く否定する。


「カイルさんを見てもそうですよね。わたしがただのシェリーだったとき側に居ても居なくても問題なかったですよね。でも、わたしが番だと分かれば手を離そうとせずそのまま自分の目の届くところに置こうとしてます。こうも対応が異なるなんて、番って呪いだと思いませんか?」


「呪い・・・。」


「またの名を世界からの干渉です。」


「昨日も干渉と言っていたけどそんな事があるのかわからないけど。」


「わたしは世界から。管理者から。創造主から。まあそんな者から直接啓示を受けることがありますが他の人も知らずに啓示を受けることがあります。エミリーさんに番が見つかりましたよね。番と出逢った時のことをこう言っていたんですよ。『いつもはしないけど遠回りしようと思ったの』ってそれが啓示です。偶然ではなく全ては必然なんです。」


「エミリーの件こそ偶然と言うべきものじゃないのかな。」


 シェリーは笑って何かを空中で掴む動作をする。


「きっと見えないと思いますが、これが世界の楔。世界からの干渉が人々に絡み付いているのです。そして」


 そう言葉を続けながら、カイルの目の前で何かを掴む動作をする。


「これが番を結びつける楔。お互いが番として認識した時に繋がる赤い糸。これが互いを互いで干渉し合う呪い。」


「俺とシェリーは繋がっている?」


「はあ。困ったことに繋がってしまいました。」


「嬉しい。もう離れないから、ずっと側にいるから」


 カイルはシェリーを引き寄せ抱き締める。


「それが困ると言っているのです。」


 シェリーは手を突っ張ってカイルから距離を取ろうとするが離れられない。


「シェリーが行きたいところ連れてってあげるし、シェリーの聖女としての役目も手伝うし、シェリーの望みは全部叶えてあげるよ。」


「重い。番への思いが重い。取り敢えずカイルさん依頼「カイル」」


「敬称なしのカイルってよんで欲しいな。敬語も無しで、ルークの話をするときみたいな話し方がいいな。」


「却下します。さっさと依頼を終えて王都へ帰りますので、離してください。」


「じゃ、シェリーがキスしてくれたら離してあげる。」


 シェリーはゴミ虫でも見ているかのような目で間近にあるカイルの目を見る。


「俺からシェリーにしてもいいよ。くちびるに。」


 続きは言わせないと速攻でカイルの頬に口を落とす。


「シェリーはかわいいな。王都に戻ったらラブラブデートしようね。」


 シェリーは無言で朝食の食器を片付け始める。これで顔を赤らめているなら照れ隠しと捉えられるが、いつも通りの無表情のシェリーからは感情は読み取れなかった。



 出る準備をしていてシェリーはふと気になったことを調べた。空間に出現した透明なパネルを指でスライドさせる。


 スキル

 聖人の正拳

 (詳細)

 聖女が敵と認識したもの又は聖女に敵意をもったモノの基礎能力を読み取り、倍の力を身体に宿すことができる。ただし、敵を目視しなければならない。

 番をボコボコに殴る聖女は見た目も醜聞にも悪いから番として絆された者には使えないようにしたよ。



「はぁ?なにこれ使えないって。これは必要!」


 端から見ればなにもない空間を指でブスブス刺す。いつも最後の一文が毎回気に入らなかったが今回ばかりは仕様の変更をしてきた。シェリーからすれば『ふざけるなコォラァー』と巻き舌で怒鳴りたくなる一文だ。


「シェリーどうかした。」


 カイルはシェリーの後ろから抱き、空間を刺していた指を絡めとる。


「別に。」


 冷たい態度をとるシェリーに髪を高くまとめたことであらわになった首に口づけをする。


「ひぅ。」


 ぞわぞわする感覚に思わず声が漏れでる。


「何が使えないか教えて欲しいな。」


 カイルは己の行動でシェリーが反応してくれたことにほの暗い喜びを感じ、金色の目を揺らめかせる。

 シェリーの首筋に舌を這わし


「いい加減にして。」


 ビリッ

 痛いほどの痺れがカイルの全身を襲うがたいした影響は無いようだ。


「中級魔術ぐらいじゃやっぱだめ。このスキルが使えなくなるなんて・・くぅ・・・首はやめてくだひゃい。」


 腕のなかで悶えているシェリーを強く抱きしめ首もとに噛みつく。痛っと声を上げる番がいとおしくてこのまま誰もいない所に閉じ込めてしまいたい。

 パリッ

 カイルはシェリーから飛び離れる。その瞬間、シェリーから青白い稲光がほとばしる。


 スキル

 『天に代わってお仕置きよ』

 ヒト一人分から見渡せる一面まで高電圧の電撃を打ち出せる。痺れが度合いが強烈よ。痺れが感じないぐらい丸焦げウェルダンよ。


「シェリー流石にこれは死んじゃうよ。」


 シェリーはカイルを睨み付け


「大丈夫ですから、わたしは聖女なんで死んでも4半刻30分以内なら生き返ります。ついでに番の楔も切れて一石二鳥です。」


「それはダメだ。少し調子に乗ってしまって、ごめん。」


「嫌いです。カイルさん嘘つきですね。わたしの行動は阻害しないっていっていましたのに。」


「ごめん」


「わたしの行動を阻害する存在は側にはいらないです。」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る