第13話

「カイルさんはなぜここにいるんですか。」


 シェリーは尋ねる。脱衣場の出入口の前から退かないカイルに尋ねる。


「俺の番をどこに隠した。」


 怒りを圧し殺した様な低い声でシェリーを威圧する。


「質問を質問で返さないでもらえますか。」


 カイルはシェリーの胸ぐらを掴み。


「言え。どこに隠した。」


 シェリーは手刀でカイルの腕を凪ぎ払い。


「はぁ?もともとこのテントは私の物ですし、私以外の者がいるはずはないですよ。カイルさんが勝手に土足で入ってきて、訳のわからない文句を言われても困りますね。床掃除してくださいね。」


 シェリーはイラついていた。結界が張ってあったのに強引に侵入してきて、土足で板間の廊下歩いたのか土埃と泥の足跡をが点々とつけ、ツガイツガイとしつこく聞くカイルに。


「シェリー、俺は真剣に質問をしている。シェリーを痛め付けてでも聞き出してもいいんだぞ。」


 脅し文句をいい、カイルの瞳が金色に揺らめく。


「できるものならすればいいです。わたしは嘘は付いていないですよ。昨日一日何をしていたのですか?カイルさん。朝起きたら宿にはおらず。依頼を嫌々受けた、わたしがここまで一人でダンジョンの攻略とマップ作成をして、次の日に『俺の番はどこ?』ってふざけてます?」


 そこまで言われてカイルは冷静になった。今回の依頼はダンジョンの調査だ。

 それなのにシェリーから己の番が聖女だと教えられ、状況操作が行われてダンジョンができたかもしれないと言われ、ダンジョンの一階層と周辺を確認しただけで、勝手に王都に帰ろうとしていたことは、シェリーからすれば一日サボって、二人の分担作業を一人に押し付けて、朝から何を言っているんだと思われているということだ。


「すまなかった。」


「なにそれ、言葉だけで終わらすきなのですか。そこ、通してもらえます。あと、ここの収納棚に掃除道具が入っているんで、床の泥を掃除しておいてください。板間のところは土足禁止なんで、靴で上がらないでください。」


 そう言ってシェリーは奥の部屋に消えていった。

 


 取り敢えずおとなしくなったカイルを見てホッとする。本当にこの世界の人たちは番のことになると目の色を変える。それが当たり前だと皆がいうが他の世界の記憶をもつシェリーには違和感しかない。


 廊下に続くドアが開き、モップを手にしたカイルが入って来たのを横目に、イケメンがモップを持って掃除する姿も絵的には映えるのかと思いながらシェリーは朝食の用意をしていた。

 作りおきのスープを温め、パンをトースターにセットし、ベーコンを焼きプレーンオムレツを作り、サラダを用意する。


「カイルさん、飲み物は果汁水と紅茶と珈琲どれがよいですか。」


「え?ああ珈琲で、俺の分まで用意してくれているの。」


 カイルは考え事をしていたのか、掃除の手を止め、モップの柄の上に腕を置き、ボーとしながら答えた。


「掃除が終わったのならモップを閉まって手を洗ってから席に座ってください。別に人が生きる糧を阻害しようと思うほどわたしの性格は腐っていませんから」


 ダイニングテーブルにできた朝食を置き、飲み物を用意したところでカイルが席に付いた。


「いただきます。」


「今日の糧を得られたことに感謝します。」


 それぞれの言葉で食事を食べ始めた。

 カイルは考え事をしているのか、いつも何かとシェリーに軽口で話かけるカイルが無言で食べていた。シェリーも特に気にする事はなく、食事をする音だけが空間を満たしていた。

 食事を食べ終わり、珈琲を飲んでいたカイルがいきなり立ち上がり


「ピンクの目」


 と叫びシェリーをみる。

 シェリーは何言ってんだこいつと言いたそうな顔をして、先程選択肢には無かったカフェオレを無言で飲んでいる。


「黒髪。ピンクの目。ルークに似ていた。」


 そう言いながらテーブルを回り込んで、強引に椅子ごとシェリーを己の方に向け、目線をシェリーに合わせ屈む。

 シェリーの目が一段と据わった。


「でも違う。姿が違う。色が違う。魔核も違う。でも目の色は同じ。」


 シェリーは無言でカフェオレを飲み続けている。カイルはシェリーを見続けている。金色に揺らめく瞳の色が魔力で輝きをました。


「コレがジャマだ。」


 カイルが掴んだのは青い石のペンダントだ。掴んだその手首をシェリーは握り引きはなそうとするが、カイルの手の中で石の歪な音とカップが床で割れる音が同時に響く。

 その時シェリーの姿が歪み黒髪の女性が現れた。


「ちっ。カイルさん人の持ち物を勝手に壊すのはどういうことですか。」


 シェリーは顔をしかめてカイルを睨み付けるが、カイルはそんな言葉は聞こえていなかった。


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