三 突然終わる花
さあ、ここまでくればもう予想がつくだろう……。
そう。その翌日も、そのさらに翌日も、さらにさらに翌日も、休むことなく花束は毎日届けられたのである。
次に届いたのは白いグラデーションのある紫の花弁で、オレンジ色の大きな雌しべのあるものだ。
「それはクロッカスね」
やはり同室のおばさんがそう教えてくれた。
そのまた翌日は白い小さな花の集合体で、アサガオのような葉っぱのものだ。
なんか、この感じ、見たことあるようなないような……道端とかにでもあったのだろうか……。
「そりゃあ、ガマズミだ。秋には赤い実つけるんだよ。小せえ頃によく食べたなあ。焼酎に浸けて果実酒にもするんだぜ」
それには私同様、花とは無縁のように思えた同室に入院するお爺さんが、どこか懐かしそうな眼差しで見つめながら説明をしてくれた。
「ああ、そうそう。わたしも学校の帰りとかに道草して食べたわ~」
すると、同室の叔母さんもそう言って、遠い日を思い出すかのようにガマズミの花へ視線を送る。
どうやらある世代より上の人達には、たいへん馴染みのある野の草花らしい……。
にしても、またなんともお見舞いの花にはあまりしないようなものを……ネタが尽きてきたのだろうか?
そして、花束のお見舞いが来だしてからこれで七日目となるが、その日のものは白い花びらの喉もとに赤紫の斑のある五弁の大輪で、真ん中の雄しべと雌しべが黄色いものだった。
「それはゴジアオイね。横文字だとキスツスとか言ったかしら……お昼頃に咲くからそんな名前らしいんだけど、どうしてお昼なのに五時なのかしらね?」
その花についても、名前だけは知っていたらしく、同室のおばさんが首を傾げながら教えてくれた。
「そりゃあ五時じゃなく
すると、あの意外と博識なお爺さんがおばさんの疑問に答えてくれる。
なるほど。私もそんな歴史に明るくないのでおばさんと同様の勘違いをしていたが、名前の意味はそういうことか……。
そう言われてから見ると、なんだか花弁が時計の文字盤のようにも見えてくるのでおもしろい。
ま、ともかくも、今日もまたこれまでのものとは違った趣の花だった。
ガマズミのような少々ムリクリなものもあったが、ここまでよくぞ一度もかぶらすにきたものだ。これはやはり、会社のみんなが協力して贈ってくれているというよりは、個人々〃でしてくれているものなのだろうか?
見舞いは一切いらないと言っておいたけれど、それでもと最初の一人が花を贈ったのをみんなが知って、他の者も贈らなければならないという、ある種の強迫観念にかられてこの贈花ブームが到来したとか……右にならえを美徳とする、日本独自の社会性というやつだ。
しかし、それにしては毎日一束づつという統制のとれたところも少々疑問だし、ここまで毎日、花の種類が重ならないというのもなんとも妙だ。
いや、それ以前に花束を贈るにしても、こんな一種類づつではなく、何種類か混ぜて花束を作る方がメジャーな気もするが……。
よく考えると不可解なこともいろいろとあるのだが、そんな疑問を残しつつも日に日に増えてゆくそれぞれ趣きの異なる花達によって、窓辺の景色はいよいよ豪華絢爛なものとなっていった。
「とりあえず記念に撮っておくか……」
その生け花…というより、フリワーアレンジメントといった感じの豪勢な花瓶の花に、私はスマホを向けると一枚カメラに収めておく。
特に経験はないそうだが、看護婦さんもなかなかに生け花のセンスがある。
だが、もうこの花瓶に生けるのも限界だな……ま、最初にもらったスイセンはそろそろ替え時だろうし、これを抜けば少しはスペースも空きそうだが……。
ところが、そんな私の心配はまったくの杞憂に終わった……その日を境に、ぴったりと花束が届くことはなくなったのだ。
毎日続いていたことが急になくなると、なんだか淋しいような気もする。
まあ、ただ単に花を贈ろうと思っていた会社の同僚達が全員贈り終わっただけなのかもしれないし、もう二、三日もすれば私も退院になるだろう。ここまでくれば、最早、見舞いの花も無用だ。
内心、ちょっとつまらなさを密かに感じつつもすぐに三日が過ぎ、私はめでたく退院となった。
「この花は誰かほしい人で分けてください」
「まあ! いいんですか? ありがとうございます」
長くはもたないだろうが豪華絢爛になった花瓶の花は、これまでの感謝の思いも込めて看護婦さんに渡してきた。
私は一人暮らしだし、家に持って帰るよりは無駄にならなくていいだろう。
そして、胃の方も全快して、いよいよ会社へも復帰することとなったのであるが……。
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