第三十四話
「なんやかんやで日曜日になったわけですが」
「めちゃくちゃ緊張するね……斉藤さんとの話は解に任せるって事で良いの?」
「ああ、打ち合わせ通り、塔の内の知っている事は伝えるけど、俺達のステータスの詳細とルキの事は伏せる手筈で」
「分かったよ、私は横で静かにしてる」
楓はビッと敬礼をしたあと笑う。
「では儂は2階で邪魔をせず、ジッとしとるからの!」
ルキは満面の笑みで両手にお菓子と“ロー○ルさわやか”を持っている。
(ルキさん、ちょろすぎでは?)
『ピンポーン』
「あっ、来たよ!」
「よし、じゃあ手筈通りで」
「儂は2階に行くからの」
俺と楓は玄関へ行き、斉藤さんを迎え入れる。
「本日はお話して頂けるとの事で本当に感謝しています、こちらは私の同期の日下部です」
斉藤さんは横にいた渋いナイスミドルを紹介する。
「初めまして、警視長の日下部源と申します。本日は貴重なお話を聞けるとの事で、大変感謝しています」
「い、いえ! 立ち話も何ですしリビングへどうぞ」
(警視庁? てあの警視庁?)
俺達は、斉藤さんと日下部さんをリビングに案内する。
テーブルについてもらった後、楓がすぐ4人分のお茶を用意し話が始まる。
「あ、何か畏まられるとやりにくいので普通に敬語じゃなくて大丈夫ですよ」
「ああ、ではそうさせてもらおうかな。そちらの佐藤さん……彼女は良くできた娘さんですなぁ、今日日こんなに自然にお茶を出せる女子高生はそうはいない。うちの娘もそれくらい出来たらいいんだが」
日下部さんは、はっはっは! と豪快に笑う。
「いえいえ、まだまだですよ! はっはっは!」
俺も日下部さんに釣られて笑う。
「いや、なんで解がパパみたいなポジションなのよ」
楓は俺を冷ややかな目で見ている。
「で、南條くん、佐藤さん。早速本題なんだが、君達2人は塔の中に入った事があるのかい?」
いきなり来たか、緊張するな……。
「はい、俺達は東尋坊の雄島にある塔にたまたま入れたんですけど……中の洞窟の様なダンジョンをクリアして塔から出る事が出来ました」
「洞窟……なるほど、ダンジョンと言う事は中に敵? 人に危害を加える様なものもいたんだよね?」
「いました、俺達の時はスライム……えっと、ゼリー状のモンスターがいて、蹴っ飛ばしたり踏んづけて倒しました」
「ああ、スライムね。ただそのスライムを倒したとして、どうやって塔から出る事が出来たんだい?」
日下部さんにも斉藤さんにもどうやらスライムで通じるようだ。
スライムの認知度たるや……。
「洞窟の奥に部屋があって、そこにスライムのボスみたいなのが3匹いました。それを倒したらいきなり魔法陣の様なものが現れ、そこから塔の外に出る事が出来たんです」
日下部さんは「ふむ……」と顎に手を置き少し考えた後、口を開く。
「ああ、それともしかしてだけど塔の中にいたスライムを倒すと〈天啓力〉が上がったりしたかい?」
「はい。1体倒す毎に1〜2上がりました」
「なるほど、それはでかい情報だな……。ただ話しを聞いた感じじゃ、そこまで命に関わるような危険度は無い様に聞こえるが……実際どうだい? 命を落とす危険性はあったかい?」
「まあちょっとは危ないところもありましたけど、大体の人がクリア出来る様な感じでした。世界中で沢山の人が塔から帰還できていないという方がおかしい……と思うくらいです」
「そうだよな、海外では銃で武装した兵士すら帰ってこないと聞くが……今の話に嘘偽りはないかね?」
日下部さんはじっと俺の目を見てくる。
「はい、真実です」
(塔の中の話はね)
「そうか……いや、疑う様な事を言って悪かった。信頼する為にはまずは真偽を確かめない事にはどうしようもないからね」
「……」
(俺が嘘を言ってたらどうするんだ?)
「目を見ればわかるよ」
!?
「え、俺口に出してました!?」
日下部さんは、はっは! と笑う。
「長年こういう仕事をやってれば話している人の目を見れば大体分かるよ、塔の事は嘘を言っていないとね。まあまだ何か他にある様だがそれはおいおいと言う事でいいよ」
日下部さんの目がキラリと光る。
(怖えぇ……)
「と、塔の事は知っている事を全て話しました。俺達は斉藤さんから、話した事によって強制的に何かを制限されたり逆にやらされたり、個人情報の漏洩はしないと言われてたんですが本当ですか?」
「勿論だとも、私も斉藤も子どもに危険を及ぼすような事は考えていない、誓うよ。ただ警察内部では何があるか分からんから、個人情報の漏洩を避ける為、この事は口外しない様に頼む」
「分かりました、信用します」
(とりあえずは)
「ああ、それとこれはまだ内緒の話なんだが……南條くんと佐藤さん、もし高校を卒業して行くところが無かったらうちへ来ないか? 今度新しくダンジョン対策専門の特殊部隊が出来るんだけど、もし良かったら歓迎するよ?」
「お……おい。日下部、言っていいのか?」
斉藤さんは冷や汗をかきながら日下部さんを見る。
「いいんだよ、俺が頭なんだ問題無い。ただ2人とも……これも口外しないでくれよ?」
日下部さんはニヤッと笑う。
上手い事囲い込みしてきてないか、このナイスミドル。
「行く宛がなかったら考えてみます」
「はい!」
俺は適当に返事をする。
その横で何故か楓は、その話に興味津々な顔をしている。
え? まさか行きたいなんて言わないよな?
「とりあえず今日はこんな所で切り上げるか、有意義な話しをどうもありがとう」
「いえ、あまりお役に立てなくてすみません。これからの連絡はどうすれば良いですか?」
「ああ、俺は福井にはいない事が多いし、話しをしてくれる時はこっちの斎藤が聞く事になるな。今回は君達がどんな人物か確かめたいと言う事もあってお邪魔させてもらったんだ」
「そうだったんですね、分かりました。何かあった時は斉藤さんに連絡します」
「頼む、斎藤も悪いがよろしくな」
「まあ日下部の頼みだしな……というわけで私が話を聞くので、ほんの些細な事でもいいので何か分かりましたら是非連絡下さい」
斎藤さんはそう言って丁寧にお辞儀をした。斉藤さんの人柄だろうか、終始俺達に敬語を使っていた。
「はい、これからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
俺と楓は玄関から2人を見送った後、リビングへ戻る。
「日下部さん、なんか親しみやすい人だったね」
「まあな、けどあの日下部さん……かなり出来る大人の雰囲気を醸し出してたぞ……多分俺達がまだ何か隠してるって確信してた。てか日下部さん“けいしちょうの日下部”って言ってたから警視庁から来たのかと思ったら警視長という役職の人だったんだな」
俺はスマホで検索した画面を楓に見せて伝える。
「えっ、ほんとだ! てかめちゃくちゃ偉い人だったんだね! 上から3番目!」
「だから特殊部隊うんぬん言ってたんだな……」
「どうする? キーメイカーの事とか話しても大丈夫かな?」
「……とりあえず保留、流石にいつかは伝えなくちゃなんない時が来るかもだけど、まだ現状どうするか判断出来ないな……」
そう話していると2階へ続く階段からトットット……とルキが軽快に降りてきた。
「話は終わったかの? 儂はもうお菓子もジュースも全部無くなったから飽きてしまったぞ、早うてれびをつけるのじゃ」
(え……あの大量にあったお菓子をもう食べたのかこいつは……)
そう言ってルキは楓にテレビをつけさせてソファに座る。
「なぁルキ、お前ってキーメイカーを使わず塔に入った時、中で何が起こるか知ってるのか?」
「ん? 知っておるぞ」
!?
ルキはテレビを見ながら答える。
「知ってたんかい……それなら先に聞いときゃ良かったか? いや知ってたら逆に怪しまれたからこっちのほうが良かったか」
何にせよルキから塔の事を聞く必要があるな。
俺はルキの口を割らせる為の餌の差月ヶ○煎餅を懐から取り出した。
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