第三十話

「ずばり聞きます、貴方達は塔に入った事があり、そして帰還した経験をお持ちですか?」


「えっ、と……」


 楓は俺の方をちらりと見てくる。

 ここは俺が話したほうがいいか……。


「もし……もし万が一、俺達が塔から帰還していたとしたら、俺達はどうなりますか?」


 正直に答えた事で俺達の行動が制限されたり、半ば強制的に従わせられたりしたら、たまったもんじゃない。


「そう身構えないで下さい、塔に入ったからと言って逮捕したり、何かを強制したりはしません。私達が望むのは塔の中の情報です、少しでも分かる事があるのであれば教えてほしいのです」


 斎藤さんは俺達を安心させる様に微笑んだ後、真剣な顔で答える。


(信じるべきか……信じないべきか……。ただ後々の事を考えると警察と仲良くしておいた方がいい気もするし)


「解……」


 楓が不安そうに俺を見る。

 ……楓を守ろうとした時に、少しでも味方がいると安心だよな。

 よし、この人に話そう、俺の勘は大丈夫だと言っている。……多分。


「約束してください。先程仰ってたように俺達が話したとしても、何か行動を強制したり不利になるような事……例えば俺達の個人情報を警察の内部に漏らす、とかはしないで下さい。であれば新しく分かった情報も継続的にお伝えします」


「はい、勿論です。今回の話は私の同期から提案されたのですが、彼は警察の中でも立場がかなり上なので必ずあなた達を守ってくれる筈です、勿論私もサポートしますよ」


 その返答に俺と楓は頷き、心を決める。


「分かりました。塔に入った時の事をお話します」


 斉藤さんはその言葉を聞き、嬉しそうな顔を見せる。


「ありがとうございます! 何も情報がない現状にとても困っていたのです、本当に助かります。今日はもう時間も遅くなってきたので塔の事は後日、ご自宅に伺わせてもらった時にお聞きしてもよろしいですか?」


 俺はスマホの時計を確認すると、もう時刻は18時を過ぎていた。


「分かりました、でしたら俺の家でお願いします。いつ話をしますか?」


「そうですね、次の日曜日はどうですか?その時には私の同期も伺えると思います」


 楓の都合を確認すると大丈夫と返ってくる。


「では日曜日で大丈夫です。俺の電話番号と住所渡しておきます。えっと、紙は……」


 俺はテーブルに置いてあるナプキンを1枚取り、筆箱から出したシャーペンで書いて渡す。


「……確かに。お時間を取らせてしまいすみませんでした。先程の場所まで送りますので車までどうぞ」


 その後、道の脇に止めておいた自転車の場所まで送ってもらう。


「解、ごめんね……私のせいで」


 楓はシュン……としながら話す。


「まあ酷い事にならなさそうだし大丈夫だろ、今の内に警察と仲良くしとくと良い事あるかもしれないしな。でどうする、俺の家寄ってくか?」


 楓は「行く!」とびっくりするぐらい早く答えた。


……


……………


………………………



「と言う事があったんだ」


 俺達はさっきまでの事を、ソファで横になってテレビを見ながら“差月ヶ〇煎餅”を頬張っているルキに話す。


「まあ、解と楓が良いと思ったのなら儂は何でもいいぞ。どうせ儂はもう役に立たんからの……」


 そう言うとルキは“差月ヶ○煎餅”をバリバリポロポロさせながら拗ねる。


「まだ落ち込んでんのかルキ、仕方ないだろ? 力が全てリセットされてもまたこれから強くなればいいだけだし」


「そうだよルキちゃん、一緒に頑張ろー!」


 そう……あの2回目の地震の直後、突然ルキの力は全てリセットされ、ステータスはレベル1の真っさらの状態に戻ってしまったらしい。


「元の姿どころか、ほんの少し残った力さえ無くしてしまったんじゃ……儂はなんて可哀想な美少女なんじゃろうか……」


 バリバリ煎餅食べながらそれ言うと全く説得力ないな。てか自分で美少女言うなや。

 まあルキが今こんな事もあり地震が起こった後から1週間、俺達は1度もダンジョンに潜っていない。

 ルキも立ち直ってきたし、斉藤さんとの話し合いの前にそろそろ一度ダンジョンに潜っておきたい所だ。


「じゃあ、リハビリを兼ねて明日〈天啓力〉10くらいの鍵を作ってダンジョンに潜ろう」


「やったー! 久しぶりだね!」


 楓がワクワクしながらルキがソファにこぼした“差月ヶ○煎餅”の欠片を拾っている。


「えー、面倒くさいのお」


「そんな事言うとお菓子もジュースも取り上げるぞ」


 それを聞き、ルキはガバッと起き上がる。


「それは駄目なのじゃ! それは儂の生き甲斐なのじゃ! 頼むからやめてくれ! はっはーん……なるほどのう、そう言って儂の魅力的な身体を好きなようにしたいんじゃな? 本当にお主はエロガキじゃの……仕方ない、それ程まで言うなら……」


「ちゃうわ! 何でそうなる! 普通に俺達とダンジョンに来い」


「分かった分かった、まったく冗談の通じんやつだの」


 こいつ……いつか泣かす。

 と言う訳で明日の下校後、俺達は久しぶりのダンジョンに潜る事になった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る