第二十九話

 俺の名前は“南條解”

 俺の朝は遅い。

 学校に間に合うギリギリの時間に起きて、朝ご飯も食べず出かける。

 クラスには数人友達もいるが、決して友達も多い方でもなく、とりわけ目立つわけでもなく、空気ってわけでもない。

 The普通の男子高校生である。

 そんな俺には幼馴染がいる。

 幼馴染の彼女の名前は“佐藤楓”。

 最近は毎日一緒に居るってくらい時間を共有することが多い。

 まあそれはダンジョンを攻略する為に付いてきてくれてるって部分がでかいんだけど……。

 ダンジョンというのは俺の〈天啓〉キーメイカーを使って作られる鍵で入れる世界の事だ。

 世間では最近、塔のダンジョンが開放されて入れるようにはなったけど、俺は以前からダンジョンでレベルと〈天啓力〉を高めている。


「ねえ解、話聞いてるー?」


 おっと、考え込んでいたせいで楓の話を聞いてなかった。

 俺は今、幼馴染の楓と学校帰りの田んぼ道を歩いている。


「あの日から1週間たった訳だけど、本当に世界は色々変わっちゃったね」


「ああ、誰でもダンジョンに入れる様になって、世界中で行方不明者が出てるな……」


 そう、あの2回目の大きな地震の後、全人類にダンジョンが開放されたとアナウンスが流れた。

 その後は世界各地で、何も知らない人々やY○uTuber、野次馬の人達が次々と塔に入り、そして1人も出て来れてないというのが現状だ。

 本当に全員が全員出て来れてないかは分からない、俺達みたいにこっそりとダンジョンから生還している人もいるかもしれないが情報が無いから確認のしようがない。

 日本でも立ち入りを制限している警察と自衛隊の目を盗んで少数の人達が塔に入り込んでいるが、1人として帰ってきた人はいない。

 世界中のテレビのニュースやワイドショー、新聞、Y○uTuberが連日取り上げて注意喚起、色々な情報を流しているが、入る人は後を絶たない。

 因みに塔が出来た時から世界中の言葉が統一され、世界の現状を言葉、文字が分からない人達でもしっかりと理解できる事ができるようになっているためSNS等での情報の共有がしやすくなっている。


「ルキちゃんの事も気になるしね、本当にこれからどうなってくんだろうねー」


「そうだよな、まさかルキもあんな事になるしな……」


 楓の言うルキとは、俺のキーメイカーで作った鍵で入ったダンジョン内で出会った自称“王で神”のロリっ子だ。

 会った当初はどうにも怪しく信用出来なかったが少しの間、一緒に生活をしたりダンジョン攻略でアドバイスや助けてもらう内になんやかんやもう俺達の大切な仲間だ。

 まだ何か隠してる所はあるように感じるが、それもその内教えてくれるだろうと思っている。


「ん……? 解、なんか黒塗りの車が田んぼ道に2台止まってるよ?」


「うお、何だあれ……こんな狭い田んぼ道によく入ってきたな、なにかの間違いで絡まれると怖いし、さっさと通り過ぎよう」


 俺達はそそくさと通り過ぎようとするが……。

 通り過ぎる前に黒塗りの車の後部座席のドアが開きスーツの男性がこちらに歩いてきた。


(めちゃくちゃ嫌な予感がするんですけど……)


「私、福井県警察で警察部長をしています斎藤 剛史さいとう たけしと申します。貴女は佐藤楓さんですね?」


 そう言い、斉藤さんという人は名刺を取り出しこちらに渡してくる。


「警察の方が俺達に何の様ですか?」


 楓を後ろに下がらせ、俺は不信感MAXで対応する。


「いきなりの事ですみません、こちらも少しでも早く確認したいと思いまして……。佐藤さん、貴女のホームページの事です。」


「えっ!? ああああわあわ……」


 楓はその言葉にえらく動揺してあわあわしている。

というか、あわあわと言っている。


「間違いでしょうか? MapleSu」

「わーわーわー! 分かりました、私です、それ私ですので、もう言わないでください!」


「楓、どうしたんだ? めいぷる……?」


「解! 先に帰ってて! 私はこの人と話があるから!」


「そんな事させれるわけ無いだろ! 何されるかわからんぞ……」


 俺はヒソヒソと楓に言う。


「ああああ……どうしてこんな事に……」


 楓は頭を抱えて唸っている。


「私はそちらの南條さんも、ご一緒で構いませんよ」


 俺の名前も調べられているか……。


「分かりました、俺もついていきます」


 そうして俺達は2台あるうちの後ろの方に乗り込み近くの喫茶店に向かう。


 カランカランとドアを開け「いらっしゃいませー」という声を聞き、店内に入る。

 席に座ると斉藤さんは口を開く。


「突然の事で本当に申し訳ありません、ただ楓さんのお家の方へ行くと、ご家族の方が驚かれると思い、この様な手段を取らせていただきました」


「それで、どういった用何ですか?」


 俺は楓の変わりに斉藤さんに尋ねる。


「ええ、楓さんのホームページに書かれていた内容が少し気になりまして……」


 楓のホームページ?


「解、私時々ネットで日記みたいなの書いてて、その事で今こちらの斉…藤さん? が訪ねてきてる感じなの」


「日記? もしかして楓……」


「もちろん、個人を特定できるような内容は書いてないし〈天啓〉の詳しい情報も書いてないよ……」


 俺達はコソコソと話す。


「ええ、本当に申し訳ないんですがホームページの書かれている元を少し強引に調べさせてもらいました。少しでも早くお聞きするべきだと判断したので……」


「それで斉藤さんは俺達……というか楓になにを聞きたいんですか?」


 斉藤さんは近くに店員や客がいない事を確認した後、


「ずばり聞きます、貴方達は塔に入った事があり、そして帰還した経験をお持ちですか?」


 斉藤さんはまっすぐどっしり俺達を見て言葉を発した。


(これ……返答次第じゃかなり面倒くさいことになりそうだな……) 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る