キーメイカーの学園無双

 俺の名前は南條 なんじょう かい


 最近、我が家に自称王で神のロリっ子“ルキ”が転がり込んできて同居する羽目になった系のどこにでもいる平凡な男子高校生だ。

 今日も俺は目立つ事なく学生生活を送るはずだった。

 そう、送るはずだったんだ。


「君かい? 最近、佐藤楓さんとよく一緒にいる芋って言うのは」


 芋!?

 おいおい、芋って酷い言い草だな。

 ちなみに“佐藤 さとう かえで”と言う人物は、俺とよく行動を共にする頭はちょっとどうかはわからないがそれ以外は完璧系幼馴染だ。

 目の前にいる変なのは中々にムカつくけど、面倒だし適当にあしらって関わらないようにしよう。


「芋はいいぞ、芋は。主食にもなるし、おかずにもなる、美味しいし何よりリーズナブル。庶民の味方だ。では俺は授業があるのでこれで」


「ちょ、ちょっと! 待ちたまえ! 君は佐藤楓さんと付き合ってるのか!?」


 こいつの名前は、鳳凰院 叶望ほうおういん かのん

 スポーツ万能、容姿端麗、頭も良くて、ファンクラブまである、高スペック野郎だ。

 元々こいつと俺はスクールカーストの上位と下位で、関わった事はあるはずもなかった。

 そんな男が珍しく俺に話しかけてきたのだ。


「付き合ってないよ、楓は小さい頃からの幼馴染で家も近いから帰り道が一緒なだけだ」


 最近はダンジョン云々でいつも一緒だけど……。


「よかったぁ……ハッ!? ま、まぁ大体君程度の男が佐藤楓さんと付き合える筈も無いとは思っていたけどね! 君と佐藤楓さんとじゃ釣り合わないから早く身を引く事を提案するよ」


 おい、ちょっと素を出すな素を。

 てか何だこいつ、さっきからめちゃくちゃ失礼だな。


「なんでそんな面倒くさいことしなくちゃいけないんだよ、授業始まるから俺はもう行くぞ」


「ま、待て、逃げるのか!? 勝負だ、この僕と勝負しろっ! そして負けたら君は潔く佐藤楓さんから身を引くと約束しろ!」


 おい、そろそろ俺も我慢の限界だぞ?


「あ? なんでお前の提案に乗らないかんのだ? そもそも俺には何にもメリットがないだろ?」


「ふふっ……そう言われると思って、ここに最新の4K100インチテレビ(60万円相当)を用意した! 君が勝った暁にはこれをやろう!」


 はっ!? いやなんでテレビ!?

 どうやってこんなデカイものをこの学校の廊下に運んできた、ここ2階だぞ!?

 てかやけに景品豪華だなっ!?

 色々おかしいだろ!?


 こいつに色々とツッコミたいという衝動を抑えていると、


「君が今テレビを欲しているのは知っている。あの地震で壊れて、今は古いテレビを使っているんだろう? ちゃんとリサーチ済みだよ!」


 いや怖ぇよ……なんで知ってんだよこいつ……。

 こいつだめだ……警察に通報するか……?(スマホトリダシ)


「待ちたまえ! 警察に通報だけは駄目だ! 洒落にならなくなる! 頼むもうしないから!」


 えぇ……この慌て様、こいつ“リサーチ”って何をしたんだ……? まじでこいつとは絶対に関わったら駄目なやつだろ……。



(………うーん)



 でもどうせ、いつまでもつきまとわれるしだろうし、俺は面倒くささとテレビ欲しさからこの勝負受ける事にした。


「まあ、受けてやらん事もないが……お前から勝負を仕掛けるという事は俺が勝負方法を決めても良いんだな?」


「ふっ……スポーツ、容姿、勉強に人気。どれを取っても僕が上、しかも君は〈天啓力〉が10なんだろ? 僕に勝てるものなんて1つとして無いよ! はははぁ!」


 それにしてもこのイケメン、ノリノリである。


「分かったよ、じゃあ勝負方法を決める。……勝負方法は“垂直跳び”だ」


 すると鳳凰院はクックと笑う。


「それでいいのかい? 跳躍という身体能力をフルに試されるもので僕に勝とうなど、チャンチャラおかしいね! はははあ!」


 チャンチャラ……。


「分かった分かった、じゃあ放課後に体育館でな」


「逃げずに来なよ、まあ僕の勝ちは揺るがないけど」


 笑いながら彼は去っていった。

 なんだこのおかしな事態は……。


 まあ奴には悪いけど、この勝負……俺の負けはありえない。

 このゲームには必勝法がある……。

 レベルという抗えない力の暴力を使ってなぁ……。


 俺はあの天才詐欺師を演じるイケメン俳優よろしく、不敵に笑いながら次の授業がある理科室へと向かったのだった。


 放課後になり俺は約束通り体育館へ行く。

 そこには鳳凰院だけではなく、取り巻きの女達も沢山いた。

 体育館の演台の方を見ると、デカデカと飾られてる“愛しの叶望様VS芋”という横断幕の下に100インチテレビがこれみよがしに飾られている。


(何でこの学園はこんな自由が許されているんだ、頭おかしいんじゃねーの?)


「えー、あんな芋が叶望と勝負するの? 相手になってないでしょw」

「チョベリバー!」

「叶望様! あんな芋は早く倒してアル・プラザ○ミに遊びに行きましょう!」

「きゃー、叶望さまあああ!!」


 なんだこれ、この世の地獄か?


「フフッ……悪いね南條君。僕はついてくるなと言ったのに……この仔猫ちゃん達は随分聞き分けが悪くてねぇ!」パチッ☆


「「「キャーッ!!!」」」


 奴はウインクをした後、白い歯を見せながら笑っていた。

 あの白い歯を1本ずつ引っこ抜いてやろうか?


「分かった分かった、早く終わらせよう」


「良いのかい? そんなすぐ終わらせて」


 そう言い彼は垂直跳びを測る為に壁まで歩く。

 壁に対して横向きに立ち、 壁側の腕の手に取り巻きが持っているチョークの粉を付け壁側の腕をまっすぐ拳上する。

 そしてその場で膝を曲げ、腕を振り……。


「へぁあああああああああ!!!!!」


 えらく気持ち悪い声を出しながら垂直跳びをした。


「はあ……はぁ……。どうだった!?」


 鳳凰院は取り巻きの1人に審判をさせてたようで、記録を聞く。


「鳳凰院 叶望様。垂直跳び……92cm!」


「「「きゃーーーーーーー!」」」「チョベリグー!」


 取り巻きからの黄色い声が俺の体を突き抜ける。

 チョベリグ? ってなんだ?


「はあ……はあ……どうだ、敵うわけもあるまい……はあ……はあ……」


 いや、垂直跳びでいつまで疲れとんねんこいつは。

 俺は鳳凰院の垂直跳びが終わった後、床に投げ出されっ放しになっているチョークの粉が入った箱に手を突っ込みチョークの粉をつけると、


「じゃあ飛ぶよ、ほい」


 軽めに飛んだ。


「芋。垂直跳び…………110cm……」


「「「………」」」


「あれ、俺なんかやっちゃいましたか?」


(俺もこの言葉をリアルで使う日が来たんだな……しみじみ)


「おかしい、おかしいおかしい! おかしいだろ! 高校生が、しかも大してスポーツも出来ない奴が! そんなに飛べるはずがない! 不正だ、不正をしたんだ!」


「おいおい、そう思うなら調べてみろよ」


 そう言って俺は制服のズボンの裾を上げる。

 鳳凰院は近づいてきて俺の足をくまなく調べる。


「特になにもおかしなところは、ない……」


 この勝負の結果が信じられないと言ったかのように取り巻きからの悲鳴と俺に対する罵声が聞こえる。


「まあ、これからは人を見た目で判断するなって事だな。テレビは貰ってくぞ」


 俺は体育館の演台に飾られている100インチテレビを頂くため歩き出す。


「南條君!」


 あ? まだ何かあるのか?

 認めない、再戦だとか言ったら本気でキレ……


「テレビを持って帰る時は……体育館の外に運転手付きのトラックを用意してある。それを使うといい……」


「あっはい、ありがとうございます」


 こうして俺は最新の100インチテレビを手に入れたのである。

 そこに丁度、楓がやってきた。


「あっ、解! こんな所にいたの? 早く帰ろうよー! ルキちゃん待ってるよー。てか、どしたのそのでっかいテレビ!」


「ああ、あそこにいるイケメンから貰ったんだ」


 俺と楓はがっくり膝を落とし、四つん這いで悔しがってる鳳凰院を見る。


「ふーん。じゃ、帰ろっか」


 楓はゴミを見るような、めちゃくちゃどうでも良さそうな顔をしている。


「あ、俺帰りはこのテレビをトラックに乗せて帰るから一緒に楓も乗ってくか? ついでに自転車も乗せてもらおう」


「本当!? ラッキー!」


 その光景を見てか、後ろの方から凄い歯ぎしりが聞こえるが、俺は知らないふりをしてその場を去る。



 俺達はトラックで家に帰り、「何事か!」とびっくりするルキを尻目にテレビを設置し、その後俺と楓とルキでめちゃくちゃ(大画面で綺麗な映像が映る)テレビを見た。






 たがこの時俺は、これから起こるであろう学園での苦難をまだ知る由もなかったのだった……。




To Be Continued……

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