第十六話

 俺達は“か弱いウサギの鍵”のダンジョンから帰ってきてすぐ普段着に着替えて、ダンジョンの成果を確かめる。

 まずはステータスからだ。



【名前】南條 解


[レベル]7

[職業]なし

【天啓】キーメイカー☆0、鑑定(初級)☆2、幸運☆1

【天啓力】384

[HP]48

[MP]16

[筋力]31

[敏捷]27

[魔力]13

[運]65



【名前】佐藤 楓


[レベル]5

[職業]なし

【天啓】治癒師☆4

【天啓力】913

[HP]47

[MP]24

[筋力]26

[敏捷]34

[魔力]38

[運]17



 楓の〈天啓力〉から計算してモンスターを倒して得た〈天啓力〉は54。

 幸運の〈天啓〉で得た〈天啓力〉は100であることが分かった。


(オーブから得られる〈天啓力〉は☆の数×100なのかも)


 それから、ドロップしたアイテムを確かめる。


【魔石(極小)】×17

【魔石(小)】×1

【薬草】×1


 魔石(小)はボスラビットを倒した時に、手に入れていた。



「さっそく、ネェガさんの道具屋に行こうか!」


 俺達はトイレのドアの前に立ち、“小さな道具屋の鍵”を使ってガチャリとドアを開ける。


「いらっしゃい……ああ、お前らか。2週間ぶりくらいか? 久しぶりだな」


 ネェガさんはカウンターの向こう側に座って何やら作業をしていた。


(2週間……?そっか、こっちは時間の進みが早いんだったな)

「こんにちは、今日は魔石を持ってきたので買い取って欲しいんです」


「ほう、魔石を持ってきたのか。では査定するから魔石を出してくれ」


 俺はマジックバッグから魔石を全て取り出す。

 すると。


「お前っ……マジックバッグを持ってるのか!? ……良ければ、それを俺に売ってくれないか!?」


 ネェガさんは目を丸くして俺に言ってくる。


「あっ、このマジックバッグ……たまたまダンジョンで見つけたんですけどやっぱり珍しいんですか?」


「珍しいなんてもんじゃ無いぞ、遥か昔にはマジックバッグを作れたという記録は残っているが、今じゃその製法は失われてもう誰も作る事が出来ないんだ。だから収納出来る量が少なくても莫大な値が付く」


「ほんとですか!? 因みにこのマジックバッグはどれぐらいするんですか?」


 俺はネェガさんにマジックバッグを渡す。


「そうだな、見た感じ収納出来る容量は小……といったところか。それならこれは最低100万ディルはするな」


「「100万ディル!?」」


 俺達は声を揃えて驚く。

(って事は日本円に換算して1000万円!? 凄えもん手に入れてしまった……)


「ああ。もちろん最低で、だ。オークションに出せばもっと値が付く可能性が高い。どうだ? 俺に任せてみないか?」


 ネェガさんはニヤッと笑い、こちらを見てくる。


「ぐぬぬ、と……とても興味深い話ですが遠慮しときます。その方が良いよな、楓?」


「うん……一瞬目がくらんだけど、それだけの価値があると思うしこれから色々重宝するだろうから売らないほうがいいと思う……」


 楓も断腸の思いで断る。


「まあそうだろうな。もしいらなくなったら一番に俺に言ってくれよ。」


 マジックバッグの話が終わると、本題の魔石買い取りに入る。


「極小の魔石17個と小さな魔石を1個。しめて270ディルだな」


(あれ、あれだけ倒しても2700円なのか)


「マジックバッグの後だと何だかしょぼく感じちゃうね」


 楓は残念そうにつぶやく。


「この大きさの魔石はありふれているからどこへ持ってってもこんなもんだぞ。これより大きくなるとあまり出回らなくなるから値段もぐんと上がるけどな」


「あっ、関係無い話で申し訳ないんですけどステータスにある[職業]ってどこで転職できるんですか?」


「ああ、[職業]はこの国じゃ転職できないぞ。転職出来るのはゴクラの国だな」


「ゴクラの国……か」


 いつか行けるといいな。


「ありがとございます、そう言えばネェガさん。ダンジョンで薬草を見つけたんですがどうやって使えば良いんですか?」


 俺は薬草の事を思い出し質問する。


「あ? んなもん患部に貼るか、食うかだぞ。味はめちゃくちゃ不味いがな。てかお前らマジックバッグ持ってるくせに薬草の使い方も知らねぇのか?」


 ネェガさんは怪訝な顔をしてこちらを見てくる。


「は、はは、ははは」


 俺は焦ったのか喉の乾きを感じ、マジックバッグから“ロー○ルさわやか”を取り出し飲む。

 キンキンに冷えたままマジックバッグの中に入れたから、今もしっかり冷えている。

 その様子を見たネェガさんが興味深く聞いてくる?


「何だその不思議な容器に入った飲み物は?」


「俺達の生まれた土地で有名な飲み物ですよ“ロー○ルさわやか”って言います、ちなみに容器の名前はペットボトルって言います」


「ろーや○さわやか……ぺっとぼとる……」


 ネェガさんはじっとこちらを見ている。


「良ければ1本どうですか? これからお世話になると思いますし、お近づきの印に」


「いいのか? すまねぇな、催促したみたいで」


「あ、私もちょうだい」


 楓にも渡し、美味しそうに飲んでいる。


 ネェガさんは“ロー○ルさわやか”を飲もうとするが、蓋を開けられないようなので開け方を教えて開けてあげる。

 飲む瞬間、一瞬躊躇したような素振りを見せるが、すぐグイッと一口飲む。


「な、なんだこれ! 果実水より味が濃く甘いのに後味がスッキリしてて尚且つ、エールの様なシュワシュワも楽しめる! お、おい、頼む。これを俺に売ってくれないか!」


 えぇ…めちゃくちゃグイグイ来ますやん……。

 マジックバッグを譲って欲しいと言った時より圧が凄い……。

 ただ分かる、分かるよぉネェガさん。

 俺は嬉しくなってマジックバッグにある残りの4本全てを出した。


「今は4本しか無いですが、良い値段で買い取ってくれるなら、また次来た時に持ってきますよ」


「ほ、本当か!? そうだな……200。1本200ディルでどうだ!?」


「「え!? 1本200ディル!?」」


 俺達は買い取り値段にびっくりする。

 これ1本2000円は流石に高過ぎる。


「足りないか!? 分かった、2倍の400出すから売ってくれ!」


「いやいやいや、200で大丈夫です! 200でお願いします!」


 そう話が決まると、ネェガさんはすぐ800ディルを渡してきて嬉しそうに“ロー○ルさわやか”を眺めている。


(そこはかとなく商機の香りがする)


「解。このご時世、転売は印象悪いよ」


「うっ……!」


 楓に痛い一言を言われる。

 なんで考えてた事が分かったんだ!?


「ただ、これを利用しない手はないよね……?」


 楓さん、貴女めちゃくちゃ悪い顔してますよ。


 そんなやり取りを終え、俺達はついでに下級ポーションを4つ購入した後、道具屋を出て俺の家へ戻る。


「まさか“ロー○ルさわやか”が1本200ディルで売れるなんて……」


 楓が呆気にとられた顔をしながら言う。


「モンスター倒して魔石集めるより安全で簡単にお金集まるよな……」


 手元に残った670ディルをジッと見つめる。

 ちなみに、10ディル、100ディル硬貨で渡してもらった。

 他にも硬貨があるみたいだ。




 この後、残りのダンジョンに潜ってステータス上げと魔石集めをする予定だったのだが、俺達は無言で頷き合い“ロー○ルさわやか”の売っているスーパーまで自転車を漕いで、24本入りの箱を2箱購入し、必死で家まで持って帰ったのだった。

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