第十五話
「じゃあ、ダンジョンに入るぞ」
俺の言葉に楓は頷く。
俺はトイレのドアに手をかけ、ガチャリと開ける。
するとそこには“儚きスライムの鍵”のダンジョンと似たような洞窟が続いていた。
今回は“か弱いウサギの鍵”を使い俺達はダンジョンに入った。
ただ前回と違う点はダンジョンから帰還する為のドアがあるという点だ。
「普通に帰れそうだな……何かいよいよ塔の必要性が無くなってきたんじゃないか?」
「何で塔ではすぐ外に戻る事が出来なかったんだろうね?」
俺と楓は暫く考えてみるものの、答えが出ず諦めた。
「ここでこんなことしてても時間が過ぎるだけだし、進もうか。」
「そだね」
そう言って洞窟の奥に進む。
進む事5分、洞窟の横穴から小さいウサギが現れた。
「あ、解。横穴からウサギさんが出て来たよ」
「ちょっとまって、鑑定で調べてみる」
俺はすぐに鑑定を使う。
【ベビーホーンラビット】
「どうやら、ベビーホーンラビットっていうモンスターらしいな」
「ベビーホーンラビットって事は頭に角があるのかな?」
そう会話していると、そのベビーホーンラビットは俺達に気づき、俺の方へ小さな角を突き出し突進をしてきた。
「うわっ!」
いきなりの事で焦ったが俺はその突進を躱し、腰に付けていた特殊警棒をシャキンと伸ばし、横薙ぎにウサギを攻撃する。
ウサギは「キュッ」と言って倒れた後、動かなくなったと思ったら、そのまま洞窟に吸い込まれるように消えてしまった。
「スライムと同じで消えるんだな。てかいきなり攻撃してきたな……」
「そうだね、ただスライムと一緒で一撃で倒せるのはいいね! ……あ、ほらこれ見て、これが魔石なんじゃない?」
楓がウサギが消えたところを調べると、とても小さい菱形の石を見つける。
大きさは3cm程、色は薄い紫色でキラキラして綺麗だった。
【魔石(極小)】
鑑定で調べると、それは魔石だと分かった。
「……うん! やっぱり魔石だ。前回スライムを倒した時もしっかり調べておけばよかったなぁ〜!」
「何も知らなかったんだし仕方ないよ。これからはしっかり回収してこー!」
「そうだな、過ぎたことを悔いても良いことないな。ガンガン倒してこう!」
そう言って俺は魔石を腰に下げたマジックバッグに吸い込ませる。
今回いつものバックパック(45L)から“静かな宝の鍵”で手に入れたマジックバッグに変えた事により、嵩張らないし重くないしで本当に助かっている。
これからダンジョンで色々なアイテムが手に入ると思うとワクワクして堪らない。
そう考えている内にまた目の前にベビーホーンラビットが現れる。
「解、今度は私が戦うね」
楓はズイッと前に出る。
「怪我しても治癒を使えばいいとか思って、油断はするなよ?」
「分かってる、〈天啓力〉が減ったら嫌だしっ!」
そう言って楓は駆け出す。
素早くベビーホーンラビットに近づき、特殊警棒で殴打する。
ベビーホーンラビットは何も出来ず倒れ、その場には小さな魔石だけが残った。
正直俺よりスマートに戦えている、なんか楓って何でも平均以上にこなすよな……。あ、勉強はそうでもなかったっけか?
その後、俺達は危なげなくベビーホーンラビットを倒していく。
15匹目を倒すか倒さないかという頃に、いきなり目の前に宝箱が現れる。
「!? 楓、宝箱が出てきたぞ!」
「あー! ほんとだ! もしかして敵を倒しても宝箱が出てくるのかな?」
「そうなのかも……開けてみるぞ……?」
そう言って俺は特殊警棒の先で宝箱をつついて開ける。
罠があった時の為に用心は必要だ。
「解……ちょっとかっこ悪いね。」
楓はプスプスと笑っている。
「おいっ! かっこ悪いとは何だ、安全の為だよ安全の!」
「ごめんごめん、んで中身なんだったの?」
「ったく、人が真剣なのに笑うなよなぁ…。おや?」
中身を確認すると、1枚の葉っぱが入っていた。
まさかこれは……。
俺はすぐ鑑定を使う。
【薬草】
「やっぱり薬草だ! ほら楓、薬草を手に入れたぞ!」
「凄い! けどどうやって使うんだろう……?」
楓が顎に人差し指を当て小首をかしげる。
「こういう時のネェガさんだろ、次行った時は魔石売るついでに色々聞こう」
「おー、道具屋に行く時が楽しみだね!」
そういうやり取りをしながら目の前に出てくるベビーホーンラビットを倒し、俺達は一本道の最奥、大っきな扉の前まで着いた。
「例のごとく、ボス部屋なのかな?」
楓がマジックバッグから取り出したミネラルウォーターを飲みながら聞いてくる。
「多分そうだろうな、しっかり休んでから挑もう。装備を整えたからといって何があるか分からないし、油断せずにいこうな。」
俺達は休んだ後、目の前にある大っきな扉を一緒に開ける。
スライムのボス部屋と同じ様な広さの部屋があり、松明の炎もユラユラと揺れている。
部屋の中央には、さきほど倒してきたものより一周り大きく15cmほどの角を持ったウサギがデンと座っていた。
俺はすぐに鑑定を使う。
【ホーンラビット】
「なるほど、このウサギはホーンラビット。ベビーが無くなっているから成体なんだろうな。」
「解、二人で攻めよう。私が先に行って隙を作るからその隙をついて倒して!」
「お、おい。危ないぞ楓……」
俺が止める間も無く楓は走り出す。
俺もすぐに走り出し楓を追う。
ウサギも向かってくる楓に飛び跳ねながら角を突き出して迎撃する。
楓はホーンラビットの突き出してくる角に上手く特殊警棒をぶつけ、動きを止める。
「解! 今だよ!」
楓が叫ぶ。
「よし! まかせろ!」
俺は空中で動きの止まったホーンラビットの胴体に思い切り特殊警棒をぶつける。
吹っ飛んだホーンラビットは短い断末魔をあげた後、ダンジョンに吸い込まれる様に消えた。
「楓、ちょっと頼もしすぎないか?」
俺は呆れながら楓を見る。
楓はエッヘンと胸を張り答えた。
ホーンラビットが消えると、スライムのダンジョンのときと同じく魔法陣と、宝箱が出てきた。
「やっぱり魔法陣と宝箱は出るみたいだな。お、ボスの魔石は今までよりちょっとでかいな。」
俺がボスウサギの魔石を拾う頃には楓は既に宝箱に手をかけていた。
(なんという素早い身のこなし……なんという宝箱への執着心……)
「さあ、何が入ってるかなぁ〜。…あ! 解、前と同じビー玉だよ!」
!?
「またあのビー玉が出たのか!?」
俺はてっきりあの〈天啓〉が降りるビー玉はレアで、たまたま手に入ったのだと思っていたのだが、こうもあっさり出ると別に大したレアアイテムでも無かったのかと考える。
すぐに近くに行き、鑑定を使いそのビー玉を見る。
【天啓のオーブ(幸運)】
「このビー玉の名前は“〈天啓〉のオーブ”って言うらしい、名前の後ろには幸運と書いてあるから、幸運の〈天啓〉が手に入るのかもな」
俺は楓に伝える。
「えー! 幸運とか最高じゃん! 私が使ってみてもいい!?」
楓は目をキラキラさせて聞いてくる。
「ああ、もちろん。前回は俺が使ったからそれは楓が使うといいよ。」
楓はやったー! と言い宝箱に入っている天啓のオーブを取り出す。
しかしそれはいつまでたっても楓の体に吸い込まれず、うっすらと光り続けている。
「なにこれー! 壊れてるんじゃないのー?」
プンプンという擬音がぴったり似合う様に楓は怒っている。
「なんで使えないんだ? ちょっと貸して。」
俺が楓の手からオーブを手渡された瞬間、一段とそのオーブが輝き出す。
そして光となったオーブが俺の体に吸い込まれていく。
『南條解に新たな〈天啓〉が降りました。南條解は幸運を習得しました。』
(あっ……)
「まただぁ……また解の方にビー玉が吸い込まれてっちゃったぁ……」
楓はがっくりと落ち込んでいる。
「なんでだ? 鍵を作った本人じゃないと〈天啓〉のオーブは使えないのか?」
俺はそう考えるも答えが出るわけもなく、がっくりとうなだれている楓を連れ、魔法陣の前に行く。
「元気だせよ楓、オーブ使わなくてもまだまだ俺より〈天啓力〉高いだろ?」
俺は楓を何とか慰めようとする。
「そんなこと言っても、これから解どんどん強くなってくじゃん…私置いてかれちゃうよ。解〜、私を見捨てないで〜。」
楓は大げさにすがりつく素振りを見せる。
「当たり前だ、俺は絶対に楓を置いていかない。命を懸けて約束する。」
俺は真剣に答える。楓を見捨てるなんて事は絶対にしない。
楓は俺の方を見て少し間があった後、“うん……”とだけ答えて顔を逸らす。
(あれ? めちゃくちゃ気まずい! そんなにオーブ使えなかったのが嫌だったか!?)
「てかどうする!? この魔法陣に乗ったら家に帰れるんじゃなくて、雄島の塔に飛ばされたりしてなっ?」
俺は空気を変えるために少しおどけてみる。
「え、それめちゃくちゃ面倒くさいじゃん。やだよそんなのー!」
楓は元気よく答える。
よかった、いつもの楓だな。
そう言い合いながら俺達は魔法陣に飛び込む。
もちろん、飛び込む時の掛け声は“せっ!”で飛ぶ、いっせーの、せっ!だ。
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