第8話
「なんて清々しい朝なんだ!」
俺はパチリと目を覚まし体を起こす。
スマホを見ると時刻はもうすぐ12時を回ろうとしている。
昨日の夜から12時間以上寝て俺の心と体はバッチリ回復していた。
「いや、もうお昼だし」
!?
「楓さん!? なんで俺の部屋にいるの!?」
ちょっと楓さん、いくら幼馴染でもストーカー行為は流石に俺もひくよ!?
「人をストーカーみたいな目で見ないでよ……ほら、自分のラ○ン見て」
俺は怪訝な顔をしてラ○ンを開く。
そこには楓から『おはよー、起きてる?昨日の事で話がしたいから今から解の家行っていい?』というラ○ンに『いいよ』としっかり返信していたのだ。
(俺はいつの間に返信していたんだ……)
「ほらね、大方寝ぼけて返信してたんでしょ? チャイム鳴らしても出てこなかったから植木鉢の下の合鍵使って入らせてもらったよ」
「それは申し訳なかった、どんだけ待っててくれた?」
「1時間程かな? 勝手にマンガ読んでたよー」
そういうと、楓の手には本を持った主人公とマントを付けた子どもが表紙の漫画が持たれていた。
俺の所有している漫画の中でも一押しの作品だ。
「そのままもう少し読んでてもらっていいか? 俺シャワー浴びてくる。」
「おっけー!」
楓は漫画を読みながら答えた。
1階にある俺の部屋を出て階段を降りリビングを通って浴室へ向かう。
浴室に入りシャワーをサッと浴びた。
「ふぅ〜、さっぱりした!」
俺は下着のまま浴室を出てリビングにある着替えを取りにいく。
「あ、解……」
なんと、そこには2階にいるはずだった楓がソファに座りテレビを見ていたのであった。
「きゃああああああ!!!! 楓さんのえっちーーーー!!!!」
俺は思わず某人気ネコ型ロボットの漫画に出てくる女の子キャラよろしく元気よく叫んだ。
「いや、逆。普通は反応逆でしょ……遊んでないで早く着替えてよ」
「あ、はい」
どうやら話し合うため下に降りてきてたみたいだった。
着替えた俺と楓はそのままリビングのテーブルに座り、昨日の事を話し始めた。
「とりあえず昨日は塔の件、本当にお疲れ様でした」
俺が厳かに挨拶をする。
「こなれた社会人か。てか確認したい事いっぱいあるんだけど!」
楓は昨日の事を思い出しているのかやけに興奮気味だ。
それもそうだろう、あんな体験をしたら誰だってテンションが上がる。
俺だって正直めちゃくちゃテンションが上がってるからな。
「そうだな、一旦塔での話を整理しようか。」
俺達は昨日の体験を思い出しながら話をまとめる。
まとめた内容はこうだ。
・キーメイカーで作った鍵で塔の中のダンジョンに入れる。
・一緒にいた人も転移される。
・ダンジョンではモンスターが現れ、最奥にはボスモンスターがいる。
・モンスターを倒すと〈天啓力〉が増える。
・ボスを倒すと帰還する魔法陣と、〈天啓〉を習得するビー玉がもらえる。
・塔の中と外の世界では時間の進み方が違う。
「あーそうそう、それと鑑定っていう〈天啓〉が増えたな」
俺は〈天啓紙〉を出して、楓に見せる。
「あ、なんか新しく〈天啓〉が降りたって言ってたよね……え!? 〈天啓力〉が248まで上がってるよ!?
「ん? 楓も同じくらい増えたんじゃないのか?」
「あ、そういえば言うの忘れてたけど私の〈天啓力〉なんでか分からないけど減っちゃったんだよね」
「増えるならまだしも減るってどういう事だ?」
そう言うと楓も〈天啓紙〉を出し、こちらに見せてきた。
【名前】佐藤楓
【天啓】治癒師☆4
【天啓力】859
「あら、本当だな……なんで減ったんだ? 楓なんか変わった事したのか?」
「うーん、これと言って特別な事は……あ、もしかして治癒を使ったからかも」
「なるほど、確かにそれはあり得る。俺もキーメイカーで鍵を作った時〈天啓力〉を消費したからな」
「ちょっと確かめてみる!」
楓はそう言うと、俺に治癒を使う。
「お、おい……無駄遣いするなよ」
すぐに俺の体が緑の光に包まれる。
(くっ……母性が俺を狂わせるっ……!)
「楓、〈天啓力〉はどうなった?」
俺はそこはかとない母性を感じつつ、楓に確認する。
「あっ、やっぱり減ったよ。1回使うごとに20消費するみたい。」
(なるほど、〈天啓力〉は俗に言うMPの役割でもあるのか……)
「と言う事はモンスターを倒す以外で〈天啓力〉を増やす方法がまだ分からない以上、あんまり〈天啓力〉を無駄遣いしない方がいいかもしれないな」
俺はそう楓に告げる。
「なんで? 別に使っても大丈夫じゃないの?」
「〈天啓力〉が少し減る程度なら正直俺もそこまで問題視しないよ、けどもし治癒を連発しなくちゃいけない状況になったり、それこそ〈天啓力〉が0になってしまったら……現状〈天啓力〉が0になったと言う話は聞かないし何があるか分からないから無駄遣いはしない方がいいと思う」
俺の話を聞いて楓はなるほどなぁと頷いている。
(……ん? と言う事は計算するとあのビー玉で鑑定を手に入れた事で俺の〈天啓力〉が200も上乗せされたのか……? あのビー玉めちゃくちゃ凄いな!)
その時、テレビで流れていたお昼のニュースが一段と騒がしくなる。
俺達は何事かと思いテレビに注目する。
『ここで臨時ニュースです。自身の〈天啓〉を使って銀行強盗を企んだ男が人質をとり、今も銀行内に立てこもっています。現場には中継が繋がっています、現場の後藤さーん。』
全人類に〈天啓〉が降りて3日目、世界では現在自身の〈天啓〉を使い犯罪に手を染める人達が増えている。
日本ではまだ軽犯罪程度の事件しかなかったみたいだが、ついに銀行強盗までしでかす輩が出てきたみたいだ。
『はい、現場の後藤です。どうやら男は今、銀行職員を人質にとり……あっ、銀行強盗の男が人質を連れて外に出てきました!』
『早く金と車をもってこい! この女がどうなっても知らんぞ!』
映像では顔面にサングラス、上半身はタンクトップ、下半身はホットパンツのムキムキなおっさんが女性銀行職員にナイフを突きつけていた。
えらくキャラが立ってるな。
『俺はこの〈天啓〉で好き勝手やるって決めたんだ! おら!』
そう言うと、奇抜な銀行強盗のおっさんはナイフを持っていない方の左手を前に突き出し、そこから30cm程の水の玉を勢い良く撃ち出した。
そして警察や野次馬の人達に向けて何発も何発も水の玉を放ち続けている。
(あんなに連発したら〈天啓力〉が無くなっちゃうんじゃないのか?)
『ひゃっはーーー! 俺は無敵だー! ……あがっ!』
その時、奇抜なおっさんはいきなり苦しみながらその場に倒れた。
『現場の後藤です! どうやら銀行強盗の男は苦しみながらその場に倒れたようです! あ、今警察が男を捉えました! もう多分安心! ではスタジオにお返ししまーす!』
『現場の後藤さん、ありがとうございました。いきなり銀行強盗が倒れる事態になりましたが、どうしたのでしょうか……ただ、今の日本ではこういった自身の〈天啓〉を使った犯罪が増えて来ています、私達も〜……』
「解、これって……」
「ああ、多分……奴自身の〈天啓力〉が空になった、んだと思う。」
俺達は顔を見合わせて神妙な面持ちになった。
その後しばらくして、その男の死亡が発表された。
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