第6話

「あかーーーーーーーん!」


 部屋中に俺の叫び声が木霊する、なんと薄赤色のスライム達は俺にぴょんぴょんはねて攻撃してきたのだ!


「ちょいちょいちょい話が違う……話が違う!」


 走りながら弱音を吐く。

 スライムのスピード自体は人がジョギングする程の速さだが、それが3匹。

 結構な威圧感である。


「解ーーー! 大丈夫ーー!?」


 部屋の端っこで楓が心配そうに叫んでいる。


(そうだ……今は俺が標的になってるけど、いつ標的が楓に変わるかわからない。少し無茶をしてでも倒さないと……)


 走りながら後ろを振り返ると依然スライム達は俺を追いかけている。

 意を決して先頭の1匹に狙いを定め、俺は思いっきり蹴りを入れた。

 蹴りはしっかりヒット、上手く楓と真逆の方向へふっ飛ばす事に成功する。


(よし! この調子で……)


 その瞬間、もう目と鼻の先に2匹のスライムが迫っていた。

 俺は1匹目のスライムの体当たりをギリギリで躱した。が、2匹目の攻撃は避けられず右肩に体当たりを喰らう。


「があっ!!」


 おいちょっとまて、痛い……かなり痛いぞ……!

 右肩を殴られた様な衝撃が俺を襲う!

 これ何発も食らってたらかなりまずい……!


「こなくそー!」


 俺に肩パンの様な痛みを与えたスライムを思い切り踏みつけると、そのスライムは「ピキュ!」と鳴いて潰れる。


「1匹になったら対応できるんだよ!」


 3匹目のスライムの体当たりを躱し、スライムが着地したところを思い切り蹴飛ばす。

 スライムは壁にぶち当たりこちらも「ピキュ!」と鳴き声を上げてから溶けて消えた。


「ふぅ……結構危なかったな……」


「解……右肩大丈夫?」


 そう言って楓が俺に走って近寄ってくる。


「ああ、打ち身にはなるだろうけどね……3匹のスライムと戦うまで簡単にスライムを倒してたから少し調子にのってたよ、反省だな。」


「本当に心配したんだからね! 家に帰ったらお説教だ………解、後ろ! 危ない!!」


 俺は咄嗟に後ろを振り向く。

 すると一番始めに蹴飛ばしたスライムを仕留め損なっていたのか、それは目の前まで迫っていた。


 ドッ!


「ぐっ……!」


「解!」


 スライムの体当たりが俺の鳩尾に思い切り入り、立っていられなくなる。


(まずいまずいまずいまずい!!!)


 すぐ立ち上がろうとするが、鳩尾への衝撃で上手く立ち上がれない。

 スライムはまたこちらに狙いを定め、位置が低くなった俺の顔めがけて飛び掛かって来る。


(鳩尾に受けた様な衝撃を顔面に受けたら最悪、気を失うぞ……! 足動け動け動け!)


「ちょっと! 解に何すんのよー!」


 そう大声をあげると、俺の後ろから楓が飛び出しスライムに思い切りビンタをお見舞する!

 パアアアアアアン! と鳴り響いた音と共にスライムは10m程宙を飛び、壁に勢い良くぶつかった後、地面に落ちて溶けて消えた。


(えっ……なんか楓さん、力強くない……?)


「解! 大丈夫!?」


 見事なビンタを見て呆気に取られていたが、すぐさま我にかえり答える。


「ああ、まだ痛いけど歩けない程じゃないよ……てか楓、なんか俺より力強くない?」


「酷くないならいいんだけど……あー、さっきは無我夢中だったからよく分かんなかったけど、確かに普段より力込めれたかもしれない」


「もしかしたら……その強さって〈天啓力〉と関係があるのかも」


 俺は〈天啓力〉が身体能力の強さをブーストしているんじゃないかという仮説を立てる。

 そう考えないとあの男顔負けの力強いビンタの説明がつかない。


 その時……。



『パーティー2名が儚きスライムのダンジョンをクリアしました』



 俺の思考を遮るかの様にあの機械音声が頭の中に語りかけてきた。

 それと同時に部屋の中央に青白い魔法陣みたいな光る模様とその近くに宝箱らしき物が出現する。


「解! ダンジョンクリアって言ってるよ!」


「ああ、やっぱりあのスライム達はボスだったんだな。そしてクリアした特典で宝箱が出てくると。多分、流れ的にあの魔法陣のようなものは塔の外に出る装置なんだろうな……いてて」


 俺は鳩尾を抑えて立ち上がる。

 その様子を見て楓はハッとし、俺に提案してくる。


「私の能力で解を治療してみてもいい!?」


 楓は少し興奮した様子で言う。


「あ、そうか。楓の〈天啓〉は治癒師だったよな。〈天啓〉の使い方ってわかるのか?」


「うーん、分かんないけど……使えないとどうしようもないし試してみるよ」


 そう言うと楓は俺の方を向いて〈天啓紙〉を出した後、目を閉じ何やら考えこんでいる。

 



(んー、こうやってまじまじ見ると楓ってやっぱり可愛いn「出来るっぽい!」


「うわあああああ!! びっくりしたぁ!」


 楓が跳ねるように目を開ける。

(いきなり目を開けるな! 卑怯だろ!)


「何驚いてんの? さあ、さっさと治すよ」


 そう言うと楓は俺の鳩尾ら辺に触れ目を閉じる。

 すると緑色の光が楓の手から溢れ、俺を包む。


(なにこれぇ、あったか〜い……)


 これはもしや母性ですか?

 わたしは今、母性に触れているのですか?


「多分これでオッケーだと思う……て解、あんた何て顔してんの?」


 おっと、俺は気付かないうちに人に見せてはいけない顔をしていたのやもしれない。

 母性とは、さも恐ろしいものですな……(キリッ


「ん? あれ? 体が痛くない!」


 俺は右肩と鳩尾を触ってみるが全く痛みがなくなっている、それどころか洞窟の道を歩いて来た疲労感もなくなっている。


「凄いぞ楓! 攻撃を受けた痛みどころか疲労感までなくなってる!」


「うっそ! 自分にもやってみよ!」


 そう言うと、楓は自分に能力を使う。

 楓の体が緑色の光に包まれ、光はすぐにスッと消える。


「ほんとだ! 疲れが消えてる! めちゃくちゃ便利! すごーい!」


 楓はそう言いキャッキャと喜んでいる。


(自分にも使用可能か。治癒師ってめちゃくちゃ凄い〈天啓〉じゃね……? これバレたら、国が動くレベルだろ……)


「なあ楓、楓の詳しい能力の事は余り他の人に話さない方がいい。もちろん仲のいい友達にもだ。」


「んー? 解が言うならそうするけど……でもなんで? 治癒凄くない?」


「凄い、逆に凄すぎて面倒事に巻き込まれる恐れがある……と思う。それくらいすごい能力だと体験して感じた。だから安全の為にも口外しないほうがいいと思った。いやだろ? いきなり実験体になれとか言われたら?」


 俺は真剣な表情で伝える。


「こわ、怖い事言わないでよー! わかったよ、絶対言わない! ……それより解、あの宝箱開けてみようよ!」


 そう言うと、楓は先程出現した宝箱に近づき箱に手をかけた。


「お、おい。罠かもしれない、あぶないぞ……」


「えー、ボスを倒して出てきたやつだから大丈夫でしょ」


 いや、まあそうだろうけど……。

 楓はパカッ! と勢い良く宝箱を開け中身を確認する。


「ほら、大丈夫! うーんと中身は……何これビー玉?」


「本当に大丈夫なのか……? なんだそれ?」


 楓が摘んでもっているビー玉らしきものは、うっすら黄色に光り何とも幻想的だ。


「何だろね、……綺麗な光るビー玉? 解も触ってみる? ほい」


 楓がビー玉をぽーーーんっ! と放り投げてくる。


「ちょちょ、おい……いきなり投げるなよ」


 楓から放り投げられたビー玉を受け取った瞬間、ビー玉が強く光りだす。

 

『南條解に新たな〈天啓〉が降りました。南條解は鑑定(初級)を習得しました』


「んえ!?」


 俺はつい変な声をだしてしまう。


「どうしたの解? いきなりビー玉が強く光ったけど……てあれ、ビー玉消えちゃった!?」


「なんか俺に新しい〈天啓〉が降りたみたい……」



「えええ、どゆことーーーー!!!???」

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