第14話
「君は人を好きになれるかい?」
梟。梟。梟。梟。
聞き飽きたその名にどこか憎悪をにじませる。
「私はミカエル・ジョシュア」
燻んだ赤い髪と冷めたような青い瞳。大きな石に座り込むそのおとこは膝に肘をつき、手を組んでいる。
「君には尋ねたいことがあったんだ」
くいと、彼は目線を上げて囚われた者を見やる。
「梟。その存在を知っているかい?」
茶髪の色黒の肌の男。
鎖によって手足を繋がれている。鎖が巻きつくのは男の両手首と両足首、それと木に巻きついている。
フルフルと男は首を横に振る。
「そうかい。因みに私は人が大嫌いでね。博愛主義の梟とは仲良く出来そうにもなくてさ」
ゆっくりとミカエルは立ち上がる。
「それでも答えは結局同じなんだから、彼が殺したいほどに憎いんだよ」
その顔に微笑みをたたえる。だが、それは慈悲も慈愛もない、ただ笑みを浮かべるという行為でしかない。感情のない笑顔だ。
「それに、梟とかさ、誰も興味ないんだよ。こんな世界じゃ人が死ぬのは日常だ」
それはミカエルの言い分でしかない。
「そんな地球よりも死に満ち溢れた世界で、彼の与える死に果たして愛はあるのかな」
どこまでも意味のない問いであった。これが梟を信奉する者たちに聞かれては明確な害意を抱かれることを覚悟せねばならない。だが、当の本人である梟はきっと気にも留めない。
何故なら、梟は信じて疑わないから。
「私、ミカエル・ジョシュアは、いやーー
そんなものだから、どこまで行っても彼という存在は、変わらない。否定するために彼はいる。
「彼はきっとこの世界にいる。何より、そうでなければこの私が納得できない。ここ最近の自殺事件はそうであるはずだ」
ミカエルは縛りつけられた男に近寄り、男の右目の指を突っ込み、眼球を穿り出した。
「勝ち逃げは許さない」
そして抉り出した眼球をしげしげと見つめて、握り潰した。
目を抉られた男には痛みにのたうち回ることも許されず、苦悶の表情を浮かべるのみ。
「……君は私が必ず殺す」
それが彼の覚悟だ。
それを見ていたものがいた。森の中とあって木々の合間に隠れることは容易かったのだろう。
「できるかな……?」
聞きなれたような声がしてミカエルは振り返る。
そこにいたのは見覚えのある男。黒髪の傷だらけの男。声の質感、その面貌、どこからどう見ても梟である。
黒い前髪の隙間から覗く漆黒の瞳。男性にしては不健康と感じるほどに細い体。
「果たして君に私が殺せるかい?」
それと同時にミカエルは拭いきれぬ違和感を覚えた。
「梟、では無いな……」
ミカエルにはすぐに理解できた。
何もかもが違う。その見た目と、中身の差異に吐き出してしまいたくなるほどに。
「そもそもにして、私の前にその姿で現れるとは随分と調子に乗ってくれてるね……」
怒りに震える声が吐き出される。
「梟様の声がーー」
「彼はそんな事を言わない……!何故、分からないんだ……!君たちには愛がない……!その姿で梟様と呼ぶな……!」
否定が募り、そして、刃で穿つ。いつのまにかミカエルが右手に握っていた剣が、梟の姿をした紛い物の心臓を貫いていた。
剣は真っ赤な液体を浴び、ポタリぽたりと水滴を垂らす。
「ーーああ、全く。何故、梟を真似しようなんて思うんだ。真似できるわけないだろう。君たち如きがさあ」
天河芳は『梟』が嫌いである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます