第5話
少なくともこの世界にカシウスだけが転生したわけではない。
ただ、この世界に来てしまった者たちは不幸としか言いようがない。
それはこの世界に『梟』がいたと言う事が。
いや、一概には全てが全てそうであると言い切れないのかもしれない。その中に梟の信奉者がいるのであれば。
家の外の様子がおかしいと感じた少年は、家の扉を開けて外の様子を見る。
そこには赤がぶちまけられている。土に染み付いただけでは済まない、赤が鉄の匂いを充満させる。
目に生気のない者たちが首を絞め、斧を振りかざし、剣で切り裂いて、殺戮を繰り広げる。優しかった青年も、仲の良かった少女も全てが狂ったように壊れ壊されていく。
「同じだ……」
記憶には古い、それでも忘れるはずのない大きな事件。集団自殺事件。いや、その前に起きた自殺事件。
全ての元凶はたった一人だった。
ネット界隈を騒がせた『梟』と呼ばれた男。
「何で、また……」
梟がいる。
扉が開いていることに気がついたのか、白髪の少年は近づいてくる。
そして、目の前に立った彼は尋ねる。
「私を見ていたのかな?」
心臓が五月蝿く跳ね上がる。
扉を開いたまま、少年は後退る。
「いえ、見ていませんよ……」
「そうか」
じんわりと彼は汗をかく。知らない顔だ。彼がもともと知っていた梟は華奢な身体つきの男性で、黒髪と飲み込むような真っ黒な瞳を持つ男だった。
それでも、彼は目の前に立つ男を梟であると理解した。
「僕はこれで……」
彼は逃げ出そうとする。
「待ちなさい……。私はカシウス・オウル。君の名前は?」
「……アレン」
それだけ言ってアレンはその場から、村から逃げ出そうとする。この村は終わりだ。殺戮が蔓延り、そしてすべての命が終わる。
「少しだけ話を聞いて欲しいのです」
「…………」
「……君は何を恐れている?」
「…………」
彼は視線を合わせるためにしゃがみ込んだ。青い目が金髪、碧眼の色白の少年を捉えた。
カシウスの右腕はアレンの左頬まで伸びて、その掌で頬を撫でた。
「恐れる必要はどこにもない……」
優しく語りかけてくるカシウスに、アレンは気を許す事なく半歩、後ろに足を引いた。
「君はーー」
言葉が紡がれた。優しい声音だ。聞くものを引きつけるほどの何かが存在している。だが、聞いてはならない。梟から離れろ。
全てを聞く前にアレンは開きっぱなしの扉に向かい、逃げ出した。
カシウスに背を向けて逃げ出した。
「逃げてしまったか……」
少しばかりの悲しみを浮かべてカシウスは呟いた。処刑魔法を使うには距離が生まれ過ぎている。
「まあ、救いを乞うのであれば、また会うさ」
梟はその家を後にした。
その日、一つの村が壊滅した。それは地獄のような有様であった。
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