第4話
焦ったように駆け寄ってくる影があった。
「お前が殺したのか……」
カシウスを睨みつけながら、今し方、駆け寄ってきた青年は尋ねた。
「救われたんだ。君も救われるさ」
カシウスは青年の警戒心を振り払うように、優しく諭す。
「何で……」
「人は死を求めている。それはそこにいるご老人も、君も、私も同じだ」
「違う!」
「違わないさ。私はそれを発露させたに過ぎないんだよ」
白髪の少年がそう言って微笑めば、青年は犬歯を剥き出しにして、今にも食いかかろうという表情を浮かべる。
「耳を傾けなさい」
そうカシウスは語りかける。
その声に魔力が宿るのか。脳を揺らす声は感覚を歪め、混乱させる。
「は、い……」
従順な犬のようになった青年にカシウスはひとつだけ指令を出した。
「この村の住民を皆、救ってあげなさい」
それだけ言えば、青年は手近な家に入り住民を殺害しに行く。
カシウスはその間に複数人に同じように語りかけて、動かす。
「これだけいれば救えるさ」
その光景を満足げに眺めながら、小さくそう言漏らす。救いとは何か。それに迷う事はもうあり得ない。はずだった。
「ーー死んでも、死ねなかった。いや、前世に比べれば恵まれているから、これは救いと言ってもいいだろう」
やはり、死は救済である。
迷う必要はない。
今回は前回よりも、より多くの人間を救済する。それがこうしてオウルとして生き返った、梟の役割なのだろうと、カシウスは勝手に納得していた。
「梟からは逃れられない。仕方がないか。私は、梟は、死の象徴なのだから」
壊れゆく現実を救済として、生まれる血溜まりを感慨もなく見つめて、子供が沈んでいく。
救われていく。
それを見るカシウスの顔は恍惚としていて、狂気に満ちていた。
「カシウス・オウル……!」
村の入り口辺りで恨みのこもった声が聞こえて、カシウスはゆっくりと振り返る。
「誰ですか?」
なんて苦しそうな顔をしている。生きるのはさぞ辛い筈だ。救済しよう。
カシウスはそう考えると、トンと村の入り口に近づいた。
「よくも……、よくも父さんを!」
茶髪の小さな少年が、小さなナイフの先をブルブルと震えながらカシウスに向ける。
「ダメだよ」
彼は優しく注意の言葉を吐いた。
そして、彼は少年の警戒を解くように蹲み込んで視線を合わせる。
ただ、少年は気がつかなかった。自身の手に握っていたナイフが既にカシウスの手に渡っていたことに。
「え……?」
反応ができない。
ただ、胸のあたりに熱さを覚える。痛みを感じて少年は胸を抑えれば止めどなく溢れてくる赤が手を染める。
信じられない。まさか。
そう思いながら少年はカシウスを見る。少年よりも少しだけ年が上の男。
その手には真っ赤なナイフが握られていた。
「大丈夫だよ。君は救われる」
そう言ってカシウスは右手に持つ赤いそれを捨てて慈母の如く、少年の頭を優しく撫でる。
「死は救済だよ。ディア・コープス」
そして、カシウスは倒れ込む少年を抱きとめて優しく地面に横たえるのだった。
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